黒羽の秘密
姫の部屋のを閉じた瞬間、強張っていた体の力は、自然と抜けた。彼女と一緒に居るのが嫌な訳では無い。
彼女に隠し事をし続けながら近くに居る事は、限界すら感じていたのだ。だからか最近、無意識のうちに身体に力が入って居る事がよくある。
「……よく無いな。」
秘密を明かすつもりは無い。気にし過ぎるのは、良くないな。と、言葉を漏らしていた————。
部屋へ戻る途中、香夜姫の昔の写真がある場所を通る。白い和ドレスを着た幼い彼女は、満面の笑みをいつも見せて居る。当たり前だ。コレは写真なのだから。
突然、写真の表情が変わったらそれは、怖い。だが、黒羽は、その写真を見る度に、その写真を消し去りたい衝動に駆られてしまうのだ。何故なら、
「————コレは、姫様なんかじゃない。」
黒羽は、そう思って居るのだ。こんな写真があるから姫を苦しめるんだ。とっとと変えればいいのに、ずっと、生贄になる前の彼女の写真を貼り続けるのは、この写真を最後に、彼女は、笑わなくなったからだ。
この写真を撮ったすぐ後、彼女は、生贄となった————。
国王の子であり、第一王女候補である香夜姫が、何故、生贄になったのか。この国では、生贄と言えば巫女がなるのが一般的であった。
しかし、幾ら考えた所で、過去に戻れる訳でもないし、過去を変えられる訳でもない。こんな事を考えていても時間の無駄だ。部屋に戻ろうと、足を動かした。
そして、部屋に入れば、ため息を1つ落としたのだった。
黒羽の黒髮には、目立たない様にピンが無数にしてあった。それは、ある物を隠すため。
代々、ずっと隠していた事。
それは、黒羽は、
————人間では無く、獣科の種族であった事だ。
勿論、黒羽自身も獣科だ。
髪にしたピンは、獣耳を隠すための苦肉の作であった。
ピンを取り払い、鏡に映る自分の姿から目を背けたくなる。どう考えても異様な姿だ。黒羽には、耳が4つある。人の耳に似せた偽物と、髪に埋もれる様に隠した本当の獣耳。
「こんな姿、不気味なだけだ————。」
黒羽の部屋は、殺風景な部屋。たいして姫の部屋と変わらない。姫の部屋よりは、狭いが、窓には格子。自分は、罪人の子。だから仕方ない。
着慣れたスーツを脱ぎ捨てれば、獣族特有の尻尾が現れる。全てを隠して生きていく。それは、自分の存在すら否定して居る様だ。
短く息を吐き出して、黒羽は、自室に備えつけられたシャワー室へと消えていったのだった————。