第六幕 宇治2
柏木 それはあんまりな。打ち捨てられていた姫の御心を
満たして差し上げたのですよ。
源氏 ふん、ならば出家などするものか。
柏木 そもそもあなたとの縁談が無理だったのです。四十才もの
歳の差婚なんて、もってのほか。ぶつぶつ。
源氏 ぶつぶつ言うな!
(二人下界を見下ろして)
源氏 それみたことか薫も男よ。はじめから大君が目当てじゃった。
俗聖も何もあったもんじゃない。むっつりスケベじゃ。
柏木 なんということを。周りもすべて円満になるようにとの慈悲の
表れですよ。
源氏 大君にてこずったのが失敗じゃな。力ずくでもよかったに
柏木のように。な?
柏木 姫の誇りを守るためです。
源氏 慈悲が臆病な女のわがままに負けたのじゃ。女も男も悪い。人は変わ
れる。が、変わるには勇気がいる。意気地なしが人を不幸にするのじゃ。
〽 人里離れた山奥に。山奥に。
ほう、そんなところに。
みめ麗しき姫二人 いたら
いたら。ひょっとしたら
あるかもしれない
あるかもしれない ふふふふふ。
(二人、下界を見下ろして)
源氏 なんという情けない匂う宮。私の孫ともあろうものが薫に頼んでおるわ。
柏木 いやいや宮様ともなると自由がききませぬ、あなたの時のようには。
女たらしですね、うまいこと言って、匂う宮様は。
源氏 薫も薫じゃ、得意げに恩を売ろうとしている。あさましい心根じゃ。
柏木 根が優しいから心配りをしているのですよ。
源氏 そうかな?あ、それ見たことか。中の君への美人局
なれば大君我がもとへ。ああなんというあさましさ。
柏木 申し訳ありませぬ。これが原因で大君は死の床へ着かれました。