第8章:実家の「淀み」を洗い流せ(前編)
ヴィクトリアの「水の都」を喉越しで制したタケシ。次に彼の腕を強引に引いたのは、燃えるような赤い髪をなびかせ、野生味溢れる美しさを纏う遊撃剣士、カタリナでした 。
「次はアタシの故郷、『灼熱の尖塔』へ行くわよ! 我が一族は、火を操り、剣を振るうことこそが最強と信じる『火の狩猟部族』。……タケシ様のあのデタラメな熱量を見せつけて、親父の鼻をへし折ってやって!」
カタリナはニヤリと笑うと、タケシを連れて、絶えず溶岩が噴き出す活火山の麓へと向かいました。
そこは地面から熱気が立ち昇り、空が常に赤く染まった過酷な土地でした。カタリナの父である族長は、燃え盛る大剣を地面に突き立て、猛将のような威圧感でタケシを射抜きました。
「カタリナ、戻ったか。……だが、連れてきたのは火の粉一つ飛ばせそうにない『冷めた』男のようだな。火を魂とせぬ者に、我が部族の娘をやるわけにはいかん。……おい貴様、俺の火炎に耐えられるか!」
族長は大剣を振り抜き、周囲の溶岩を巻き込んだ巨大な火柱を発生させました。 「この『灼熱の檻』の中で、焼き尽くされずに立っていられるか! 逃げ場はないぞ、若造!」
タケシは、猛烈な熱波の中で平然と酒瓶を傾けました。 「……火を魂とするだ? 火力に頼ってるから、芯まで熱が通らねえんだよ。火ってのは、もっと『鋭く』扱うもんだ」
全属性・熱素圧縮 タケシは迫りくる火柱に対し、指先から極小の「水と闇の複合バレット」を放ちました。火炎の熱を一瞬で一点に吸い込み、冷気で固定。族長の最強の火炎は、タケシの目の前で小さな「青い火の粉」となって霧散しました。
全属性・閃光突撃 「火を燃やすんじゃねえ。光に変えて跳べ」 タケシは火属性に光を混ぜ、自らを一筋の閃光へと変えて「縮地」を展開。族長が次に剣を振るう隙も与えず、その背後に回って首筋に指先を突き立てました。
「……火力が自慢なら、太陽でも持ってくるんだな」
族長は、自分の火炎が指先一つで制御されたことに愕然としました。
「……バ、バカな。我が一族の誇る猛炎を、ただの『光』のように扱うだと? 貴様、一体何者だ……」
カタリナは、悔しがる父の背中を叩いて笑い飛ばしました。 「言ったでしょ、親父。タケシ様は火に焼かれるんじゃない、火を『定義』するのよ。……ほら、タケシ様直伝の『全属性・超振動火炎剣』、見せてあげるわ!」
カタリナが剣を振ると、かつての荒々しい炎ではなく、空間を切り裂くほどに研ぎ澄まされた「純白の炎」が走り、巨大な岩山を一瞬で両断しました 。
その夜、集落では族長主催の宴が開かれました。 タケシが溶岩の熱を利用しつつ、水属性で素材の水分を保ち、土属性で旨味を閉じ込めた「全属性ステーキ」を振る舞うと、族長も部族の戦士たちも、プライドを投げ捨てて貪り食いました。
「……うう、美味い。ただ焼くだけが火の道ではなかったとは。タケシ殿、ぜひ我が部族の『終身名誉火神』になってくれ!」
タケシは、カタリナに肩を抱かれながら、夜空に舞う火の粉を眺めました。 「……フン、火神なんてガラじゃねえ。……だが、この熱気の中で飲む冷えた酒は悪くねえな。カタリナ、次はあっちの冷え切った場所の奴のところへ行くか」
「ええ! どこまでもついていくわよ、アタシの師匠サマ!」
カタリナの熱い歓迎を「全属性」で制したタケシ。次に彼の腕を引いたのは、同じく火属性の遊撃剣士でありながら、より攻撃的で苛烈な剣技を誇るフランチェスカでした 。
「タケシ様、次は私の実家……王国有数の武闘派、ヴァロワ伯爵家へお連れしますわ。あそこは『火とは破壊なり』と信じる戦闘狂の集まり。……貴方の冷徹なまでの『効率的破壊』で、あの野蛮な親族共を黙らせてやって?」
フランチェスカは好戦的な笑みを浮かべ、タケシを伴って、常に硝煙の匂いが漂う軍事拠点のような領地へと向かいました。
屋敷の至る所に武器が飾られ、庭園では私兵たちが怒号を上げて訓練に励んでいます。フランチェスカの父であるヴァロワ伯爵は、傷だらけの重厚な鎧を纏い、タケシの細身な体格を見て鼻で笑いました。
「フランチェスカ、戻ったか。……だが、連れてきたのは戦場よりも厨房が似合いそうな優男だな。剣一本振れぬ者に、我が家の娘を預けるわけにはいかん。……おい貴様、我が一族の『連撃』をその身で受けてみろ!」
伯爵が号令を下すと、フランチェスカの兄弟たちが一斉に抜剣。火属性の魔力を極限まで高めた剣筋から、連続的な爆発を引き起こす連撃がタケシを襲いました。 「逃げ場はない! 爆炎に巻かれ、塵となるがいい!」
タケシは、迫りくる爆風の中で面倒そうに指を一回鳴らしました。 「……破壊だの連撃だの、無駄が多すぎる。火属性ってのは、一瞬で『結果』を出すもんだ」
全属性・エネルギー相殺(反転バレット) タケシは爆発のエネルギーを逆転させる「闇と水の複合バレット」を周囲に展開。連撃による爆炎はタケシに触れる直前、まるで時間が巻き戻ったかのように無音で鎮火し、ただの心地よい微風へと変わりました。
一点突破の衝撃 「剣を振る必要もねえ」 タケシは手近な「箸」を一本手に取ると、そこに土の密度と火の瞬発力を乗せて軽く突き出しました。その一撃は伯爵の構える大剣の「一点」を捉え、物理法則を無視した衝撃で大剣を粉々に砕き散らしました。
「……破壊したいなら、まず自分の無駄を壊してこい」
伯爵は、愛剣を箸一本で砕かれた事実に膝をつきました。
「……信じられん。魔力を込めた剛剣を、ただの木切れで粉砕するとは……。貴様、一体どのような理を操っているのだ……」
フランチェスカは、呆然とする父の横を悠然と通り抜け、タケシの隣で自身の剣を抜きました。 「お父様、これがタケシ様に教わった『純化された破壊』ですわ」
彼女が剣を一閃させると、爆発は起きず、ただ「熱」だけが極限まで圧縮された見えない刃が走り、屋敷の背後にある巨大な訓練用標的を、音もなく真っ二つに溶断しました。
その夜、ヴァロワ家では「力こそが正義」という家訓が、「味こそが正義」へと書き換えられました。 タケシが「全属性」の精密な温度管理で焼き上げた肉の塊に、伯爵も兄弟たちも、戦うことすら忘れて貪り食いました。
「……うう、美味い。これが『効率的』な美味さなのか……。タケシ殿、ぜひ我が家の指南役になってくれ!」
タケシは、フランチェスカに酒を注がれながら、満足げに鼻を鳴らしました。 「……フン、指南役は間に合ってる。……だが、この家の酒は度数が強くて悪くねえな。フランチェスカ、明日には王都へ戻るぞ。……次は、あっちの土臭い奴の番か」
「ええ! どこまでも、貴方の剣としてついていきますわ、タケシ様!」
フランチェスカの「爆炎の連撃」を箸一本でねじ伏せたタケシ。次に彼の裾を掴んだのは、物静かながらも大地のような力強さを秘めた遊撃剣士、ジュヌヴィエーヴでした 。
「タケシ様……私の実家、『アイアンルーツ公爵領』へお越しください。我が家は代々、土属性の極致を追求し、山を動かさず、己も動かさぬことを誇りとしています 。……ですが、彼らの『不動』はもはや停滞。貴方の自由な大地を見せてやってくださいな」
彼女は控えめな微笑みを浮かべつつも、タケシを離さないようにその腕をがっしりと掴みました。
そこは、見渡す限り巨大な岩山と堅牢な石造りの城塞に囲まれた領地でした。ジュヌヴィエーヴの父である当主と、岩のように屈強な親族たちが、巨大な石の棍棒を抱えてタケシを待ち構えていました。
「ジュヌヴィエーヴ、よく戻った 。……だが、連れてきたのは風に吹けば飛びそうな細い男だな。土の重圧に耐えられぬ者に、我が一族の娘をやるわけにはいかん。……おい貴様、この『不動の試練』を耐えてみろ!」
公爵が地面を叩くと、タケシの周囲の土が意思を持ったように隆起し、巨大な岩の牢獄が形成されました。さらに、上空からは何十トンもの岩石が降り注ぎ、タケシを押し潰そうとします。 「我らの一族が誇る『万象重圧』だ! この地から一歩も動けず、大地の塵となるがいい!」
タケシは、降り注ぐ巨岩をまるで見えていないかのように、悠々と腰の酒瓶に手を伸ばしました。 「……動かないのが自慢か? それはただ、重さに縛られてるだけだ。土ってのは、もっと『流動的』なもんだぜ」
全属性・土壌液状化 タケシが足元に指を触れると、公爵たちが「不動」と信じていた鋼鉄のような大地が一瞬で「全属性」の魔力により液状化。迫りくる巨岩はタケシに触れる直前、泥のように形を崩し、逆にタケシを優しく包む椅子の形へと再構築されました。
空間転位・山崩し(ランド・フリップ) 「動かない山なら、場所を変えてやるよ」 タケシが軽く手を払うと、公爵たちが陣取っていた「動かぬはずの山」の一部が、アイテムボックスの空間干渉により一瞬で数百メートル後方へ「スライド」しました。
「……山が動いたんじゃない。お前らが置いていかれたんだよ」
公爵たちは、自分たちが依って立つ大地そのものを「動かされた」事実に、腰を抜かして座り込みました。
「……馬鹿な。大地の理を書き換えるなど、神の御業か……。我が一族の『不動』が、これほどまでにもろいものだったとは……」
ジュヌヴィエーヴは、呆然とする父の前で、タケシから教わった「土と水の複合魔法」を披露しました 。 「お父様、固まるだけが土ではありません。……タケシ様に教わったのは、万物を育み、形を変えて寄り添う慈愛の大地ですわ」
彼女が手をかざすと、不毛な岩山から瞬時に清らかな泉が湧き出し、色とりどりの花々が咲き乱れました。
その夜、アイアンルーツ家では「不動」の掟が消え、賑やかな宴が催されました。 タケシが土魔法で作った即席の石窯で、全属性の炎を使ってじっくり焼き上げた「大地の恵みパイ」に、公爵も親族たちも、涙を流して舌鼓を打ちました。
「……うう、美味い。土を弄ぶのではなく、土に感謝して食べる飯がこれほどとは。タケシ殿、ぜひ我が家の『大地名誉総帥』になってくれ!」
タケシは、ジュヌヴィエーヴに膝枕をされながら、満足げに喉を鳴らしました。 「……フン、総帥なんて面倒だ。……だが、この領地の地下水は酒を割るのに最高だな。ジュヌヴィエーヴ、明日には王都へ戻る。……次は、あっちの影が薄い奴の番か 」
「はい、タケシ様。……どこまでも、貴方の足元を支え続けますわ」
ジュヌヴィエーヴの「不動の山」を動かしたタケシ。次に彼の影に音もなく寄り添ったのは、土属性の遊撃剣士でありながら、その気配を完全に消すことに長けたイザベラでした 。
「タケシ様……私の実家、『カステル・デ・オンブラ(影の城)』へ。我が一族は公爵のような華やかさとは無縁。土の理を『潜伏』と『暗殺』に捧げ、王国の影に潜むことを誇りとしています 。……ですが、彼らは闇に慣れすぎました。貴方の光で、私たちの家系にかけられた『孤独の呪い』を解いていただけますか?」
彼女は影のようにタケシの足元へ膝をつき、祈るような眼差しを向けました。
そこは地図に載っていない、深い森の地下に隠された迷宮のような屋敷でした。イザベラの父である「影の長」と、一族の暗殺者たちは、姿を見せることすらありません。
「イザベラ、余計な者を連れてきたな。我が一族の聖域に足を踏み入れる者は、影に呑まれて消えるのみ……。おい、そこに立つ男。貴様の首がいつまで繋がっているか、試してやろう」
暗闇の四方八方から、殺意を孕んだ声が反響します。
次の瞬間、死角から無数の「土属性のクナイ」が飛来し、さらに床からは影を媒介にした拘束魔法がタケシの足を絡め取ろうとしました。 「闇の中で、貴様は何も見えず、何もできぬまま終わるのだ!」
タケシは、暗闇の中で面倒そうにため息をつき、一本の木炭を取り出しました。 「……隠れるのが誇りか? それは、外の酒の味が怖いだけだろ。土属性ってのは、闇を育てるもんじゃねえ。光を『反射』させて世界を見せるもんだ」
全属性・白日夢 タケシが手にした木炭に全属性の魔力を流し込むと、それは瞬時にダイヤモンドよりも硬質な「光の結晶」へと変貌。次の瞬間、迷宮のような屋敷の隅々までを貫く、太陽のような強烈な光が放射されました。
気配の強制抽出 「隠れてるネズミを全部あぶり出せ」 光が壁や床に反射するたび、全属性の「純化」が作用し、隠密魔法を強制解除。壁の中に潜んでいた暗殺者たちや、影に化けていた父を、文字通り「白日の下に」晒し出しました。
「……眩しすぎて目が開かねえか? これが本当の『土』が持つ輝きだぜ」
影の長は、数十年守り続けてきた絶対の秘匿を一瞬で破壊された事実に、目を押さえてうずくまりました。
「……馬鹿な。我が一族の影が、これほどまでに容易く暴かれるとは……。光を透過させる土の理など、聞いたこともない……」
イザベラは、呆然とする父の前で、タケシから教わった「土と光の多層防御」を展開しました。 「お父様、隠れるのはもう終わりです。……タケシ様に教わったのは、闇を恐れず、自らが光を放って仲間を導く誇りですわ」
彼女が手をかざすと、殺風景だった地下迷宮が、光を反射する美しいクリスタルの宮殿へと書き換えられました。
その夜、カステル・デ・オンブラでは、数百年ぶりに「明かり」を灯した宴が開催されました。 タケシが「光属性」で熟成させた秘蔵の酒と、土魔法で作った器に盛られた鮮やかな料理。暗殺者として生きてきた一族の者たちは、互いの顔を初めてはっきりと見ながら、笑い合って飯を食べました。
「……うう、美味い。隣に座っているのが、こんなに優しい顔をした弟だったとは。タケシ殿、貴方は我ら一族に『居場所』をくださった……!」
タケシは、イザベラに甲斐甲斐しく食事を口に運ばれながら、不機嫌そうに鼻を鳴らしました。 「……フン、隠れて食うより、ツラ見せて食う方が美味いだろ。イザベラ、明日からはこの屋敷の壁、全部ガラス張りにしとけよ」
「はい、タケシ様。……もう、何も隠す必要はありませんわ」
イザベラの「影の城」に光をもたらしたタケシ。次に彼の袖を引いたのは、風属性の遊撃剣士であり、聖教会の名門家系に生まれたクリスティーナでした 。
「タケシ様……。私の実家、セント・ブリーズ家へお越しください。我が家は代々、聖教会の高位神官を輩出する『風の祈り手』の一族。……ですが、父たちは貴方の全属性魔法を『神の再臨』だと勘違いして、とんでもない計画を立てているようなのですわ」
彼女は困り果てた顔をしながらも、タケシを聖なる風が吹き抜ける大聖堂へと案内しました。
白亜の石造りとステンドグラスが美しい大聖堂。そこでは、クリスティーナの父である大司教と、着飾った神官たちが跪いてタケシを待ち構えていました。
「おお、全属性の主よ! 貴方こそが、古の預言に記された『万物を束ねる聖者』! さあ、この奥にある黄金の棺へお入りください。貴方の存在そのものを我が教会の『生ける聖遺物』として、永遠に崇め奉りましょう!」
大司教が杖を振ると、大聖堂の中に「風の賛美歌」が響き渡り、タケシを神格化して閉じ込めるための「聖なる風の結界」が展開されました。 「この中では俗世の汚れは一切遮断されます! さあ、食事も睡眠も忘れ、永遠の祈りの中に身を捧げるのです!」
タケシは、黄金の棺をゴミを見るような目で見つめ、手にした酒瓶を煽りました。 「……聖遺物だぁ? 冗談じゃねえ。祈るだけで腹が膨れるかよ。風属性ってのは、神を閉じ込めるもんじゃねえ。自由な『匂い』を運ぶもんだ」
全属性・概念崩壊 タケシが指先から放った「火と風の複合バレット」が結界に触れると、聖なる風は一瞬にして「スパイスの効いた美味そうな料理の香り」へと書き換えられました。
神格化の純化 「神様扱いなんて不味い酒の元だ。もっと人間らしくなりやがれ」 タケシが大聖堂の床を軽く踏むと、全属性の魔力がステンドグラスを透過して広がり、神官たちの脳内にこびりついた「狂信」という名の淀みを一瞬で洗い流しました。
「……はっ!? 我々は一体何を……。神を崇めるあまり、目の前の『人』を見ていなかったというのか……!」
大司教たちは、自分たちが築いた「虚飾の聖域」が、タケシの放つ圧倒的な「生活感」によって崩れ去ったことに愕然としました。
クリスティーナは、改心した父の前で、タケシから教わった「風の真理」を披露しました。 「お父様、祈りは閉じ込めるものではありません。……タケシ様に教わったのは、世界の隅々まで喜びと『美味い飯の匂い』を届ける、自由な風ですわ」
彼女が剣を振ると、重苦しかった聖堂の空気が一変し、外の世界から花の香りと鳥のさえずりが、心地よい微風と共に流れ込んできました。
その夜、大聖堂の礼拝堂では、祈りの代わりに「乾杯」の音頭が響き渡りました。 タケシが聖水(と称したただの水)を全属性で「極上のエール」に変え、供え物の果実をその場で絶品のおつまみに調理。
「……うう、美味い。神に捧げる前に自分が食べる。これが、これほどまでに尊いことだったとは。タケシ殿、貴方こそが我々に『生きる喜び』を教えてくれた真の聖者だ!」
タケシは、クリスティーナに聖歌を歌わせながら(歌詞は酒の歌に変更)、満足げに喉を鳴らしました。 「……フン、聖者じゃねえ。ただの呑兵衛だ。クリスティーナ、この教会の高い塔、見晴らしがいいから『ビアガーデン』に改装しとけよ」
「はい、タケシ様。……神様も、きっとこの賑やかさを喜んでくださいますわ」
聖堂の「狂信」を酒の香りで浄化したタケシ。次に彼の前に立ちはだかったのは、風属性の遊撃剣士であり、王国有数の情報網を持つベアトリクスでした。
「タケシ様……。私の実家、ヘラルド・ウィンド家へ向かいましょう。我が一族は代々、風の魔力を乗せて声を届ける『風の伝令』を司る一族 。……ですが、彼らは貴方の『全属性』という特ダネを、尾ひれをつけて世界中にバラ撒こうと画策しているのですわ」
彼女は風のように落ち着きのない一族の性質を嘆きつつ、タケシを常に伝書鳥が飛び交う「喧騒の塔」へと連れて行きました。
そこは、常に何千人もの門下生が風魔法で「噂話」を中継し続ける、情報の嵐が渦巻く場所でした。ベアトリクスの父である家長は、タケシの姿を見るなり、巨大なメガホンのような魔導具を構えて叫びました。
「来たぞ! 伝説の全属性魔導師、タケシ! さあ、今すぐお前の生い立ちから好みの女性のタイプまで全て話せ! 我が一族の風に乗せて、一秒後には隣国バルガ帝国の全家庭に号外を届けてやる!」
家長が合図を送ると、周囲の伝令たちが一斉に風魔法を起動。タケシのプライバシーを暴き、誇張した噂を拡散するための「音声増幅結界」が展開されました。 「逃げても無駄だ! お前の存在は、明日には世界中の子供の寝物語になるのだ!」
タケシは、耳を塞ぐことすら面倒そうに、手近な羽ペンを一本手に取りました。 「……喋りすぎだ。情報の鮮度を気にする前に、言葉の『重み』を知れ。風属性ってのは、音を撒き散らすもんじゃねえ。真実を『研ぎ澄ます』もんだ」
全属性・静寂の真空 タケシが羽ペンを軽く振ると、そこから「闇と風の複合バレット」が放出。塔の中の空気が一瞬で「収納」され、音を伝える媒体そのものが消失しました。
情報の純化 「無駄な噂は、酒を不味くするだけだ」 タケシが指を鳴らすと、世界中に飛びかけようとしていた「誇張された噂」の魔力そのものが、全属性の力で「ただの天気予報」へと書き換えられました。
「……な、何だ!? 我らの誇る拡散魔法が、一瞬で『明日の降水確率』に……!? 音のない世界が、これほどまでに恐ろしいとは……!」
家長たちは、自分たちの撒き散らす「ノイズ」が、タケシの一撃で完全に無力化されたことに絶望しました。
ベアトリクスは、静まり返った塔の中で、タケシから教わった「風の真髄」を披露しました。 「お父様、多くの言葉を重ねるのが伝令ではありません。……タケシ様に教わったのは、ただ一言で人の心を震わせ、真実だけを真っ直ぐに届ける、研ぎ澄まされた風ですわ」
彼女が静かに言葉を発すると、その声は魔法の助けなしに、聴く者の魂に直接響く「真理の音」となって塔を包み込みました。
その夜、ヘラルド・ウィンド家では、喧騒の代わりに「静寂を楽しむ」晩餐会が開かれました。 タケシが「風属性」で音の反射を完全に制御した空間で、耳を澄まさなければ聞こえないような繊細な「素材の音」を楽しむ料理を提供。
「……うう、美味い。咀嚼する音、酒を飲み干す喉の鳴り……。これこそが、我々が忘れていた『音の贅沢』か。タケシ殿、貴方は我らに、沈黙という名の宝を教えてくれた!」
タケシは、ベアトリクスに耳元で愛の言葉を囁かれながら(これは風魔法で周囲には一切漏れない)、満足げに喉を鳴らしました。 「……フン、静かな方が酒が進む。ベアトリクス、この塔の拡声魔法、全部『快眠BGM』用に書き換えとけよ」
「はい、タケシ様。……これからは、貴方との愛の言葉だけを、風に預けますわ」
ベアトリクスの「喧騒の塔」を静寂で包んだタケシ。次に彼の前に進み出たのは、火属性の重盾を操る屈強な美姫、エレオノーラでした 。
「タケシ様……私の実家、『バルカン鉄鋼公爵領』へ。我が一族は火属性の重盾を誇る、王国最大の兵器開発拠点ですわ 。ですが、父たちは貴方の全属性魔力を究極の『火薬』として軍事利用しようと、よからぬ野心を燃やしておりますの」
彼女は自身の重盾を握り締め、一族の「力への執着」を浄化してほしいとタケシに請い願いました。
そこは常に黒煙が上がり、巨大な炉が赤々と燃える、文字通りの軍事要塞でした。エレオノーラの父である公爵は、巨大な火炎盾を構えた開発者たちを従え、タケシを野欲に満ちた目で見つめました。
「来たか、全属性の源流よ! その無限の魔力を我が一族の火薬と合成すれば、一撃で大陸を沈める『神罰の盾』が完成する。さあ、その力を我が要塞の動力源として捧げよ!」
公爵が合図を送ると、要塞中の火属性魔力が盾に集中。タケシを爆発の連鎖で閉じ込め、その魔力を吸い出すための「熱核結界」が展開されました。 「逃げても無駄だ! この熱量は、貴様の属性を強制的に燃焼させ、我が爆薬の糧とする!」
タケシは、熱風で髪が乱れるのも構わず、手近な「空き缶」を拾い上げました。 「……火薬だの軍事利用だの、暑苦しいんだよ。火属性ってのは、命を奪う爆発のためにあるんじゃねえ。冷え切った身体を『芯から温める』ためにあるんだ」
全属性・熱エネルギー再定義 タケシが空き缶に指を触れると、要塞中の「爆発的な火の魔力」が一点に凝縮。それは破壊の炎ではなく、全属性の調和によって「最も穏やかで持続的な熱源」へと書き換えられました。
武装の調理器具化 「盾を構えてる暇があったら、これでも食って落ち着け」 タケシが足元を軽く踏むと、公爵たちが構えていた巨大な火炎盾は、全属性の力で瞬時に「最高級の鉄板」と「圧力鍋」へと分解・再構築されました。
「……な、何だと!? 我が一族が数百年かけて開発した『絶滅の防壁』が、ただの……ただの調理器具になったというのか!?」
公爵たちは、破壊の象徴だった自分たちの技術が、タケシの手で「人を養う道具」へと変えられたことに、戦意を喪失して座り込みました。
エレオノーラは、呆然とする父の前で、タケシから教わった「火の真髄」を披露しました。 「お父様、盾は敵を弾き飛ばすためのものではありません。……タケシ様に教わったのは、大切な人々を寒さから守り、温かな食事を囲むための、慈愛の火ですわ 」
彼女が重盾を振るうと、殺伐とした要塞の中に、陽だまりのような温かさが広がり、凍えていた工房の職人たちの顔に笑みが戻りました。
その夜、軍事要塞は王国最大の「鉄板焼き会場」へと変貌しました。 タケシが盾から作り直した巨大な鉄板の上で、全属性を駆使して最高級の肉を焼き上げると、公爵も兵士たちも、破壊の野心を忘れて肉に食らいつきました。
「……うう、美味い。火を殺し合いに使うのが、これほどまでに愚かしく思えるとは。タケシ殿、貴方は我らに、火の本当の暖かさを教えてくれた!」
タケシは、エレオノーラに甲斐甲斐しく肉を口に運ばれながら、満足げに喉を鳴らしました。 「……フン、爆発させるより、肉を焼く方が手間がかかるんだ。エレオノーラ、この要塞の溶鉱炉、全部『自動製麺機』に作り替えとけよ」
「はい、タケシ様。……これからは、この火を貴方との温かな家庭のために灯しますわ」
エレオノーラの「要塞」を鉄板焼き会場に変えたタケシ。次に彼の前に現れたのは、火属性の重盾使いであり、古くから神殿の聖火を守り続けてきた儀式守護者の家系出身、ロザリンドでした 。
「タケシ様……私の実家は、代々聖火を管理し、不浄なものを焼き払う儀式を司ってきました。ですが、父たちは伝統に縛られ、貴方の『全属性』を聖域への冒涜だと決めつけておりますの」
彼女は重厚な盾を抱え、一族の「力と信仰」の淀みを浄化してほしいとタケシに願いました。
そこは、険しい山間にひっそりと佇む、数千年の歴史を持つ古い神殿でした。ロザリンドの父である儀式長は、神聖な「消えずの火」を背に、厳しい面持ちでタケシを迎えました。
「不浄なる全属性の徒よ。我が一族が守るこの聖火は、真理なき者を灰に帰す。おい貴様、この火の前で己の罪を購えるか!」
儀式長が祝詞を唱えると、背後の聖火が猛烈な勢いで膨れ上がり、タケシを飲み込もうとしました。 「これこそが不純を排す神の裁き。逃れることはできぬ!」
タケシは、熱気で乾いた喉を酒で潤しながら、無造作に懐から一串の「鳥肉」を取り出しました。 「……裁きだの何だの、火が泣いてるぞ。火属性ってのは、不浄を焼くためじゃねえ。素材を『最高の状態』にするためにあるんだ」
全属性・聖火の調律 タケシが聖火に指を触れると、猛り狂っていた炎は、一瞬にして「極上の炭火」のような安定した、しかし強力な熱源へと変貌しました。
重盾のオーブン化 「盾ってのは、敵を弾くためだけに使うんじゃねえ。こうやって熱を閉じ込めて、最高の蒸し料理を作るためのもんだ」 タケシがロザリンドの構える重盾に魔力を流すと、それは熱を内側に完璧に閉じ込める「全属性オーブン」へと書き換えられました。
「……な、何だと!? 我が一族が数千年も恐れてきた聖火が、ただの……ただの焼き鳥の種火になったというのか!?」
儀式長は、自分たちの絶対的な信仰が、タケシの手で「食を豊かにする技術」へと昇華されたことに、深い衝撃を受けました。
ロザリンドは、呆然とする父の前で、タケシから教わった「火の真理」を披露しました。 「お父様、火を恐れ、遠ざけるのが信仰ではありません。タケシ様に教わったのは、大切なものを温かく包み込み、共に笑い合うための、生きた火ですわ」
彼女が重盾を振るうと、冷え切っていた神殿の中に、炭火のような優しく温かな熱気が広がり、参拝者たちの心を内側から解きほぐしました。
その夜、厳格だった神殿は、王国一の「焼き鳥屋」へと姿を変えました。 タケシが聖火で焼き上げる絶品の串に、儀式長も神官たちも、伝統の重圧を忘れて夢中で食らいつきました。
「……うう、美味い。火を恐れるあまり、火に生かされていることを忘れていた。タケシ殿、貴方こそが我らに、火の真の恩恵を教えてくれた!」
タケシは、ロザリンドに甲斐甲斐しく酒を注がれながら、満足げに喉を鳴らしました。 「……フン、聖火だろうがガスコンロだろうが、火は火だ。ロザリンド、この神殿の火、常にこの温度で維持できるようにしとけよ。いつでも焼き鳥が食えるようにな」
「はい、タケシ様。これからは、この盾と火で、貴方の心も温め続けますわ」




