倭の国の矛盾
黒羽が髪からピンを外すのは、シャワーを浴びる時だけだ。シャワーを浴びた後、髪を乾かし、すぐにピンで耳を隠す。それは、いつ、何時でも、呼ばれても良いようにでもあるし、誰かに見られる危険性を考慮しての事だ。
————こんな生活がいつ迄続くのだろう。
「俺も、香夜も————。」
格子がはまった窓から見える景色は、綺麗でも何でもない。ただ、木と雑草が生い茂る荒れた場所だけ。
無理もない。龍に怯え、城は高さを設けてはいないのだから。真っ黒な外観の城は、ハッキリ言って不気味な屋敷だ。
かつて、此処は、神が祀られた聖なる場所だったと言う。しかし、今は、神など祀られてはいない。神の化身だという【龍】には、怯えながら、神の存在は、軽んじられている。人々は、龍の怒りが無ければ、神は、お怒りでは無いと、そう思っているのだ。
この国に矛盾が多いのは、国の在り方にあった。昔は、国王が全てを決めていたのでは無い。会議が開かれ、討論の末、物事を決めていた時代もあったそうだ。しかし、いつの時代からか、国王は、絶対的な権限を持ち、国のあらゆる事を決定する様になった。
問題なのは、国王では無い。それを取り巻く家臣らの存在だ。助言と称して、あらゆる事を国王に吹き込むのだ。国王とて、人の子である。不安な事を言われたら、その通りにしてしまう時だって、絶対に無いとは言い切れない。
黒羽が、いくら1人で考えても、国の体制がガラリと変わる訳でもない。だから、考える事を辞め、ベッドへと横たわった。
聖なる地まで、此処からかなり距離はあった。おかげで、鍛えた身体でも、足は疲れを感じていた。明日は、国王の誕生パーティーが開かれる。いつにも増して仕事は、山積みである。早く寝たほうがいい。と、目を閉じた時だった————。
ド————ンッッ!!!
何かが爆破する様な音に、黒羽は、飛び起きた。
そして、女や男の悲鳴が、その音の後に続いた。
「————っ。姫っ!」
悲鳴を聞いた直後、思い出したかの様に、愛刀のレイピアを片手に、部屋を飛び出したのだった。