「65話」最終心理戦線!
暗く……だが、闇では無く光に包まれた。そんな、懐かしさを感じさせる場所に俺はいた。
見渡す限りに荒涼とした“無”が広がって居て、俺が認知できる情報はただ、俺と言う存在だけだった。
どこかわからない……けれども、何故だか懐かしさを覚える。そんな不思議な場所だった。
漠然とした“無”に包まれたそこにはしかし、寂しさや恐ろしさなどは無く、包み込むような、仄かな暖かさに満ちたやさしさに包まれている。
世俗的なわずわしらしさなどはそこには最初からありはしなかった。
俺という存在すらも、“無”を認知し、そして観測するというだけの物に過ぎなかった。
ただただ、全てから開放された、そんな哀しい場所だった。
「しかし、お前は何もかもを束縛されている……」
そこに……整然とした“無”の中に、乱れが起こった。その乱れは老人の声だった。
俺は、鬱陶しい乱れの正体に意識を向けた。
それは、どこか見覚えのある老人の貌をした……ヒトでは無い、何かだった。
老人は俺に微笑みかけるようにして、言葉を紡いだ。
「なんだ、そんなことも忘れてしまったのか、肉体も精神も残っていないお前の……唯一の魂が」
なんなんだ、こいつはなにをいっているんだ?
深い、沈むような虚脱感のなか、俺は必死に思考を巡らした。
それでも、けして答えが出てくる言葉の意味なかった。
此処がどこであるかさえもわからない俺には答えなど最初から用意されていない。
「その様子だと弟の存在も忘れたようだな……哀れな物だ、此処にいるのはお前だけか?」
消え入りそうだ、月並みな言葉だけが月の雫の様に落ちてゆく。
月……?
そうだ、此処には光がないじゃないか⁈ 神はどこにいるんだ!
「“運命”を一からやり直そうと思ったが……お前は失敗だったかもしれないな……やはり、“かの魂”のようにはいかないか……しかし、アレも私の用意したシナリオの通りには動かなかったがな……」
目の前の老人は俺にはわからない言葉で話しかけてくる。
いや、あの言葉は俺に向けられた言葉では無いのかもしれない。
じゃあ誰に? お前は、何者なんだ? 悪魔か?
「いいや、世界には神も悪魔も無い、それどころかお前も魂も精神も肉体も無い。あるのはただ一つ……運命だけだよ」
此処はなんなんだ?
俺はなんのために此処にいるんだ?
「此処は涅槃だ、世界の何処にもありはしない……お前の内面だ……そして、お前は己の貌を失ったが故、此処にいる」
わからない、此処はどこかわかった、何故此処にいるかもわかった。
でも……でも! 俺は、ナンナンだ?
老人の声は俺の言葉には答えなかった。
この言葉には明確な答えなんか無いことを俺は知っていた。
なぜなら俺は“全て”だからだ。
肉体である以上、
精神である以上、
そして、魂である以上。
俺は全てだった。
「お前は、なんなんだと思う?自己が再び己の貌を創り出さない限り、お前は永遠にことママだ」
自己の……貌?
俺の、貌?
「そうだ、お前自身を想像し、創造せよ
さも無くば、お前は永遠にこのママだ」
俺の、貌……俺の姿。
俺を作る全ての物。
思い出す……俺は全て。
「命ある物よ、命は全ての物で作られる、お前は“全て”だ」
俺は、俺だ。
「お前は全てだ、お前は全てでてきている。お前自身の貌はけして特別な物ではない。だが、命は時としてソレを忘れがちだ」
俺は“全て”だ、“俺”を作る全てのものだ。
俺を作る全てはなんだ?
「思い出せ、創造しろ。お前が何かはお前でしかわからない。お前はお前でしかないから。……全ては、な」
ーー俺は、俺だ。
だから……
「ニア・アウグスティヌス=アントニウス……孵るか……」
☆
神は、最初から奇跡を用意していた。
時が流れ始めた時からある物、そこにある、無くてはならない。
「ーーグレイプ!!」
俺は力の限り、俺の力が及ぶ限りに愛おしい……愛おしい何かの名前を叫んだ。
空虚な空間に俺の言葉が満たされる。
まさにロゴス。
天地創造における神のミコトバのようには俺自身の魂は燃え上がった。
ひたすらに愛おしい。
ソレ……グレイプが狂おしくなるほどに恋しい。
俺はなんだ?
俺は俺そのもの、それ以外の何者でもない。何者にも縛られず、俺という存在が確立されたただ漠然とした俺という存在。
わかった。俺が何か。
俺はグレイプを守り、慈しむものだ! 俺は、彼を護り、育むことだ!
此処はどこだ?
老人はここを俺自身だといった?
その瞬間、俺は額然とした……!!
此処は……此処は! リベリヲンのなかだ!




