月の標本
夜空はいいですよね。
3月1日に私の学校は卒業式です。
拙い文章ですが、読んでくれたら嬉しいです。
「月は綺麗だから遠くに見えるんでしょうか?それとも、遠いから綺麗なんでしょうか?」
自転車を押しながらゆっくり歩いていくいつもの帰り道。
先輩とこうやって肩を並べて帰れるのも今日を含めてあと3回。
春がきたら、先輩は遠くの街へいってしまう。もう会うことはない。
「急にどうした?」
そう言ってくしゃっと笑ってみせる先輩。
この顔を見れるのはあと何回なんだろう。
「気になりませんか?」
自転車をわざわざ押して帰るのは、先輩と話たかったから。
先輩は優しいは私に合わせてくれてる。
本当は早く帰りたいんじゃないかって不安になる。
「気にしたことない、けどどちらかと言えば後者かな。」
「奇遇ですね、私もそう思います。」
友達とのいざこざ、部活での問題、親との喧嘩。沢山相談に乗ってもらった。
「同じ意見になるなんて珍しい…!」
「何でそんな驚いてるんですか!」
どんな話も丁寧に相槌を打ってくれて、共感してくれて、時には叱咤激励、最後はいつも笑ってた。
学年も部活も違う私たちが知り合ったきっかけは1年の帰り道、先輩が落としたタオルを拾って追いかけて、そして渡す前に転んだこと。思い返せば恥ずかし過ぎるけど。
それから帰り道はすれ違うたびに声かけてもらうようになって部活の終了時間が近いこともあったので、別に合わせたわけではないけど一緒に帰るのが常になった。
「お前俺と反対のこと言うの得意だから。」
「何ですかその言い草ー。」
ふくれっ面をしてみせると謝りながらまた顔をくしゃくしゃにした。
先輩はこの人懐こい笑顔と抜群の運動神経で結構人気者だった。少し頭が悪いのもかえってみんなから慕われるいい味だったと思う。
「お前ほんと月とか星とか好きだよな。」
「好きですよ」
一方の私は、人見知りを拗らせて人付き合いがとても苦手。勉強は得意ではないけれど成績は上の方。運動神経はすこぶる悪い。まるで正反対。
だから最初は少し先輩が怖かった。
こんな私に話しかける目的は何かっていつも疑ってた。
「でも月は苦手とか言ってなかったっけ?小さい星の輝きがどうたらって熱く語ってたから覚えてる。」
「その時は少し苦手でした。」
明るくて眩しくて、夜空で1番目立つから。
届きそうなほど小さな他の星の輝きが、当時は好きだった。
「私思い出したんですよ」
少し駆け足で先輩より前に行った。
「月も星なんだって。何でもっと早く気づけなかったんでしょうね、こんなにも綺麗なのに。」
私と先輩の分かれ道。
叢雲がかった月と静かに落ちた雫。
「今までありがとうございました、素敵な大学生になってくださいね。」
「…ありがとう。」
先輩が気づいたかは定かではない。
私はあなたを標本にすることを選んだ。
お月見もすきだけれど雲が隠してしまえばただただ遠くて見えないから。
こんな綺麗な月が欠けるところなんてみたくないから。
「では私はここで!さよなら、先輩」
憎たらしいほど大きな満月がずっとずっと私を見下ろしていた。




