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「53話」 はじまり!


 俺は、学院の廊下を歩いていた。


 現在時刻は夜。


 時間が時間の為に生徒は誰一人としていない。


 では、なぜそんな時間に俺が学院の廊下を歩いているか……


 「ふぅ……」


 俺の、憂いを帯びた溜息は森閑とした廊下によく響いた。


 闇に吸い込まれる様にして反響する俺の息音は、先程から絶える事を知らない。


 俺は、おれをこんな時間にこんな場所を呼び出した物に対して軽い怒りを覚える。


 と、俺は暗い廊下のある地点に立つと、そっと、目を閉じた。


 ……『“降臨”』


 瞬間、俺の背に現れる12枚の翼達。

 頭上にはおそらく3重の光輪を頂いて居るだろう。


 窓からは、何時の間にか雲間から射した月の光が廊下をうめていた。


 白銀の光の中に、俺の影がぼぅ、と浮き上がる。


 学院の中庭には群生したサクラソウ (学名:プリムラ・スコティカ)が生えている。


 乙女椿の樹もあるが、初夏の今ではその遅咲きの椿を見ることはできない。


 確か、去年の卒業生が植えて行ったと言う百合の花も茎が大きくなってきた。


 来月ほどで開花するだろう。


 アイリスも別の花壇に植えられたはずだ。


 だが……残念なことに、学院の中庭にはオリーブの樹は無い。


 一昨年まではあったというが、その年の夏に切り落とされてしまったのだと言う。


 葡萄の樹も、同じく中庭には無いが、学院の敷地の中にない訳では無い。


 多くの葉っぱが生い茂る果樹園のなかに……  李の樹と隣り合う様に植えられている。


 そして、中庭では無いが、南の方には松の木や蓮華の華などの和の庭園がある。


 確か、そこにもサクラソウが並び咲いていたはずだ。


 俺は、閉じていた瞼を閉じた時と同様、ゆっくりと持ち上げた。


 薄銀色の月影は惜しげも無く俺の姿をうつしていた。


 先程まで居なかった、正面の人物とともに。


 その人物は現在の俺の姿をみても驚く事は無く、寧ろ面白げに苦笑してすらいた。


 「……何度みても、その姿には驚かされるな」


 皮肉のつもりだろうか?

だとすれば余りにもセンスが無いと言える。


 「何度も……と言うほど見せているつもりは無い」


 俺の、静かな怒りに呼応する様に頭上の光輪が瞬く。


 それぞれがぶつかり合って、鈴の様に甲高い音がなる。


 「そうだな、悪かった」


 と、そいつはまるで観念したと言わんばかりに腕を上げた。


 「はぁ……」


 俺は今宵何度めかの溜息をついた。

 けして肉体的な疲れからくる訳では無いそれを、俺は正直持て余していた。


 そして、突然そいつーーリーフが俺をにらめつける。


 ……覚悟はできているか?


 まるで、そんな事を問うているかの様だった。


 キツく輝く眼光はそれ自体がまるで魔力を持っているかの様だった。


 それが、王宮という異なる環境で育ったリーフの……一つの護身術なのかもしれない。


 俺は、黙っているその視線にうなづいた。


 上下される首に合わせて伸ばし放題だった髪の毛が滑る。


 ……俺の、そんな光景に小さな溜息で返すリーフ。


 銀色の世界で、俺たちは二人で共犯だった。


 そこに、椿の花が無い様に。

 オリーブもカマーリャもいなかった。


 「……これからは話す事は、国家レベルの秘密だからな、絶対他人には話すなよ」


 強い調子で釘を刺すリーフ。


 もちろん、俺はこの話を他人にするつもりなどさらさらに無かった。


 俺もまた強い意思を込めて返す。


 「あぁ、わかっている」


 俺の……そんな、確固とした姿に安心したのか、ようやく話し始めるリーフ。


 内容は、やはりカテン国に関する物だった。


 隣国のクーデターを誘発させたカテン国の動きはあまりにも速かった。


 直ぐに、周辺諸国や隣国、ツァーリ国の介入を許さず、独自のやり方で自体を収集。


 それによって、今 隣国フツクエは事実上占領状態と言える。


 だが、彼らの暴走は決して止まらない。なぜなら、彼等の目的は今だ達せられて居ないからだ。


 「……父上も貴族らも事態を申告に考えている。やはり、カテン国は危険という見方が強いな」


 静かに、厳かに、かつ強い調子で、リーフは俺に告げる。


 吐き捨てられたといっても過言ではないそのセリフは、俺の心をざわめきさせる。


 「そうか……」


 結局、おれはそう答える事で精一杯だった。


 次のそのセリフがあまりにも予想づくからだ。


 「……カテン国から、宣戦布告が上がった」


 その言葉は、何よりも静かで、何よりも喧しかった。


 恐怖や怒りや悲しみの詰まったその感情は酷く俺の心に童謡を呼んだ。


 ……そう、天使の俺が、他人が近くにいても気づかない程度には……


 

 


 


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