秘密
部屋につけば、彼女は、ベットへと倒れ込んだ。
軋むベットの音
まさに、力尽きた。その表現がピッタリな彼女の行動
奇抜な着物。いや。和ドレスと言った方がわかりやすいかもしれない。黒地に花柄があしらわれ、肩まではだけている襟元にインナーはY字の様な黒いモノであった。
黒と赤に身を包む彼女。
丈は膝の上で、倒れた反動から着物は、少し捲り上がり、彼女の白く細い太ももがチラチラと見える。
そんな視線を向けていれば、
彼女は、視線だけこちらに向けた。
まるで、「まだいたの?」そう言っているかの様な彼女の表情に、ただただ、苦笑いを浮かべた。
この部屋は、特殊な構造をしている。
窓には、鉄格子。部屋には奇妙なお札まで貼ってある。
供えつけのトイレにお風呂。
ここは、まるで彼女の牢屋の様。
この城の中には、沢山の肖像画が飾られていた。
国王のモノや王女のモノ。
中には、彼女の肖像画も飾られていた。
彼女の肖像画は、白い和ドレスにピンクの帯をして
幸せそうに、溢れんばかりの笑顔を見せた幼かった彼女
俺が出会ったのは、彼女が生贄として帰って来た歳だった。今の姫様しか、俺は知らない。
いや。今の姫様しか、
俺は、守りたいとは思わなかった————。
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黙ったまま、カタカタと音が聞こえて
そちらに視線を向ける。
格子のついた窓のすぐ側で、彼が手慣れた手つきでお茶を淹れてくれたのがわかる。
いい香りのそれは、紅茶。
カチャッと音が聞こえれば
身体を起こし、足をベットから下ろし腰掛けた。
「どうぞ。姫様。」
手渡された紅茶は、綺麗なソーサーに置かれ、その上に置かれたティーカップには装飾が施されたもの。
黒羽は、男の癖に、変な所は女の様に細かい。
ただ、お茶を飲むだけじゃなく、目で楽しませようとする彼。従者としては完璧な彼は、代々、この国の王に仕える従者として育った一族。しかし、彼の父は、すでにこの世には居ない。
彼は、跡を継ぎ、父である国王の従者をするのが
本当は、筋が通っている。しかし、それは、出来ないのだ
何故なら、彼の父親は、国王暗殺を企て
処刑されてしまった、言わば罪人。
罪人の子を、国王の近くに置くわけにはいかない。
それが、この国の考え方。
罪人は、黒羽ではないのに、彼を罪人の様に見る人達。
厄介者には、厄介者を————
黒羽が私の所に来たのは、そんな理由だ。
「いかがなされました?」
一向に口に運ばなかった紅茶を見て
黒羽は、そう言った。
「ううん。いただきます。」
「はい。召し上がれ。」
ニッコリと笑う彼。私は、知っている。
彼もまた、私には話せない秘密があると————