花嫁を忘れるな
身構えるドラキュラ伯爵の影が三つに割けたかと思うと、そこから黒い盛り上がりができていき、やがてそれは、細くしなやかな形を成してドレス姿をした三人の女が現れた。皆それぞれ、髪型は縦ロールに整えており、三人の特徴は、蛇のような風貌の赤毛、猫みたいに愛嬌ある顔立ちの金髪、冷ややかな眼差しを持つ黒髪。
ドラキュラ伯爵の花嫁登場。
三人の女は、伯爵の前に並んで立つと、ルナに向けてお辞儀をした。
まずは、赤毛から。
「お初にお目にかかりまス。わたしはマゼンダ云いますネん。どうぞよろしゅうー」
続いて、金髪。
「遠い遠い所から遥々ご苦労さんでおしたなぁ。あたしはマーガレット云いマす」
最後は、黒髪。
「女ん子の独り旅、大変でしたやろなー。ウチはリリーです。よろしゅうなぁ」
「そらどうも、随分とご丁寧に。儂は、ルナいいますけ」
そうシスター・ルナもお辞儀を返す。マーガレットが口元を指で隠して微笑んだ。
「ほほほ。礼儀正しいお嬢さんやわぁーー」
「そうですかいの? なら、お返しをひとつさしてもらいますけ」
ルナは笑顔でそう云うと、銀製の杭を指で跳ね上げた。
そして、踵で蹴飛ばした。
煌めきを見せた銀色の閃光が、マーガレットの胸を貫く。
「あわわわ……、なんやの……? これ、なんやの? ねえ……?」
目に涙を溜めて声を震わしながら、マーガレットは己の左胸に刺さる杭を指差した。その瞬間に、あっという間に粉塵と化して消失。
中央に立っていた赤毛の花嫁が生き成り倒されたものだから、両側に立つ二人の花嫁は大いに身を反らせて驚愕して叫ぶ。
「うわあーっ、うわあーっ、うわあーっ!―――なしてや、なしてや!? アナタそら不味いやろ!!」
「あかん、あかん、あかん、あかんよ! これは、あきまへん!! ルール違反やわ! ルナはん、いきなりこれはないやおまへんの!?」
その隙を狙ったルナが、残りの二人に向かって銀製の杭を投げ打った。一本は、マゼンダの眉間に。もう一本は、リリーの喉に。ルナの投げた杭は、気持ちの良いほど上手く命中してくれた。
そして、花嫁二人が消失する。
「花嫁さん方、ご苦労さんじゃったのうーー」
ルナが歯を剥いて笑みを浮かべた。