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隣に座ったその女の子をまじまじと見つめた。
「天照結さんだよね」
とりあえず声をかけてみる。彼女は目を会わせないようにこちらを向いた。
特別強そうと言う訳でもなく、猫の飾りの着いたピンで前髪を留めた、くりっとした目の可愛らしい女の子だった。昨日の回し蹴りを決めた姿とはどうしても繋がらないため、呆然としてまたじっと見つめてしまった。
聞きたいことは山ほどあったのだが、なんせあの時は暗かったから昨日の子と今目の前の子が同一人物だと確信が持てなかった。
俺が迷っていると、彼女が先に口を開き俺に質問した。
「君さっきからこっち見てるけどさ、なにかボクにヨーカイ? 」
そしてしまった。と言わんばかりに口元に手を当てた。
「あっ、今のヨーカイってのは妖怪とかじゃなくて用件が有るのかなあって事だからね」
焦って更に言葉を放ったため、確信を持てた。やっぱり昨日助けてくれたのはこの子だ。聞きたい事は山ほどあった。妖怪とか禊とか何であんなに強かったのか。でもまず真っ先に言う事があった。
「ありがとう」
俺は心を込めて人生最大のありがとうを放った。
「どういたしまして、って、えっ」
「だから昨日は助けてくれてありがとう」
彼女は困惑した様子だった。
「もっと色々聞かれると思った。あっ、違う、な、なんの事かな。君を烏天狗から助けた覚えなんて無いけど」
まさかしらばっくれるつもりなのか、この子。
「もうばればれだから、変に芝居しなくて良いよ。お礼言いたかっただけだし。それに気になることは沢山あるけど危なそうだからいいや」
「そ、そうなんだ」
そう言った彼女は少し残念そうだった。何故残念そうなのか、理由は俺にはわからなかった。聞かれたくないから誤魔化してたんじゃないのかよ。
少しすると教室の外から女子の集団の高い声が聞こえた。その声は段々大きく高くなり教室に入ってきた。
集団の中心には取り巻き不細工とは月とすっぽんな美しさを持つ女の子がいた。
それは学校のアイドル加賀美小百合さんだ。スラッとした長身、スレンダーながらも豊満な胸、そして清純の証である黒髪ロング。の、はずだけど様子がおかしい。
泣いてる、加賀美さんが泣いてる。黒髪ロングは雑にハサミを入れられたように左右のバランスがおかしくなっている。
「どうしたんだろ、かがみん」
天照さんが心配げに呟いた。
「えっ、天照さんって加賀美さんと知り合いだったの? メルアドとか知ってる? 仲良いの? 」
意外な所で学校のアイドルとの接点に興奮して質問攻めにした。
「去年クラス一緒で親友だし。メルアドなんて絶対教えないんだから」
天照さんはぷくっと膨れてしまった。