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前編。白き日の放課後にて。

はやてー」

 放課後の教室。一人の男子を取り囲むように二人の女子が机に陣取っていた。どちらからも男子は、じとめで見られている。

 

「なんだよ小説ことき、なんか今日様子が変だぞ。妙にソワソワしてるし」

 

「じぃー」

「武内。今日、なんの日だか、覚えてる?」

 小学生かと思うほどに背の低い女子が、当てにしていないと言う雰囲気で男子生徒 ーー武内疾たけうちはやての左から声を出す。両手を腰にやって。

 

「なんの日って、三月十四日だろ?」

「うん、そう。三月十四日の別名は?」

 やれやれ、と言う声色で促す。

 

「……ああ、ホワイトデーだったな。忘れてたわ」

「武内ー。あたし、友チョコあげたでしょ? 自分には関係ねーやーとか思ってない?」

 呆れた調子で言う、お団子頭を二つ作っている小さな少女 胡桃夢美くるみゆめみ

 

「うん。正直関係ないって言うかどうでもいいと思ってる。もらえるもんはもらうけどな」

「むぅっ!」

 疾正面の、左右に跳ねた赤いツインテール少女 ーー小説寿瑠こときみるの拳が、そう言うのに合わせて唸りを揚げた。

 

「ぐおわーっ?!」

 僅かに放物線を描いて、跳ね飛ばされたように上空へと飛んだ疾の身体からだ。机二つ分吹き飛んで、

 

「ぐはっ!」

 背中を机に打ち付けることになった。こんなことが起きているが、教室に残った生徒たちは、またやってるよ、と言う空気で大して気にしている様子がない。

 

「はやてのばかー、わたし本命だったんだよっ! バシバシバシ!」

 机を叩くのに合わせて、寿瑠がそう感情に合わせたように濁点がついたような怒りの声を発した。

 

「こんの怪力SE娘が……!」

 左手で腰を、右手で肩をさすりながら疾は、そんなことを吐き捨て自分の席に戻る。

 

「流石に本命は覚えといてあげようよ武内。みるちゃんかわいそうじゃない」

「って言われたってなぁ」

 

「あたしとみるちゃんにお返しね。この後、白屋しらやでなんか買う。拒否権ないからね」

 夢美にズバッと言われ、抗議しようとしたタイミングで寿瑠に「そーだそーだ」と便乗され、抗議のし時をのがしてしまい、

 

「わかりました」

 と投げやりに答える羽目になった。白屋とは、学校と疾の家とのちょうど中間辺りにある駄菓子屋の名前である。

 

「やったぁ!」

 無邪気に喜ぶ寿瑠と、

「まったく。中神ですら返してくれたって言うのに」

 のびをしながらの夢美。両極端である。

 

 

「……なんだって?」

 少し目を見開いて、呟くように発した疾。

 

「なに?」

 反応したのは夢美である。

「ミニマムちゃん。今、なんつった?」

 ミニマムちゃんとは、夢美のあだなだ。見た目そのまんまである。

 

 夢美、初めはいやがっていたが すぐに定着してしまったので、今では気にしていない。

 

「ん? 中神ですら返してくれた、のこと?」

「そうそう。マジかよ、学二かくじがホワイトデーを覚えてたのみならず、お返しまでし終わってたのか?」

 

「不服そうだな疾風の申し子よ」

 教室の後ろの方から、カバンを左肩からたすき掛けして現れたのが、中神学二なかがみかくじだ。

 

「そらそうだろう。お前がそんなこと、気にする奴だとは思わなかったもんよ」

「貴様、俺との付き合いもそろそろ四年目だぞ。いい加減記憶しろ」

「はいはい。お前にたしなめられると妙にむかつくんだよなぁ」

 

「俺の口調のことを言っているのなら、諦めろ」

「わーってるよ、知り合った時からその厨二病口調だったからなお前。今更変えろなんて言うかよ」

 

 ガタリと自分の席を立つ疾は、ぶっきらぼうに「白屋いくぞ」とだけ言うと、荷物を持って教室を出ようと歩き出す。

 

「うんっ。スタタタ、ガサゴソ、パシッ」

 ちょこちょこっと、疾の右隣の自分の机に回り込み荷物を持った、と言うのが今の口効果音の内容である。

 

「あ、荷物もってこなきゃ」

 微苦笑で言って、夢美もそそくさと自分の荷物を取りに行って、四人は教室を後にした。

 

 

「そういやミニマムちゃん。ミディアムとビッグ、もう帰ったのか?」

 廊下に出てすぐ、疾が夢美に尋ねる。

「うん、珍しく、ね。どうしたんだろあいつら?」

 ミディアムとビッグは、夢美とよくつるんでいる男子二人のあだなで、疾 学二 寿瑠と双璧を成す、一年二組の通称 大中小トリオのメンバーだ。

 

「お返しのこと言われるのを回避したか、もしかして?」

「大方、そんなところだろうな。奴等も貴様と同種であったと言うことだ。俺はもらったなら返すのが礼儀、そう思って返したまでのこと」

 

「律儀な奴だなぁ」

 感心するように呆れて言う疾。

「で? お前も白屋来るのか?」

 靴を履き替えながら尋ねる疾に、ついでだからなとあっさり答える学二である。

 

「暇な奴だぜ」

 昇降口を出ながら疲れた調子で言う疾は、それでも足取りに疲労感は見られない。

 

「器用な奴め」

「その口調で常に喋ってるお前にだけは、言われたくねえな」

 人一人分ほど隙間を開けた左側に来た悪友に、疾は遠慮一切なく言い放つ。

 

「器用不器用で片付けてもらいたくはないがな。まあいい」

 慣れているのか、学二は涼しい顔をしている。

 

「ズサーッと。二人でなんの話?」

 疾と学二の間に、滑り込んで来た寿瑠が聞いて来た。

 

「大したことじゃねえよ。ところで小説ことき?」

「ん?」

「滑り込んで来ながら口SEってさ。舌噛まないか?」

 

「大丈夫大丈夫。心配ないって」

 “な”と同時に左の握り拳で、その中学一年生にしては立派に発育した胸を叩く寿瑠。手をどけたら、その反動で軽く弾んで魅せるふくらみ。

 

「そうかよ。舌噛まないかだけが心配だぜ」

 視線をちらっと寿瑠のたわんだ胸部に向けてから、何事もなく言う疾。

 

 器用な奴めとまた小さく学二が吐き捨てるように呟いたが、

「えっ、心配してくれてるのっ? ほんとに? ほんとにほんとに??」

 っと言う寿瑠のなにかを期待するような喜びの声によって、疾の耳には入らなかった。

 

「小学生か。繰り返し聞いて来んな」

「去年まで小学生だったもーん。ドヤー」

 

 論破してやった、と言わんばかりのドヤ顔寿瑠。ドヤーは効果音のつもりらしく、ドヤーに合わせてしてやったりと言う顔を作っている。

 

「はいはいそうでしたね。ずいぶんと発育のよろしい小学生で」

「ビシ ビシ ビシッ!」

 声に合わせて右手で三連水平チョップを、疾の左二の腕に叩き込む寿瑠。

 

「ってぇなっこのぉ。最後の一発だけ強く入れやがって……」

 

 患部を抑えて苦々しい声と顔の疾に、

「そゆことばっかりゆうからですよーっだ」

 両手の人差し指で、自分の口を左右に引っ張って、べーっと舌を出す寿瑠に深い溜息で答える疾。

 

「本当に書物より力をこいねがう者は、言動が幼いな」

「そこがかわいいんじゃない」

 寿瑠の後ろから夢美の声がした。

 

「この手のリアクション、むしろミニマムちゃんの方がさまになりそうだけどな」

「しょーがくせーってゆーな!」

 

「いて。ミニマムちゃん。膝上長けスカートで飛び蹴りはどうかと思うぞ」

 

 軽く左手で背中を抑えながら言う疾に、

「誰のせいで飛び蹴ることになったと思ってるのよっ」

 と夢美にすねられてしまって、

 

「うん。やっぱそういうのは、見た目的にもちっこい方が愛嬌増すな」

 したり顔で頷く。

 

「誰がぺったんこだー!」

 今度は背中にチョップの嵐である。

 

「いててて、お前以外にこの場に誰がぎゃー! 威 力 を 上 げ ん な!」

 

「高いの買うの確定」

 とどめにバシッと強めの一発を浴びせ、不機嫌全開の夢美に「うんうん」と寿瑠が同調。

 

 むっとした女子二人に勝手に決められてしまい、疾はひっそりとカバンを、その中の財布に視線を送った。

 

「自業自得だ」

 

 

 

 堪えきれない笑いを顔に張り付けた学二を、疾は「お前……!」のひとことと共に睨み付けるのだった。

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