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無実の罪で一族もろとも処刑されたので甦って報復しました。それはもう徹底的に!!  作者: やとぎ


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皇城攻防⑤

 諸侯達は二時間ほどの攻撃を行うとその後は交代させられ、新しい軍が攻撃を行わされた。

 それは戦力の逐次投入というべきものであり、諸侯連合軍はまったく大軍の有利さを発揮する事が出来なかった。


 しかも、その後に攻撃に参加した諸侯の軍は後方に下げられ再編成が行われていた。編成が終わった軍はいつでもいけるという状況であるが、未だにその姿を見せていない。どうやらザルブベイルは一回りしない限りは再出撃はさせない方針のようであった。


 少なくともバーリングはそう考えていたのである。バーリング麾下の軍と下がった諸侯軍の間にはザルブベイルが帝都の民を変貌させたあの(・・)死者の騎士達が厚い層を作っており、まったく情報が入ってこないのである。


「将軍、我々に出撃命令が下りました!!」


 伝令がザルブベイルからの命令を伝えてくるとバーリングはゆっくりと目を閉じる。ついにこの時が来たという心境であった。

 死者の騎士を打ち破る策はバーリングは結局の所、何も思いつかない。無作為に選んだ帝都の民達を即座に死者の騎士に変貌させたのを見せつけられたのはマーゴルク軍がザルブベイルの元に呼ばれてからしばらくのことであった。

 まるで情報を遮断するかの如く死者の騎士で壁を作られた事はバーリングにとって判断の材料が減っただけではなく、ザルブベイルの圧倒的な力を見せつけられた事を意味していた。

 約四十万の帝都の民達を支配下に置き、任意に死者の騎士に変貌させることが出来るともなればバーリングには打つ手がまったく思いつかなかったのである。


(やるしかない……せめて陛下は何としてでもお救いせねば)


 バーリングは心の中でそう呟く。すでに皇城側から裏切り者とされている自分であるがアルトニヌスに対する忠誠心は未だに健在なのだ。


「これより出撃する」


 バーリングの声は精彩を欠くことこの上なかった。



 *  *  *


「バーリングが動き出しました」


 報告を受けてザルブベイル一家は満足気に頷いた。実の所、ザルブベイル一家はバーリングの狙いを大まかには察していた。


「皇帝を救いに行くというわけですね」


 エルザピアの言葉にオルトは頷いた。


「ふふ、愚かな事ですね。まぁまだまだ私達を舐めているという事でしょうね」

「仕方ない事だろうな。バーリングにとって今までの戦歴などまったく役に立たないような状況だからな」

「さすがにこれだけの大量のアンデッドの相手はしたことないでしょうね」

「加えて自我を持つアンデッドの相手も初めてだろうな」


 オルトとエルザピアはそういうと笑みをもらす。


「各諸侯の生き残りはどうするつもりですか?」


 クルムがオルトに尋ねるとオルトは嗤いながら言う。


「もちろんこの帝都から退出願うさ。せっかく領民達が罠を張ってくれているのだからそれに応えてあげねばな」

「すでに仕えるべき連中がこの世にはおりませんので軍としての統制は取れないでしょうから大変ですね」


 まったく心のこもっていない口調でクルムは言う。


「あ、お父様、リネア()とレオン()も死んだとの事ですから、アンデッドにしておいてよろしいですか?」


 エミリアはオルトにそう言うとオルトは小さく頷いた。すでに帝国の滅亡は確定しているためにその程度の(たわむ)れは何の問題はない。


「もちろんだ。あの阿呆(アルトス)に死体を取りに行かせても良いな」

「ふふ、それも面白いですね。アルトスをここに呼びなさい」


 エミリアがそう言うと家臣の一人が駆け出した。それから十分ほどしてザルブベイル一家の前にかつての皇太子であるアルトスが現れた。その表情には限りない恐怖の表情が浮かんでいた。

 生前の彼では考えられない程の卑屈な表情を浮かべており非常に惨めな状況であった。


「アルトス、お前の愛しい愛しいリネア様と親友のレオン様が死んだそうよ」

「……」


 エミリアの言葉にアルトスは沈黙する。その様子にエミリアは冷酷な視線をアルトスに向けると指先から黒い(もや)がアルトスに伸びる。靄がアルトスの体に触れた瞬間にアルトスの叫び声が上がった。


「ぎゃああああああああああああ!! エミリア様ぁぁぁぁぁお許しくださいぃぃぃ!!」


 アルトスはのたうち回りながらエミリアに慈悲を乞う。アルトスは現在魂を瘴気によって拘束されている状況である。エミリアは瘴気の性質を変化させる事でアルトスに苦痛を与えるようにしたのだ。

 この数日間、事あるごとにアルトスはエミリアから折檻を受けており、完全に屈服していたのだ。


「やはりこのクズでは無理のようですね。私が行く事にします」


 エミリアはニッコリと嗤って言った。



 *  *  *


「バーリング!! 恥知らずの裏切り者め!!」

「バーリングに死を!!」

「バーリングを殺せ!!」


 皇城の正門前でバーリング軍と皇城の守備隊は激しい戦いを展開していた。すでに戦闘開始から丸一日経過しているが、守備隊の士気は依然高く歴戦のバーリング軍といえども容易に落とせるものでは無い。

 しかも自分達を救いに来てくれると信頼していたバーリング将軍が攻撃を行った事に対して最初は呆然としていたがすぐに怒りを爆発させた守備隊は激しい抵抗を見せていたのだ。


「く……まさかこれほどまで士気が高いとは……」


 バーリングはうめき声を上げる。皇城の守備隊はすでに丸一日近く戦い続けているため体力の限界であるのは確実だ。今の抵抗はバーリング軍に対する怒りのために肉体の疲労を精神の高揚が上回っているに過ぎない。

 ようは一過性のものであり、そこまで耐えれば済むと思っていたのだが、戦闘開始からすでに一時間経つがまったく士気が落ちないのだ。


(儂への怒り……か)


 バーリングの心に苦いものが走る。守備隊の士気の高さの根源は間違いなく自分への怒りであることを察していた。常に皇帝のために戦ってきたバーリングにとって今の状況は精神を摩耗(まもう)させることこの上ない。


「だが、やらねばならん。例えどのような罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びてもな」


 バーリングはギリッと奥歯を噛みしめつつ皇城攻撃に的確な指示を出していく。バーリングのとった作戦は派手なものではなくむしろ地味なものである。雨霰(あめあられ)と降り注ぐ矢を重装兵が防ぎつつ、他の兵士が正門を破壊するというものだ。


「死ねぇぇぇぇ!!」

「くたばれぇぇぇぇ!!」


 守備兵達は罵詈雑言と共に矢を射かけていく。凄まじい数の矢が放たれる中をバーリング軍は少しずつ前進していく。先の戦いの諸侯軍の兵士達の骸が転がる中をバーリング軍は少しずつ前進していた。


「もう少しだ!!」

「ああ、もう少しだ頑張れ!!」


 バーリング軍の兵士達はそう叫びながら正門の前にようやく到着した。


「よし。やるぞ!!」


 兵士が(まさかり)を振り上げるとそのまま正門へ叩きつける。


 バキィ!!


 もう一撃を食らわそうとした兵士の側頭部に矢が突き刺さり兵士はその場に崩れ落ちる。だがそこに他の兵士達が続く。次々と振り下ろされる(まさかり)は少しずつ正門の分厚い扉を消耗させていった。


「まずいぞ!! あの連中を殺せ!!」


 守備隊の方からも悲鳴のような声があがり兵士達に攻撃が集中する。


「がぁ!!」

「ぐぅ!!」


 今までよりも激しい守備隊の攻撃に晒され兵士達は次々と斃れていく。そこに次の一手が守備隊から放たれる。それは人頭大の石が投擲され始めたのだ。矢を防ぐことの出来た重装兵の防御もさすがに人頭大の石を投げつけられればその衝撃に陣形が崩れるのは仕方のない事である。

 頭部に直撃を受けた重装兵が倒れた瞬間にそこの隙間から矢が入り込み正門を破壊していた兵士達が斃れていく。


 だが確実にバーリング軍は正門を破壊していっていた。あと数十分もしないうちに正門が破られるのは確実であった。


「後退しろ!!」


 そこに信じられない命令がバーリング軍に発せられた。あと一息で正門を破る事が出来るというのに信じられない命令であった。

 しかし、命令は命令である以上、バーリング軍は仲間達の(むくろ)を残しつつ後退を開始する。


「うぉぉぉぉぉぉ!!」

「やったぞぉぉぉぉぉ!!」


 守備隊の中から歓声が上がる。その歓声を聞きながらバーリング軍は後退していった。


 不満の塊のような表情を浮かべつつ戻ってきた将兵達の前に一人の少女が立っていた。


 もちろんその少女はエミリアであった。


「私の用が先だからごめんなさいね」


 エミリアの言葉にバーリング軍は呆然とした表情を浮かべた。

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