お召し物は何になさいますか?
隠し事がある事は、知っている。
しかし、それを詮索する理由は、全く無い————。
ただ黙って立ち尽くす彼の姿を横目に映しながらも、手にした紅茶を飲み進めたのだった。
飲み終えたところで、黒羽が声を上げた。
「明日のパーティーのお召し物は、如何なさいますか?」
と。
明日は、国王である父の誕生日パーティーが執り行われる。それに着ていく服なんて、正直何でもいい。
今着ている、普段の着物ドレスでも、なんでも。
しかし、黒羽は、それに気づいのか、
「その服は、なしでお願いします。」
そう、釘を刺す。
すこしだけ、彼を睨みながら、香夜は、口を開いた。
「赤いのにする。」
「かしこまりました。」
背筋を伸ばし、手を胸に当て礼をした黒羽。何処からどう見ても執事。しかも、赤いのだけで分かる彼は、香夜の事を知り尽くしている。
「プレゼント、喜んでくれるといいですね?」
そう言いながら、窓の近くにある机に視線をむける黒羽。そこには、父の誕生日の為に、香夜が刺繍したベストが置かれていた。
「………。うん。」
毎年、何かに刺繍を施し、誕生日にプレゼントしているが、毎日父に会える訳では無い香夜は、使ったところを見た事がない。本当は、迷惑なのでは無いか?いつも、そう思っている。
なにしろ、家臣らが、君悪がる姫だから————。
だから、冴えない表情で、黒羽の言葉に返事をしたのだ。
「もういいよ。さがって。」
黒羽は、香夜の言葉に素直に応じる。
「では、失礼————「黒羽。」
「??」
「ありがとう。あの場所に、ついて着てくれて。」
「いえ。では、失礼します。」
そう言って、黒羽は、部屋を出て行った。