影口
黒羽と香夜が城に到着した。
城。そう言えば、
誰もが高く立派な建物を思い浮かべるだろう。
しかし、倭の国の城は、神社建築。
早い話、神社の様な建物で、高さは無い。
黒塗りの建物は、いつ見ても重苦しく感じるが、
城に高さがない事も、黒塗りなのも
龍を恐れての事だ。
城の黒門をくぐれば、
「お帰りなさいませ。姫様。」
と、城の者たちは出迎える。
しかし、
彼女に近づこうとする者は、誰一人として居ない。
前を通り過ぎれば、コソコソと影口を叩く。
————気味が悪い。
————なんで、あんなにも無愛想なのか?
と…………。
それを聞いても、彼女の表情は、変わらない。
ただ、己の部屋に向かうだけ。
しかし、黒羽は、それを良しとはしなかった。
スタスタと歩く香夜の後ろで、歩みを止める黒羽。
振り返ると同時に、冷たく鋭い視線を影口を叩く者たちに向けた。
一瞬にして、表情を引きつらせる者
ヒィッ!っと、小さく悲鳴をあげる者も居た。
「————…一国の姫君に、影口ですか?」
一人の男に、まとを絞り、ツカツカと歩いて、間近で問えば、
「い、いえ。その様なことは————っ!」
先ほどの言葉は、聞こえて居た。
この声を出した男も、確かに影口を叩いたのだ。
見せしめに、骨の一つ折ってやろうか?
そうすれば、影口も減る。
黒羽がそう考え、口角を上げた時
「————黒羽っ!」
あーあ。折角、姫様を思って、脅しをかけたのに、
これじゃあ、台無しだ。
「残念。姫様がお呼びだ。
————感謝するんだね?姫君に………。」
ヨロヨロと、その男は、その場で腰を抜かした。
男から離れ、香夜を見ればこちらを向いたままで、
「やれやれ。姫様は、本当、
——————優しすぎるんですよ。」
そう、自分にしか聞こえ無い声で呟いた。
顔には出さない。言葉にもしない。黒羽が、自分の方に歩いてくると分かれば、彼女は、クルリと、向かって居た方向へと身体を向けてしまう。
姫なのに、こうして影口を叩かれ、気味が悪いと罵られる。しかし、彼女は、影口を叩く者たちを罰したりはしない。