第1章 落ちてくる逃げるビギニングストーリー #2
この出会いからさかのぼること少し前。
「ふわぁ~~~」
桜が咲き乱れる中、あくびを殺しながら歩いていた。ゴミ袋を持っており、手がふさがっている。歩いている姿が何と言っていいのか、特徴がなかった。
名前は結城 一喜。
どこにでもいる容姿に、身長も170代前半という特筆すべき点のないと自負している。
面倒くさそうに歩く。速度もゆっくり足に鉛が引っ付いているように見える。
「何で、俺が……」
決してゴミ捨てを自発的にやろうとしたわけでない。
「一喜君! お願い!」
担任の女の先生に捕まってしまい、お願いお願い攻撃をされたら、断ることもできずに、こうしてきている。これは自分が悪くない担任が悪いと、勝手に他人任せにしてしまいたい気持ちも生まれた。そんなことを考えてみたところで、今こうしてゴミ捨てをしている現実から逃げることはできなかった。
今日は始業式だけ。そのために早く帰れる予定だったのに……。これのために、自分の頭の中に描いていた放課後の計画は一瞬で消え去った。
決して女性を困らせないというポリシーがあったわけもない。ただ、ゴミ捨てをしている自分が、ここにいた。
などと、後悔に浸っていたのだが、時は流れており戻ることもできない。
「面倒くさい……」
ゴミ袋の中には上の方で紙くずなどが捨ててあったのが見えたが、それ以上は見ようという気はなかった。
たぶん、始業式に使ったゴミだろうと勝手に想像しながら足を動かす。
「しっかし、いつなったら着くんだ」
一喜たちが通っている高校は、すごくでかい、とにかくでかい、感想はそれだけ。
だから、目的地に歩いていくだけでも一苦労。
そんな場所で、ゴミ袋を2つも持たされているのだから、たまったものではない。
「早く着け」
校舎の横を歩いていて突然叫んだとなれば、頭の狂った人と言われるかもしれないが、そんなことを気にしていたら、やっていられるわけがなかった。
勝手に自己完結。
「あれか?」
ようやく目の前にお目当てのゴミ捨て場が見えてくる。
「やっとか、来るまでに数十分」
腕時計を見て、ため息をつく。心なしか腕が重く感じる。実際数十分もかかっていない。しかし、一喜の感覚では数十分の時が過ぎたように感じた。
「これでよしっと」
ゴミ捨て場に、適当にゴミ袋を投げ飛ばして手を払う。
「これで、帰れる!」
ゴミ捨てと言う一瞬の解放感を感じながら校門に行こうとしたら、
突然、真上で爆発音がする。
「なんだ!? 化学室でも爆発したか!?」
最近、突如部屋が爆発する事件が多発しているという噂を思い出す。面倒事に巻き込まれてたくなかった。
気になってしまったために、上を見る。
窓ガラスが割れた。
「誰かが……落ちてくる?」
内心では、このパターンは、女の子が!?
と、期待したのだが、
ちょうど校舎の3階部分、斜め上あたりから黒服を着ている、いかにも悪そうな男が2人落ちてきた。
「男なら、興味なし。それに厄介ごとは、ごめんだ」
今年の目標は、何事もなく平穏無事に過ごすと決めていたので、とっとと退散しようと足を速めていく。誰が見ようとも厄介ごとなのには間違えなかった。
「俺は何も見なかった。俺は何も見なかった」
自己暗示をかけて、この事を忘れようとしていたために、頭上がお留守となっていた。
「じゃまーーーーーーー!!」
女の子の声が聞こえていることも気づかなかった。いや、気付きたくなかった。
空耳だと思い込んだ。
普段通り何気ない素振りで歩いて行こうとしたら、
「俺は、関係ない。俺は関係ない…………ぐはっ!!」
背中に何かが乗り、前のめりに倒れこむ。
「いたた……」
「いってーついでに重い……」
顔と地面がキスしている今、口の中には濃厚な土の味がする。
「重いって失礼ね」
後ろから高く透き通った女性の声がした。
「頼むから、どいてくれ……」
「ごめん!」
背中の重みが無くなり立ち上がる。砂埃を払い、後ろを振り返る。
そうすると目の前に朱色のロングツーサイドアップで下の部分が波立っている美少女と言っても、まったく問題ない顔立ちの少女がいた。
太陽で輝いて見えるスカイブルーの瞳と視線が交じり合う。
そのまま、少しの間見とれてしまい、口を開けずにいた。
相手も、こちらの事を見ている。何やら体中を品定めするように見ていた。
「体は…………痛いとこないな」
幸いなことに腕や足を回してみるが痛いところなどなかった。
「ごめん、ごめん、大丈夫?」
目の前の女の子が話しかけてくる。心配そうにのぞきこんでくる。制服を着ていたので、ここの学生ということはわかる。
「あぁ、大丈夫だけど……今度から気を付けてくれよ」
一喜は、これ以上巻き込まれるのは御免こうむりたいので状況を聞かずに立ち去ろうとしたが、
「ちょっと、待って」
腕をつかまれた。
「なんだよ?」
「いいから、ちょっと」
無理やり自分の方に引っ張って腕を絡める。腕を放そうにも離れない。
「おい! 何がしたい!?」
内心焦っていたのだが、そんなことを表に出さないようにと必死に我慢している。
(二の腕に柔らかい感触が)
などと、考えてしまうのは男だから仕方ない。理性が負けそうになったのだが、何とか保つことに成功した。ついつい自分を褒めたくなる。
「ちょっと付き合ってね」
「え……付きあう?」
「そう、ちょっとだけだから」
そう言い彼女は腕を引っ張って走り始める。
一喜は『付きあう』という単語を頭の中で検索していた。
(やっぱり、付きあうって、あの付きあうか??)
頭の中は何色になったのかは、さておき。されるが儘に引っ張られていく。一喜は朱色の綺麗な髪を見つめていた。そこで思考は停止した。