第1章 落ちてくる逃げるビギニングストーリー #4
「結城君! こっち!」
「えっ! ちょっ!」
「風を一対の槍となれ!」
この言葉が言い終わるとエメラルドグリーンの淡い光が現れ、それと共に風が突き抜ける。窓が綺麗に粉砕させた。少女は魔法の力で窓ガラスをいとも簡単に破壊して見せた。
「急いで!」
「なんで、俺がこんなことに!!」
一喜と沙織は窓を飛び越え逃げる。それでも一喜は付いく。手を握っている。その手は、先程の凄い魔法を使ったとは思えない柔らかい手だった。
状況が意味不明のまま手を引っ張られ外を走る。後ろを振り返る暇もなかった。
「ほら、付いて来て!」
「どこに行くんだ?」
「屋上よ」
「何でだよ!? 逃げるところがないじゃないか」
「だからよ。逃がしてくれないなら、力で訴えないと、ね!」
沙織は校舎の中に入って行き、階段をのぼって行く。一喜は、ふと何で付いて行っているのか解らなくなった、ただ足が勝手に動くのだ。
「お待ちになってください!」
黒服の男が階段を必死に上ってくる。足音が響き渡る。一喜は振り回されている。
(何があったか分からないけどな)
一喜はどうしたらいいのか分からない。彼女に聞くのが一番なのだが、聞ける状況ではなかった。自分が本当に必要なのか、わからなかった。
足手まといになるのは避けたい。しかし、魔法を使えない。そのせいで必然的に足を引っ張ることになってしまう。それが分かりきっているのに、沙織は一喜の手を離さない。
階段の1段をのぼる音が耳に響く。ちょっと早めの音で跳ねている。まるで自分の心みたいに、扉を抜けると屋上へと出る。涼しい風が頬にあたり、熱気が吹き飛ばされていく。
目の前に黒服の男。なぜだが、巻き込まれてしまっている自分。そんな現実だった。
一喜は頭を抱える事すら出来ない。ピンチな状況。笑うしかない。魔法を使える相手に、こうして対峙している。魔法を使えない一喜が、である。死ぬだろう。死ななくても大けがを負うかもしれない。もう、わらないことだらけなせいか、どうでもよくなってきた。
普通なら焦る状況でも、何事もなかったように周りの世界が落ち着いていく。空は日光がサンサンと降り注ぎ、雲ひとつない青空が広がる。
「これから、どうするんだよ。えっと名前は」
「姫川よ。どうするかなんて愚問よ。散々追っかけまわしてくれたんだから、倍返しをしないと」
彼女の顔は薄らと微笑んでいる。一喜は、このまま流されることにした。少女にすべてを託すことにした。他人任せで甚だ格好悪いが、魔法は使えないと諦めた。今すぐに魔法が使えるわけでもない。だから、魔法を使えないに頑張ろうと、諦めたのだ。こうして、現状を認識した。諦めた。
「心強いことで……」
足は震える。けれど心臓は高鳴る。その原因が敵への恐怖なのか、彼女の事なのかは皆目見当もつかない。黒服の男が5人来る。魔法がすべての鍵を握る。
「あいつら全員、魔法を使えるのか?」
小声で話しかけると、
「当然よ」
即答だった。
「それは怖いな」
「私に任せなさい」
彼女の声は緊張気味だった。強気で意地を張っているのも、水のように透けて見える。それでも彼女の微笑みは勝利の女神を呼び寄せるような、そんな気がした。