第2章 放課後戦闘後アフタヌーンティー #1
前言撤回。
この人はひどいです。見かけにもよらずひどいです。やっぱり外見で人は判断してはいけないものだとわかったような気がします。引きずられていく中で、このままでは恰好悪いと思い、そして何より尻が痛い! と言うことでちょっと抵抗をしようと画策して、実行した結果。
まったくものともせず、逆に反撃されて……
(魔法は反則だよな)
逃げようとした瞬間、火でボッ! っという感じで危うく人の焼死体が出来上がるところだった。抵抗むなしく校門あたりまで来てしまった。と、命があることに感謝しながら一喜は思い出していた。
周りにはまだ数人生徒が残っていた。こちらをいぶかしげに見る。ある人は隣の人にひそひそと話している。腕をつかまれたままだったのだが校門に出てからは状況が変わった。
(周りに見られてる……)
かなり目立っている。この視線は到底耐えられるものでもなく。
「わかったから、離してくれ。一緒に付いてくるから」
一喜はあきらめて沙織におとなしく付いて行くことにした。
「逃げちゃ、だめよ!」
一度校門の前で立ち止まって沙織が振り返る。その一つの仕草にでもドキッとしてしまう。怖いからではないが、頬がひきつった。
「逃げないから! 離せ!」
「離してくださいでしょ……?」
にたにたと微笑みながら言ってくる。このいたずらっぽい笑みは意外にも嫌ではない。
「離してください」
一喜が渋々言ったのを聞いてから腕を離す。一喜は、この視線に耐える事が出来なかったのだ。掴まれていた腕をよくほぐしながら、横に並んで歩く。
「えらい、えらい。ちゃんと言うこと聞いてる」
「俺は、犬かよ」
微笑みが、これほどまでに怖いものだと初めて体感した一喜だった。横に並んだまま校門をでて、坂を下る。
ここ、“第一日本魔方科楽大学共同付属高校”通称『方楽付属』は、全校生徒2000人以上のマンモス校。丘の上に本校舎とふたつの校舎があり校舎から裏側に様々な施設がある。広大な面積を誇っている高校だ。魔方は魔法を正しい方向に導くこと。科楽は、科学を楽しみながら発見することをモットーにして設立された高校らしい。
(何が魔方だ! 思いっきり学校の屋上で魔法の打ち合いしてるじゃないかよ!)
そんなこんなで巻き込まれた一喜はいい迷惑なのだが、沙織はそんな風には、微塵も雰囲気に出ていない。心の中で深いため息をして、一気に年を取ってしまったのではないかと錯覚してしまった一喜に、
「何、物思いにふけてるの?」
しっかりと隣を歩いている沙織がこちらの方を見た。
「俺の人生短かったな~と思ってただけだ」
「逃げなければいいの。逃げなければ!」
「逃げなければ…………って、逃げれれば、の間違えじゃないか?」
最後の部分は聞こえないように小声で毒づく。
(逃げたら、人が黒くなったのが出来上がるからな)
先ほどの魔法の威力を思い出して体が震える。
「ん? なにか言った?」
「何も…………それで、どこで話すんだよ?」
「付いて来れば分かるって」
坂を下った後、一本道をまっすぐ歩いていくと、商店街に出る。この商店街は、学生の懐に非常に優しい場所で、いろいろなお店がある。このお店一つ一つが学生のおかげで成り立っている。
「ここ、ここ」
学校側から商店街に入って、すぐ右手にある珈琲屋に入る。ドアを開けると軽快な鈴の音が鳴る。彼女がすぐに席を見つけて座り、一喜を手招きする。
彼女が気づいているのかは、わからないが、珈琲屋に入った途端、男性からの視線を総なめにしたのだ。そして一喜を手招きすると今度は、視線が一喜の方に集中して睨まれる。
「はぁ~~~」
深くため息をついたことに沙織は気づいていない様子だった。