悪夢のはじまり4
寮の部屋に戻ってすぐ置きっぱなしにしていたスマホを確認する。《学校に携帯電話などを持ち込んではならない》形骸化した校則を俺はなんとなく守り続けていた。ベッドの上のスマホには両親からのメールが届いていた。
寡黙な父と豪快な母。
見た目も性格も俺と父は瓜二つだ。
母は周りの目なんて気にせず常に我が道を行く。気の小さい俺とまったく似ていない。正直なところコンプレックスを抱いてさえいる。
俺が高校で寮に入ったのを期に、両親はイギリスで暮らし始めた。
母がいきなりイギリスに住みたいと言いはじめ、次の日には面接を受ける就職口のリストを作っていたときには、父も自分も反対しようとは思わなかった。作家である父はどこでも仕事はできるからと言って、母についていくことを決めた。
イギリスにいる両親からのメールを確認する。一週間に一回届くメールには、どこに行こうと逞しく人生を楽しんでいる母の様子が綴られていた。元気そうで安心すると同時に、自分はこうはなれないと悲観的な気持ちになる。
読み進めていくとメールは体に気をつけてという言葉で結ばれていた。添付された笑顔の父の写真を見てふと笑みがこぼれる。口下手な父からメールが届がない代わりに、母は毎回必ず最後に父の写真を添付していた。
写真の中の父は嫌々写っているのを隠す気もない様子だった。その気持ちはよくわかる。俺も写真に写るのは好きじゃない。きっと俺にメールしてないのを詰られて、写真くらい撮らせろと母にやり込められてるのだろう。毎週のことなのにいまだに嫌がる父と嫌がられても律儀に写真を送ってくる母の様子がなんだかおかしかった。
メールを返信した後は宿題を一通り終わらせて、いつものように寝る準備を早めに済ませた。一ノ瀬はまだ帰ってこない。多分他校の女子と遊んでいるのだろう。あいつがもし猫を撫でてたら女子が黄色い声をあげて喜びそうだなと、八つ当たり気味に考える。
じかに撫でることはできなかったが、子猫が夢に出てきたりしたら嬉しい。少し期待して眠りについた。