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満月の光が、嘉暮町商店街と書かれた古ぼけた看板とシャッターにより閉ざされている店の列を照らしていた。
街灯はあるがに灯りはなく、その月光のみが光だが、視界を確保するには十分なほど星の無い夜空に大きく浮いていた。
そんな不気味なほど人気の無い商店街の通りを俺は歩いていた。
「もうこんな時間か。早くかえらないと、明日から高二なのに初日から遅刻はまずいな」
携帯で時間を確認すると十一時を過ぎていた。街灯一つ着いてない道を歩きながらあることを思い出していた。
『百鬼夜行』
ここ嘉暮町に昔からあって誰もが知ってる言い伝え。年に一回だけ日が沈み街から明かりが消えた時、無数の妖怪が街を歩き回るそうだ。
そしてその年に一回というのは、四月の満月、つまり今日である。
もちろんただの言い伝えであり、実際に百鬼夜行を見たなんて人は聞いたこと無いし、信じてもいない。
だがこの日だけ街の人々は日が沈む前に家に帰る。無論、俺自身もこれまでそうしてきた。実際の所、皆本気で百鬼夜行を信じてるわけではない。仕事を早く終われるちょっとした休日のような感じだ。
だから両親からも、あんまり遅くなるなとメールが来たくらいだった。
百鬼夜行なんてありえない。俺は足を速めた。
歩いていると異変に気づいた。道の奥に光がある。電気や星の光ではなく、ろうそくとか提灯の灯りのようだった。
俺はその光に恐怖を感じ足を止めると、光は徐々にこちらに近づいてきた。さらに祭りのような笛と太鼓の音が聞こえる。陽気な音なのだが得体の知れない恐怖を前にし、足がすくみ動けない。
絶対やばいここから逃げないと、今すぐにでも走り出したいが体が言うこと聞かない。
人を何人もおぶってるような上から押し付けられる生まれて初めての感覚に、声も出なければ涙も出ない。
音と光がさらに大きくなる。するとそれの正体が分かった。