皇城攻防⑧
「そろそろだな」
「はい」
オルトの言葉にクルムが返答する。それを受け、オルトはザルブベイル全員に声を発した。
「皆の者待たせたな。これよりバーリング軍を殲滅する。誰一人として逃がすな!! 領民達の分も我らが報復を行うのだ!!」
『応!!』
「バーリングは小賢しくも正門を破ると同時に皇族達を保護しようとするだろう。それを許すのか!?」
『否!!』
「そうだ!! バーリングの名誉はすでに地に落ちた。あとは我らの誇りを踏みにじったバーリングとその一党を皆殺しにするだけだ!!」
『おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』
オルトの言葉に家臣達は雄叫びを上げる。自身の中から溢れ出す激情がそのまま音声化したかのような激しい雄叫びであった。
「一切の容赦をするな!! 奴等が我らに何をしたかを思い出せ!! それだけで奴等が容赦を受ける資格がないのがわかるであろう!!」
『うぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉ!!』
オルトの檄に家臣達の雄叫びがもう一段階上がった。もはや士気は最高潮だ。元々、報復を行いたくてウズウズしていたのだ。
オルトはそれを見てニヤリと嗤うとそこで一呼吸置く。それは限界まで矢を引き絞る行為に似ていた。蓄えられた力はオルトの言葉で放たれることになる。
「殺せ!!」
『ウォォォォォォォ!!』
オルトの言葉と共に家臣達は一斉に駆け出した。老若男女問わず一斉である。周囲に死者の騎士達を配置し一切逃げ道をなくしてからの攻撃開始であった。
正門に集中していたバーリング軍は突如襲いかかったザルブベイル一党に呆然とした表情を浮かべていた。何が起こったのか思考が追いつかなかったのだ。ようやく思考が働き出した時にはもう遅かった。
哀れな兵士は『敵襲!!』と叫ぶ前に家臣の剣に喉を斬り裂かれ血を撒き散らしながら崩れ落ちる。そのまま喉を斬り裂かれた兵士はザルブベイル一党に踏みつぶされ訳が分からないうちに命を失う事になった。
戦いは、いや一方的な蹂躙が展開されバーリング軍はわずか数分で秩序が崩壊する。
「ひぃぃぃぃ!! 助けてくれぇぇぇ!!」
「ぎゃああああああ!!」
「やめてくれぇぇぇえ!!」
それはもはや軍ではない。逃げ惑う羊さながらにザルブベイルの凶刃から逃れようとした単なる獲物であった。ザルブベイルの凶刃を逃れた兵士達はずらりと壁をつくるあの死者の騎士達の前に立ちすくんだ所に追いつかれてザルブベイルの凶刃の餌食となっていく。
「助けてくれ!! 降伏する!!」
そう言って跪いた兵士をザルブベイルの者は容赦なく顔を蹴りつけ顔面を踏みにじってから腹に剣を刺し込んだ。それはかつてバーリング軍がザルブベイルの者達にやったことでありザルブベイルの者達はその事を許したつもりは一切無い。
人によっては「自分達も同じになってしまう」という理由で復讐を行わない者達がいるのだが、ザルブベイルの者達にその感情はない。
ザルブベイルの者達にとってやられたことをやり返しているのであり、「自分達も同じになるからやらない」などという考えなど元々選択肢にないのだ。そのような目にあいたくなければそのような残虐行為を行わなければ良かったのだ。自分達はやっておいて慈悲を乞うという行為に心が動かされるにはザルブベイルの怒りは巨大すぎたのだ。
足を両断された兵士が少しでもザルブベイルから離れるために這いつくばって逃げようとした所を踏みつけられ戦槌で頭部をぐしゃりと潰される。
両手を潰された兵士が慈悲を乞うが槍に貫かれそのまま城壁に縫い付けられる。
両腕両足を押さえ込まれた兵士が戦槌で体の各部を潰され苦しみ抜いた所に頭部を潰される。
ありとあらゆる方法でザルブベイル一党はバーリング軍の兵士達を虐殺していった。その様子を守備隊は呆然と見ていた。
先程まで自分達の憎き敵であったバーリング軍であったがこの蹂躙劇に守備隊の者達は思考が追いつかなかったのだ。
発せられる絶叫はバーリング軍のものばかりであった。バーリングはその光景をただ呆然と見ていた。そして心の中で自分の計画が失敗に終わったことを確信していた。
「ここにいたか」
「ザルブベイル卿……」
バーリングの前にザルブベイル一党の党首とその家族が現れた。四人の姿は血で染まっておりここにくるまでに兵士達の多くが四人によって命を奪われた事は容易に察する事が出来る。
「なぜ、このような事を?」
バーリングの問いかけは冷笑によって報いられた。
「簡単な事だ。お前達をつかって遊ぶのに飽きただけだ」
オルトの返答にバーリングは二の句が継げないという表情を浮かべた。あまりにも理不尽な答えであるようにバーリングには思われたのだ。
「そうそうバーリング、貴様を使ったのはな。万が一にもお前が忠臣として名を残すことがないようにしたかったのだ」
「何だと?」
「お前ごとき潰すのは蚊を潰すよりも遥かにたやすい。だがそれをしてしまえば皇城の者共にお前が美化されてしまう可能性があったのだよ」
「何を言ってる?」
「殉国の忠臣という評価がお前に下されるのが嫌だっただけだよ。だからこそお前達は生きて皇城を攻撃してもらう必要があったというわけだ」
オルトの言葉にバーリングは顔を青くする。オルトの言わんとした事を完全に理解したのだ。
「我々を……贄にしたというわけか?」
バーリングの言葉にオルトはニヤリと嗤う。その嗤いこそがバーリングに自分の考えが正しかった事を確信させた。
「その通りだよバーリング君。これから皇城の者共は皆殺しにしてアンデッド化するつもりだ。君が救おうとした皇族など一人残らずアンデッドにしてくれる。君達は皇城側に絶望を与え、その後に皇城側の怒り、憎悪をその身に受ける贄としてこれから存在してもらう事になる」
「……」
バーリングはオルトの言葉を黙って聞いている。アルトとバーリングの会話の間もザルブベイルの者達はバーリング軍を蹂躙しており、部下達は捕まると地獄の苦しみを与えられていた。
「単なる苦痛を与えるという行為だとやがて憎悪の感情が薄れてしまう可能性があるのでね。君達のような裏切り者への憎悪は料理で言えば一種のスパイスとなるのだよ。負の感情は瘴気の原料になる。せいぜい我々のために質の良い瘴気を提供してくれたまえ」
オルトの言葉にバーリングはワナワナと震えていたがようやく口を開く。
「ならばなぜこのタイミングで我らを潰す? お前の目的なら我らに皇城を落とさせ、皇城の者達を虐殺させれば良いではないか」
バーリングの質問にオルトはさらに顔を嗤って返答する。
「おいおい、我々は皇城の連中を皆殺しにしたくてウズウズしているんだぞ。そんな一番美味しいところをお前らの様な贄に与えるわけないだろう? それにさっきもいっただろう。お前達で遊ぶのに飽きたとな。単なる遊びなのだから失敗しようが成功しようが嗤って済まされるというものだ」
オルトのこの一言にバーリングはついに激高し剣を抜こうと動く。しかし、バーリングの口から放たれた言葉は雄叫びではなく苦痛を多分に含んだ絶叫であった。
「がぁぁぁぁぁっぁぁあ!!」
クルムがバーリングの背後に回り込むとバーリングの足首の腱を切断したのだ。
「手癖の悪い男だな」
「ぎゃあああああああああああああ!!」
クルムはそう言うと右の膝裏に剣を突き立てた。またもバーリングの口から絶叫が響き渡った。
「バーリング、まずはお前の部下達が殺されるのをそのまま見ていろ」
オルトはそう言い放つとたまたま近くにいた幕僚の腕を掴むとそのままねじ切った。
お気に召しましたら、ブクマ、評価をお願いします(o_ _)o|




