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騒々しい目覚ましの音により俺は朝を迎えた。見慣れた天井を見て思う。昨日の事は夢だ。
しかし体を起こそうとすると感じる全身の痛みにより夢から現実へ変わる。
「彼方、そろそろ起きなさい。遅刻するよ」
一階から母さんの声が聞こえた。
「起きてるよ」
そう言っていつも通りに顔洗って歯を磨いて、寝癖を直した。鏡に映る全体的に左に流れる癖毛はアイロンとか縮毛とか色々試したけどもう諦めてる。学年のカラーの緑のネクタイを巻き、紺色のブレザーを着た。
一階には母さんがいるだけだった。朝飯を食べて家を出た。
一年間通い続けた道、目を瞑っても学校にたどり着けるだろう。
いつも通りの道。塀の上の猫達の談笑を見ながら、黒猫が増えてるなとか思って、薄暗い時一人で通るにはちょっと怖い古井戸のある墓の前、いつも通り活気の無い商店街を抜け学校の校門についた。
全てが同じだった。違う事と言えば今日から二年生ってぐらいか。
「何で、何でいつも通りなんだよ」
俺の魂の叫びに同じ服を着た人達が一気にこちらを向いた。
そそくさと昇降口へ歩いた。だって可笑しいだろ、昨日あんな事があったんだぞ、なのにいつもと変わらない。
昨日の事を考えていると自然と助けてくれた女の子が思い出された。チラッとだけ見えた横顔、暗くてよく見えなかったが、どこかで見たことあるような…………無いような。
考えても仕方ないなと、昨日の事は一旦忘れて新学年の初日に集中しようと決意した。
昇降口には新しくなったクラスが張り出されていた。自分の名前は直ぐに見つけられたが、同じクラスには友達の名前がほとんど無かった。
多少の不安を感じながらも友達なんてすぐできるだろと思う事にして新しいクラスに向かった。
教室には全体の半分程の生徒が集まっていた。知り合いも少しいたがまず黒板に張り出された座席表を見ることにした。
「田中、田中っと」
席を見つけると隣が天照結という女子だと気づいた。
「てんしょうって読むのかな」
聞き慣れない珍しい名字に首を傾げながらも可愛い子かな、なんて思いながら席に着いた。
少しすると一人の女の子が教室に入ってきた。その子によって新学年の初日に集中しようとしていた決意は崩れ去った。
相手は俺を見ると明らかにばつの悪そうな表情で顔を伏せた。
そしてその髪の毛先が外側に跳ねた癖毛の女の子は俺の隣の席に座った。