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この世界にドロシーはいらない  作者: 新藤 愛巳
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前の王様

 気がつけば妖精の館の前だった。


 妖精の館の前でネッコ族が嘆き悲しんでいる。めそめそ泣いている。


「子供たちがさらわれてしまいました……! かかしが乗り込んで行きました」


「ドロシー様。助けてください」


「私たちはかかしを信じられません」


 王を倒したのがかかしなら、町を流したのもまたかかしだった。


 黒子さんたちを呼び、おじいのシオリを受け取った。これでまた戦える。


 準備を整える。俺はかかしが直してくれていた服に袖を通した。


 店で買ったように美しい仕上がり。法衣のようなドロシーの服を身にまとう。

 今までかかしの事が解らなかった。よくわからなかった。ぜんぜん見えなかった。


 けれど今なら少しわかる気がした。


 あの子はネッコ族の言葉にひたすら心を痛めていただけだったのだ。

 ネッコ族が彼女を嫌うから、彼女もネッコ族を『見ないように』していた。理解しようとしなかった。

 完全なる無関心。そこには信頼も繋がりも存在しなかった。


 だから国民から王はいらない存在で……王からも国民は要らない存在だった。

 必要とされない悪循環。疎外感がこの関係を育て、喪失感がかかしをこじらせた。


 闇落ち寸前まで。死に至る寸前まで。


「ネッコ族。みんなでかかしを助けよう」


「出来ません! それだけは出来ません!」


 ネッコ族は歯を鳴らして震える。


「ドロシー様は知らないのです。一年半前、ノドグロがこの町を襲撃したのは……王様の願いなのでございます!」


「怒りに任せて 街の半分を流したのは――あのかかしなのでございます!」


「助けたりしたら……今度こそ殺されてしまいます。私たちはそれだけの事をしてしまったのです」


 ネッコ族は泣いた。身を寄せ合って泣いた。

 立場が変われば意見も変わる。


 調停のためには双方の気持ちを理解しないといけない。だから俺はその場に座り込んだ。

 俺はみんなを視界に入れた。拳を握りしめる。


「君たちは俺が好きか?」


「はい、貴方は我々を正しく率いてくれました。防壁も作ってくれたし、それに子供達も懐いている。尊敬しています……」


「かかしも俺の事を好きだと言った。俺の事を好きな人間に悪い人間はいないんだよ」


 俺は意地悪にそう言ってみた。嫌われるのも覚悟だ。


「ちょっと待ってください!」


「なにか文句があるか? お前たち、僕のテンションが上がるように全員足首を見せろ!! 特に女子供はよく見せろ!」


「ドロシー様がぶっ壊れたぁぁ~!」


 そう彼らはおののいた。ネッコ族は人間と違って意外と素直みたいだ。俺は笑った。


「冗談だよ。でもかかしを連れて帰ったら、あいつの話を聞いてやって欲しい」


「ですが!」


 深呼吸する。


「あいつは、変わるよ。これから変わる。最初はマネでもいつか本当の本物になる。だからそれまで見守ってくれないか? 頼む、この通りだ」


 俺は土下座をした。ネッコ族はうろたえた。


「ドロシー様……」


「俺が責任をとるよ。保証書だって書く。なんなら誓約書だって」


「ぶ、ぶはは。縁野くんはアホだなあ」


 茂みの陰で武利木さんが大爆笑していた。

 背中には黒子さんの書いた文字がある。見えないものを見せる魔法だ。


 芯師の術のマネ事。百均で買った水性ペンなので時間はあまり持たないかもしれないが、黒子さん達の力を借りてみんなの前に武利木さんが姿を現している。


「前の王様!」


「本物の王様!」


 ネッコ族は歓喜に討ち震え、武利木さんは膝を折って深々と頭を下げる。


「僕は君たちにどうしても謝らねばならないことがある。僕は未熟で最低の王様だった……君たちに許しを請いたい……」


 その時、妖精の館が扉を閉ざし始めた。俺は急いで中に滑り込む。


「行ってくるよ。かかしのお兄さん」


「行ってらっしゃい。旧友の弟子」


 武利木さんがネッコ族に何か話すと決めたのなら、俺もそれを信じよう。俺を信じてここに送り出してくれた火佐賀屋様みたいに。信じようと思った。

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