聖なる地からの帰り道
城への帰り道、街中を歩く洋装の騎士、黒羽と
奇抜な着物を着ている香夜の姿。
右へ左へと、視線を彷徨わせる香夜に、思わず、クスリと笑う。
「そんなに、周りばかり見て居たら、ぶつかってしまいますよ?」
「わ、わかっている!」
慌てた様に前を向く香夜は、見ての通り、まだ、街中というものを歩き慣れて居ない。彼女が姫だと気づかれないのが、何よりの証拠だ。
この街には、様々な種族が生活を送って居た。
龍から逃げ、たどり着いたこの地に安息を求める者は、後を絶たない。
街は結界で覆われ、獣は入ってくることもない。
この国は、龍使いを嫌いながらも、彼らが居なければ、安息の地になどには、ならなかったのが現状だ。
それゆえ、毛嫌いする龍使いを国に入る許可を出さねばならなかった——。
しかし、本当に色々な種族がいるな。
人の形は、変わらないものの、肌の色や髪の色まで様々で、獣耳や尻尾が有る者もいる。
姫が周りをキョロキョロする理由も、わからなくも無い。
この街では、武器を持つことが許可されている。
かつては、銃刀法とかいうのがあったらしいが、身を守る為には、必要不可欠な武器。
最近の流行りは、日本刀という名の刀を持つことだ。
腰に刺して携帯して居る者をよく見かける。
ちなみに、俺の刀は、レイピアと呼ばれる、細身で先端の鋭く尖った刺突用の片手剣だ。
その為、洋装のが都合がいい。まぁ、仕事上でもだが。
姫様は、どうやら、着物が好みの様で、着崩して着るのが好きらしい。
この国の、昔の格好は、着物だったそうだが、今の着方とは、だいぶ違ったらしい。
「黒羽?」
考え事をしていたせいで、歩みまで止まっていた黒羽に、クリクリとした目で見つめる香夜。
「あぁ。すいません。行きましょうか?」
「うん。」
あまり、表情を変える事の無い彼女は、人と話す事さえ、そんなに好きでは無い。
生贄の儀式。
それは、彼女が生贄となった翌年廃止された。
今では、生贄の儀式をすれば処罰される。
要するに、彼女が、最後の生贄————。
そして、生贄で、生きて帰ってきた者も、彼女だけ————。