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無実の罪で一族もろとも処刑されたので甦って報復しました。それはもう徹底的に!!  作者: やとぎ


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熟する悪意

 ザルブベイル当主一家の前に数十人の男達が立っている。バーリングを始めとする諸侯連合軍を構成していた貴族達である。

 バーリング将軍がクルムの命令を受諾した事でクルム達は死者の騎士達による殺戮を止めたのである。クルム達は戦死者達を容赦なく動く死体(リビングデッド)へと変貌させ自分達の傘下に組み込むと逃げ惑う兵士達を捕らえる(・・・・)方向へと方針を転換した。いや、より正確に言えば計画の第二段階に入ったというわけである。


 約二十万の貴族連合軍は完全に崩壊し死傷者数は優に一万を超えている。バーリング将軍麾下の軍が降伏を宣言した事で戦闘は急速に収束していくことになった。

 なおも抵抗を続けるものには容赦なく死者の騎士達が殺害していくと、兵士達のとるべき道は逃走か降伏かの二つに搾られることになった。


 降伏したのは二万ほどで他は逃走を選択した。逃走を選択した兵士達とすれば降伏したところで自分達が助かるなどとはまったく思えなかったからである。


「やぁバーリング将軍、ならびに各諸侯軍のみなさん」


 オルトは親しげにそう声をかける。


「ザルブベイル侯……質問しても構わないでしょうか?」

 

 バーリングはやや躊躇いながらオルトへ言う。その声と表情には不安の感情が色濃く表れている。


「何かな?」


 それに対してオルトを始めとするザルブベイル当主一家の表情は不安とは無縁の表情を浮かべている。勝者の余裕というのが前面に押し出されており、正直バーリング達にとっては不愉快であるがそれを告げるような事はしない。


「あなた達は処刑されたはずだ。それなのに……」


 バーリングの言葉をオルトが片手を上げ制するとオルトはニヤリと嗤って返答する。


「我が領では昔から生まれたものに対して行う儀式がある。まぁ儀式と言ってもそんなに大したものではない。生まれた赤子の体のどこかに呪印を刻むのだ」

「呪印?」

「ああ、領の者は全員な」

「……」


 オルトの言葉の意図を図りかねたバーリングは首を傾げる。


「その呪印を施されたものは、非業の死を遂げた場合にアンデッドとして甦る」

「な、なんだと!?」

「お前達は我が領民を蹂躙し殺した。当然ながらそれは非業の死と言えるだろうな」


 オルトは淡々とバーリング達に言う。


「そして呪印が発動するのは我ら家族全員が非業の死を遂げた時だ。もちろん呪印を施された者達は魂を留めているためにアンデッドとして甦ったとしても自我が存在する」


 オルトの言葉にバーリング達は声を失っている。


「元々は帝国に他国の者が攻め込んで力及ばず敗れた際に帝国の盾となるための手段であったのだがな」


 オルトの顔に皮肉めいた表情が浮かんだ。オルトの言葉が真実であるならばザルブベイル家は文字通り死んでからもこの国を守ろうとしていた事になる。


「ところが結果は冤罪で一族が処刑される事になったというわけだ。それだけでなく領民もまた地獄の憂き目に遭った」


 オルトの声は淡々としているがその奥底に凄まじい激情があるのをバーリング達は察している。


「さて、一体誰が一番悪いのでしょうね?」


 そこにエミリアが口をはさんできた。発言者のエミリアの方に全員の視線が集まる。ややマーゴルク子爵が気まずそうな表情を浮かべている。


「リネア様を止めるのではなくむしろ激励しザルブベイル領に地獄をもたらすきっかけをつくったマーゴルク子爵家でしょうか? それとも皇族としての責務を忘れたアルトスでしょうか? アルトスとリネアの愚かな行動を利用してザルブベイルを陥れる事を考えた貴族達かしら? それともそれを見過ごした皇帝かしら?」


 エミリアの言葉に全員がゴクリと喉をならした。エミリアの発する憎悪の念に恐怖を感じたのだ。


「エミリア、もはやそのような事どうでもよかろう」


 オルトの言葉にエミリアは一転してにこやかな表情を浮かべて返答する。


「お父様の言う通りですわね。この段階で誰が悪いなどというのは、もはや問題ではありませんわね」

「そういう事だ。もはや我々がやることは決まっている。……さて」


 オルトはそう言うとバーリング達へと再び視線を移した。


「分かってはいると思うが我らは死体をアンデッドとして使役することが出来る」

「……それでエルメック軍が突如襲いかかったというわけか」


 レメントの言葉にクルムがニヤリと嗤う。


「エルメック男爵軍を始めとして、いくつかの諸侯軍が貴様らが現れるまでに帝都に着いたのを予め始末しておいて、お前達の中に送り込んだのさ。もちろん我がザルブベイルの者も同行させていた。まぁその程度の事は余程のアホでない限りは気づくよな」


 クルムの嘲りの言葉にレメントは屈辱のあまりに唇を噛みしめた。


「それで……我らに何をさせようというのだ? いえ……いうのですか?」


 バーリングはすぐに丁寧な言葉に訂正する。自分の言葉一つでこの場にいる者達が全員殺されても仕方ないのだ。

 先程のオルトの“アンデッドを使役することが出来る”という言葉は逆に言えばバーリング達の助けなど必要ない事を意味しているのだ。


「もちろん、君達を生かしているのは目的があるのだよ」

「……」

「簡単に言えば我々のために働いてもらいたいと思っているのだよ。ああ、別に断ってもらっても一向に構わないよ。君達が断っても我々で十分に可能だからね。ただし、断れば我々は君達を皆殺しにするし、当然君達の故郷も我々の領のように徹底的に滅ぼすよ」


 オルトの言葉にバーリング達は顔を青くする。


(……まさか、こいつは我らを使って……)


 バーリングはこの段階でオルトが自分達に何をさせようとしているのを察した。


「我々が君達にやってもらいたいのは“皇城”を落としてもらう」

(やはり……)


 オルトの言葉にバーリングは心の中で呟く、同時に自分の心に絶望が花開くのを感じていた。

 バーリングは十代半ばで軍に入り、そこから着実に武勲を重ね将軍の位にまで昇ったのだ。その栄達を重ねる度に帝国、皇帝への忠誠心も育まれていったのだ。オルトの言葉はその忠誠心を根こそぎ奪うものであるのは間違いない。


「バーリング将軍、君一人の美学に折角生き残った部下達を付き合わせるのかね?」

「く……」


 オルトの言葉にバーリングは唇を噛んだ。オルトの言葉はバーリングにとって痛いところを突かれたという事以外のなにものでもない。


「故郷に家族が待っている者もいるだろうし、愛しい恋人がいるかもしれない。それらはみな君の決断により再会することができるのにな」

「……」


 沈黙するバーリングにオルトは冷たい視線を向ける。数秒後にオルトはため息を一つ吐くと冷たく言い放った。


「バーリングの部下を殺せ」

「な……」

「こいつは自分の美学のために部下を見捨てたというわけだ。無作為に選んで首を刎ねろ。そうだなまず百人ほどで良い」

「ま、待ってくれ!!」

「百人殺した後は適当に諸侯軍の中から目についた者を殺せ」


 オルトの言葉にバーリングのみならず貴族達も顔を引きつらせた。自分達に火の粉が突如飛んできた事に対して冷や水をぶっかけられたという思いであった。


「バーリング将軍!! 決断を!!」

「バーリング将軍!!」

「あなたの美学のために関係のない我らの部下まで殺されてしまうではないか!!」


 貴族達もバーリングを責め立てる。本来の貴族達ならば平民の兵士達や傭兵がいくら死のうが冷徹に見捨てるのだが、オルトの言葉からすぐに自分達の番が回ってくるのを察したのだ。


「わかりました……。皇城を落とさせていただきますので部下の処刑はお待ちください」


 バーリングの言葉を受けて一同にほっとした空気が流れる。バーリング将軍の決断により処刑は回避されたと思ったのだ。


「ダメだ」


 しかしオルトの言葉に全員が凍り付いた。


「な、何故です!?」

「貴様は迷った。貴様はまだ我らを甘く見すぎているのでな。見せしめのために殺す」


 オルトがそう言って部下に視線を移すと視線を受けた部下がニヤリと嗤い、バーリング将軍の部下の方へ駆け出した。

 彼らもバーリング将軍の部下達に家族を嬲り殺された者達でありその憎悪は決して消えていない。


「待ってください!! 部下達を殺すのは……!!」


 バーリングの懇願に対してオルトは冷たく嗤うだけであった。


 ギャアアアアアア!!

 グワァァァァァ!!

 ヒィィィ!!


 しばらくしてバーリングの兵達の方から絶叫が上がった。その絶叫が響いた時、バーリングは呆然とした表情を浮かべた。


「さて、準備を整え次第交渉へ行け。遅延行為とこちらが判断したら容赦なく皆殺しにする。無論貴様らもだ。忘れるな。貴様らは利用価値があるから生かしておいているだけだということをな」


 オルトはそう言うとバーリング達を置いて歩き出した。それにザルブベイルの家族、家臣達が続く。


「将軍……」

「何もいうな……」


 幕僚の言葉に力なくバーリングは返答する。バーリングは開戦からこの数時間で二十以上も老け込んで見えた。

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