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部下達は大変です

作者: 三月

他の言い方が浮かばなかったので神様たちを○人と数えていますが、軽く流してください。


 ある日、女神様が言いました。


 「リアルな乙女ゲームが見たいわ!」


 突然そんなことを言われた5人の部下達は戸惑いました。先ず、女神様の言う乙女ゲームが何のことなのかがわかりません。

 そんな部下達に今1番のお気に入りだと言うゲームを渡した女神様は「それじゃあ、よろしくね~」と軽く言って帰ってしまいました。

 訳がわからずに取り残された部下達でしたが、取り合えず女神様の置いていったゲームをやってみることにしました。


 「何だこれ…」


 1人が呟いた言葉は、全員の総意でした。画面の中には見目麗しい男達と彼らに愛を囁かれる少女。途中で現れる選択肢によって物語の結末は随分と変わるようですが、彼らにとってそこは些細なことでした。

 上司である女神はこの物語のリアルなものが見たいと仰せでした。つまり、これから5人はこのゲームを再現できる世界を創らなければならないのです。


 「…やりたくない、な」


 何が悲しくて上司の趣味丸出しの甘ったるい恋愛小説のような世界を創らなければならないのでしょうか。これは面倒臭い上司のせいで日夜働き詰めで、恋愛やトキメキといったものと縁遠くなってしまった自分達への嫌がらせかと、ほんの少しだけ殺意が沸いてきます。

 しかし悲しい神社会。上司の言葉は絶対なのです。5人の神様は女神様の為にノロノロと動き出しました。


 世界は順調に時を重ねて安定し、一部地域限定で進化に介入した結果、どうにかあの乙女ゲームと同じ世界観になりました。

 元号や家名、歴史などにも神様ルールのギリギリまで介入して整え、攻略対象の血筋が没落することのないように導き、攻略対象の少年達の名前を夢のお告げという形で伝えました。

 神様から直々に名付けて頂いたと喜ぶ各家の人たちを見て、罪悪感から神様達の胃はキリキリと痛みましたが、真実を告げることは情けなくて出来ません。

 更に本当に申し訳ないと思いながら、少年達にゲーム通りにトラウマやコンプレックスとなる出来事を起こさなくてはならない神様たちは、少年達の笑顔が曇っていくのを眺めることしか出来ない自分達が情けなくてたまりませんでした。


 そんな神様達の苦労の甲斐もあって、どうにか登場人物達は出揃いましたが、ここで上司の女神が介入してきてしまいました。


 「やっぱり今は悪役転生だよね!」


 訳のわからないことを叫んで立ち去っていった女神様。部下達は慌てて世界を見渡して、女神様が何をしたのか確かめました。

 そして1人の神様が、この世界の元となったゲームで悪役令嬢となる少女の魂が異世界の気配を帯びていることに気付いたのです。

 世界の調和を乱しかねない少女をどうにかこの世界に馴染ませ、魂の浄化も受けずに放り込まれたらしい少女が混乱することのないよう、徐々に過去世の記憶が甦るように調整しました。

 10歳程で全てを思い出し、混乱しながらもこの世界に順応していく少女を見守る傍らで、神様達は必死で「悪役転生」なるものを調べました。

 大雑把に纏めるとそれは、ゲームの世界での悪役に転生した少女が、本来のシナリオに逆らって自身の人生を生きる物語のようです。

 神様達は安心しました。連れてこられた魂は憐れですが、彼女がどのように行動しても問題は無さそうだったからです。本来定まった形などない世界を物語に合わせて整えることは大変不自然な事だったので、これからは無理に介入しなくても良さそうだと胸を撫で下ろしました。


 しかし、そう簡単には終わらせてくれないのが女神様。ゲームの開始時期、ヒロインの少女が転入してきた始業式の日にそれは起こりました。

 2年生になって転校して来た不安そうなヒロイン。ゲームの開始直前にまたもや介入してきた女神様。


 「入れ替わりヒロインも王道だよね!」


 挨拶中に突然倒れるヒロインに駆け寄る攻略対象である生徒会役員達と顧問の教師。

 下界は結構な騒ぎになっていましたが、それよりも突然異世界の人間と魂を入れ換えられたヒロインのフォローに神様達は必死でした。

 悪役令嬢とは違い、それなりの年齢になってから入れ換えられた2つの魂。安定するように力を注ぎ、本人の混乱が最小限で済むようにと寝ている間に基礎知識を授けた為、どうにか魂が壊滅的な被害を受けることはありませんでした。

 本来ならヒロインとしてこの世界で過ごすはずであった少女の魂は、取り換えられた少女の世界の主神の加護を得て安定していますが、大層御立腹のかの神様への御詫びに伺った5人の神様は、かなりのダメージを受けてしまいました。


 身勝手な上司のせいで混乱する世界。部下達からは絶えず不満の声が上がります。それを報告しても「代わりにやっといて~」と軽く投げ返す女神様。

 下界からは自らの境遇に嘆く少女達の魂の叫びが今日も聞こえてきます。5人の神様はその声を聞きながらも、何も出来ない不甲斐なさに心の中でひたすら謝り続けます。

 ただ1つ言い訳をさせてもらえるのなら、中間管理職は大変なんです!

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― 新着の感想 ―
[一言] 上司の上司はいないのだろうか・・・
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