悪夢のはじまり6
東雲はいまだに話し続けているが、黙るのを待っていても拉致があかないだろう。そう思った俺は東雲に質問をした。
「俺はいま夢を見ているのか。」
口に出してから猛烈に後悔した。なんて間抜けな質問だろう。
これが夢であればいいと思った。それなら東雲なんて人物は存在しないし、俺の失態が他人に知られることはない。
「その通りですよ宮永さん。ご名答です!ご明察です!ここはあなたの夢の中。僕は少しお邪魔させていただいてるんです。魔術師の便利な技の一つでしてね。師匠はよく」
「ところで東雲はなぜ俺の夢にでてきたんだ?」
東雲が師匠の話を始める前に、彼の話を遮って質問を続ける。
「そうです!そうでした!用件を伝えるのをすっかり忘れていました。今日は宮永さんにお礼を言うためにきたんです。僕ね、鳥に襲われて宮永さんに助けられたあの時の子猫だったんです。命を助けていただきありがとうございました。」
東雲が頭を下げる。
なんとなく話が見えてきた。
「夢の世界だと元の人間の形を保っていられるんですけど、現実の世界だと可愛い子猫の姿になる呪いをかけられちゃったんです。あのときの師匠かなり機嫌が悪かったからなあ。せっかくならシベリアンハスキーとかにしてほしかったですよ。アレかっこいいもん。」
ピントのずれた感想を聞きながら考えを巡らせる。
呪いをかけられた魔術師が俺の夢に出てきたという可能性と、俺が頭の中でこんな変わり者をつくりだしたという可能性のどっちが高いだろうか。どちらもにわかには信じがたいが、後者は特に信じたくない。
「宮永さんはね、僕の命の恩人だから恩返しをしなくちゃなりませんよ。師匠がお礼をするのは一番大事なことだって言ってました!感謝を込めて、素敵な恩返しをしようと思います。折角ですから、最高の魔法をかけてあげますね!」
ん?最後の言葉を聞いて何か嫌な予感がした俺が止める前に、東雲は不思議な言葉を唱え始め、俺の意識は暗く沈んでいった。