「64話」 オレが助ける!
グレイプくん目線でお送りしまーす
☆グレイプ
「『塵は塵に、灰は灰に』」
嘘……だろ……?
「『正しく歩む貧しい者は、曲った道を歩む富める者にまさる。』」
オレには、とても目の前の光景が信じられなかった。
禍々しさをかんじさせる漆黒の14の翼。
ガラス色の3重の光輪。
ずっと前……物心ついた時から聞いてきた兄ちゃんの神をたたえる声……
だけど……オレには、その言葉は全く知らないやつの言葉に思えて仕方がなかった。
ローレルも兄ちゃんの事を呆然として見ていた。
「て…テメェ! 何もんだ! 」
チカラの限りに叫ぶオレ、だけれど、兄ちゃんの眼はオレには向けられなかった。
「『父を嘲笑い、母への従順を侮る者の目は谷の烏が抉り出し、鷲の雛がついばむ』」
声高々に聖句を謳う兄ちゃん。
緑色の目は、天を仰いでいながら何も見てはいない。
その瞬間……
☆☆☆
「目標は完全に沈黙している……」
燃え落ちた学院の図書室で、オレと、ローレルと、そしてリーフの3人が集まっていた。
いや、正しくはローレルとオレがリーフの事を尋問していた。
椅子に縛られ、拘束されたリーフはそれでなお皮肉げに俺たちの事を見上げている。
「単刀直入に聞くぞ……アレはなんだ?」
ローレルが物静かにリーフを問い詰める。
窓からは翼で身を包んだ兄ちゃんの姿が見える。
痛む胸は、先ほどの攻撃だけのせいじゃ無いことをオレは分かっていた。
「見ての通り……ニア・アウグスティヌス=アントニウスだろう?」
ッ……⁈
オレは、自分の中からリーフに対する怒りが沸き起こるのを実感した。
けれど、オレは、リーフには何もできない。
「……あれが、あんなのが……兄ちゃんだと?」
オレは、攻めてもの抵抗としてリーフをにらめつけた。
しかし、やはりリーフは涼し気な顔をして答える。
「兄ちゃんには……翼なんか……」
オレがそこまで怒鳴ったところ、リーフに先を遮られた。
「それだけ、オレの方がお前の兄に詳しいんだ……まぁ、
正しくは、ニア・リベリヲンと言った方が正しいだろうがな……」
しかし、そこで始めて決まり悪そうに目を背けるリーフ。
その些細な変化に対して言及するのはオレではなくローレルだった。
「どうした?」
形の良い眉根を寄せて問いかける。
オレも、きっきのリーフの言葉は気になっていた。
「……ニアの背に生えている翼、その秘密を教えてくれないか?」
しかし、その口から唱えられた言葉は俺を驚愕させた。
「なっ……! どういうことだよ!」
別に、今は翼のことなんかどうでも良いじゃないか!
俺は、そんな気持ちをこめてローレルをにらめつけた。
が、リーフとローレルの間では俺の理解できない範疇での納得がされた様だった。
「……気づいたのか」
リーフの不可解な言葉。
「あぁ……アレには始めて在ったけど大体はわかった。あれは……人間だろ?」
そして、ローレルのやっぱり、ってか余計意味がわからない言葉。
お…おいおい
「チョット待ってくれ……」
兄ちゃんに色々勉強を教えられたことが在るとはいえ、やっぱりオレってバカなのかも……
そんなうなだれるオレの様子に溜息で返したのは何方だろうか?
分かったらあとで殴る。
「つまり、ニアは天使の様な人間、って事だよ」
呆れた、と言わんばかりの声色でオレに教授してくるのはローレルだった。
いや、だから兄ちゃんって元から人間だろ?
「だから、天使に見えるのは上辺だけで魂の本質としてはヒト……人間なんだ」
魂だとか、ヒトだとか……
小難しい事はわかンねぇけど……
「要するに?」
オレが更なる疑問をかぶせたところ、それに答えたのは拘束されたままのリーフだった。
「ニアは今、天使故に悪魔に堕とされた……」
そして、その言葉の続きをローレルが受け継ぐ。
「つまり、ニアから金メッキみたいな天使の力を剥ぎ取ってやるんだよ、そうすれば……」
そこまで言われれば俺にも答えが見えてきた!
「兄ちゃんが助けれるのか!」
ーー希望ーー
「あぁ、だけど……」
「どうやってニアからリベリヲンを引き剥がすか、か……」
ローレルとリーフ、2人は顎に手を当て考える。
何時の間にかリーフの拘束は解かれている、ローレルがといたのかな?
窓の外では、依然として漆黒の翼で己が身を包む兄ちゃんが映る。
まるで、蛹みたいだ……
「なに、してるんだろう……」
そう言えば、昔兄ちゃんに聞いた事が在ったけ……
何でアオムシはサナギになって、それからチョウチョウになって飛び立つのか……
兄ちゃんからの答えは、今から思えば至極当たり前で……でも、当時は感銘を受けたものだった……それは……
「“シン化”の為だろうな」
ッーー!!
一瞬、オレの心が読まれたのかと思ってびっくりしたが、直ぐにそれが先ほどのオレへの返答だったと気づく。
「進化……?」
「いや……神化だ」
ローレルの質問にリーフが低く、唸る様な声で答えた。
は……?
どっちも変わらないんじゃ……?
しかし、オレが考えているよりもずっと事態は重い様だった。
「あぁ、今あの翼の内側には2つの魂があるんだ」
へ……?
2つ?
オレのポカン顏でさっしてくれたのだろう、リーフがより細かく説明してくれた。
「ニアは今、リベリヲンに体を乗っ取られている状態だ」
うん、そこまでならオレにもわかるよ。
「そして、リベリヲンはネブカドネザルとルシファー、2つのホムンクルスの融合体だ」
……う、ん。
「で、そのホムンクルスにはネブカドネザルにしか魂が宿らなかったから、いま2つの魂がニアの中にあるわけだ」
ちょ……ッ!
チョットまてよ!
「ど、どういうことなんだ?ぜんっぜん、意味わかんねぇんだけど?」
オレの頭はどうやら細かいことを考えるのには向いていないらしい。
ったく、全部理解しきってる、って顔してる2人が羨ましいぜ。
「はぁ……まず、いくらお前でも“魂”くらいはわかるだろ?」
リーフがその朝日と同じ目に呆れをともしながら言う。
うーん……兄ちゃんからは聞いたこと在るけど……
「で、普通たましいっていうのは1人1個だな?」
へぇ~……
「ダメだ、月桂樹……オレ頭痛くなってきたわ……」
オレがやたら感心していたらローレルに頭痛を訴え始めたリーフ。
……大丈夫か?
「だからな、あの中で二つの魂は今融合を始めてるんだ! わかれ!」
……オ…おう……
リーフの気迫に押され最後はなんだかんだで頷いたが結局最後まで意味はわからなかった。
でも、分かったことは……
兄ちゃんはオレが助ける……だな?




