第7章:不純物の根絶、そして構造のピュリファイ
アンジェリカの瞳に、かつてないほど冷徹な光が宿りました。 「人の尊厳を食い物にする害虫ども……一人として、この地を踏ませはしない」
タケシから教わった「不純物の排除」という理は、この瞬間のためにありました。武器を手に、逃げ惑う人々を狩ろうとする奴隷商人たちに対し、20名の乙女騎士と弟子たちは「慈悲なき殲滅」を開始しました。
逃亡者を追撃していた数百人の武装奴隷商人と私兵団。彼らが引き金を引こうとした瞬間、周囲の空間が「檻」へと変わりました。
マーガレット:空間圧縮 「貴方たちに、逃げる隙間も、呼吸する空間も与えません」 マーガレットが両手を合わせると、商人たちの周囲の空間が目に見えるほど歪み、圧縮されました。彼らの持っていた武器は飴細工のように捻じ曲がり、骨の砕ける音が荒野に響きます。
ガブリエラ:光の処刑 「光に焼かれて、塵になりなさい」 逃げようとする馬や私兵に対し、指先から極細の熱線バレットを連射。それは肉体を貫くだけでなく、彼らが身に着けていた魔導具や防具を、内側の魔力ごと暴走させて爆破しました。
アンジェリカ:因果の断罪(終焉のバレット) 指揮を執っていた商人の首首謀者が「金なら払う!」と叫ぶ間もなく、アンジェリカの「光と闇の反転バレット」が彼を包み込みました。 存在そのものを世界から「定義解除」する一撃。首謀者は絶叫すら残せず、一粒の灰も残さず消滅しました。
わずか数分。あとに残ったのは、静まり返った荒野と、持ち主を失い地面に転がる血塗られた金貨だけでした。
アンジェリカはその金貨を「浄化」の光で焼き払い、無害な金の塊へと変えました。 「この汚れた金は、今日からこの人たちの種籾と苗木に変わるわ」
怯えていた元奴隷たちは、自分たちを苦しめていた「悪魔」たちが、それ以上の圧倒的な力によって一瞬で消し去られた光景に、畏怖と、そして深い救いを感じていました。
殲滅が終わった戦場に、タケシがふらりと現れました。
「……おう、片付いたか。不味い血の匂いが立ち込めてやがる。アンジェリカ、仕上げだ。ここら一帯の土地を『ピュリフィケーション』で焼き固めろ。二度と変なネズミが沸かないようにな」
アンジェリカは頷き、20名の騎士たちと円陣を組みました。 「全属性、同時展開。――グランド・ピュリフィケーション!」
騎士団の放つ巨大な光柱が天を突き、戦場だった荒野は一瞬にして、清らかな香気が漂う肥沃な大地へと生まれ変わりました。
王都に巣食い、奴隷商人や旧教会と裏で繋がり、私腹を肥やし続けていた「腐敗貴族」たち。彼らは「楽園」の成功を快く思わず、自らの既得権益を守るために、最後の反逆を試みました。
しかし、アンジェリカはすでに、彼らとの「対話」や「追放」という段階を終わらせていました。タケシが教えた「不純物の排除」という言葉の重みを、彼女は冷徹に実行に移します。
アンジェリカは王都にいる20名の騎士、そして数百名の新・魔導師と騎士の弟子たちに、一斉に念話(全属性テレパシー)を送りました。
「ターゲットは『腐敗リスト』に名の挙がった12家。……一人の逃亡、一つの財産の隠匿も許さない。全地点、同時『縮地』開始」
情報の完全掌握 ガブリエラたちが放った「光の透過バレット」が貴族の館をスキャン。隠し通路、二重壁の金庫、地下の拷問部屋に至るまで、すべての構造が空間魔法の地図上に浮かび上がりました。
空間隔離(隔離バレット) マーガレットが、対象の貴族屋敷を丸ごと「時空の泡」で包み込みました。外部との通信は遮断され、屋敷内から一歩も外へ出ることは物理的に不可能となりました。
かつて権勢を誇った貴族たちは、自身の寝室や書斎で、あるいは豪華な晩餐会の最中に、突如現れた「戦乙女」たちと対面しました。
「金なら出す! 領地をやるから助けてくれ!」 「貴族の血を流して無事で済むと思っているのか!」
彼らの喚き声に、アンジェリカは静かに指を向けました。
財産の概念消去 「貴方たちが誇る富は、人々の涙でできている。……すべて、本来の持ち主へ還しなさい」 アンジェリカが指を鳴らすと、屋敷中の金銀財宝、土地の権利書、そして不正な帳簿が、アイテムボックスの応用で瞬時に「空間没収」されました。
物理的・社会的な殲滅 抵抗を試み、魔導兵を差し向けた貴族たちには、騎士弟子たちの「身体強化バレット」が容赦なく炸裂。彼らが築いた館は、全属性の力で原子レベルまで分解され、更地へと戻されました。
因果の消去 腐敗の主導者たちには、タケシ直伝の「魂の純化」が執行されました。彼らの記憶、地位、傲慢さ――そのすべてが魔法によって焼き払われ、あとに残ったのは「自分が誰かも分からぬ抜け殻」か、あるいは「塵」だけでした。
翌朝。王都の貴族街からは、12の豪華な屋敷が跡形もなく消え去っていました。そこには、タケシが適当に選んだという「香草」と「野菜」の苗が、豊かな土壌の上に植えられていました。
「……終わったよ、タケシ殿。この国から、民の生き血を吸う者は一匹残らず消えた」
アンジェリカは、朝日を浴びながらタケシの厨房へと戻りました。
タケシは、没収された貴族の隠し酒の中から、一番高価そうなボトルの栓を抜きました。
「……ふん。これでようやく、王都の空気が美味くなったな。おい、アンジェリカ。消した屋敷の跡地だが、あそこは全部、民衆のための『共同食堂』にしろ。食材は俺がエデンから取り寄せさせてやる」
「……食堂、か。貴殿らしい考えだ。では、今日からそこを『タケシ・キッチン』と呼び、王都の誰もが飢えない場所にしましょう」
アンジェリカがタケシの隣で改めてリストを検分しました。 魔物、盗賊、悪徳貴族、そして奴隷制度に至るまで、物理的な「淀み」はすべて、全属性バレットと「純化」の炎によって焼き尽くされました。
しかし、タケシは最後の一滴を飲み干すと、空の酒瓶を掲げてこう言いました。 「……物理的に消せば終わり、ってわけじゃねえ。目に見えねえ『淀み』がまだ一箇所残ってんな」
アンジェリカが居住まいを正します。タケシが指摘したのは、皮肉にも**「自らの内側」**に生じつつある問題でした。
1. 依存の構造(タケシへの過度な神格化)
「淀み」をすべて消したことで、民衆も騎士も、何かあれば「タケシ様が魔法で解決してくれる」という思考停止に陥り始めています。
現状: 自分で耕さず、自分で考えず、ただ「奇跡」を待つ。これは「支配」が「依存」に形を変えただけの新しい「不純物」です。
2. 次世代の「情報の非対称性」
「全属性」を操るアンジェリカたち20名と、それ以外の一般市民の間に、かつての貴族制度を超える圧倒的な**「力の格差」**が生まれています。
現状: この力が「正義」の名の下に振るわれ続ける限り、それは新たな「権力者」の誕生に他なりません。
3. 外界との「絶縁」
王国が完璧な楽園になりすぎたため、外の世界(隣国や未開の地)との間に巨大な摩擦が生じています。
現状: 他国からは「魔王が統治する異常国家」として恐怖の対象となっており、これが将来的な「防衛という名の侵略」を招く種となっています。
アンジェリカの新たな任務:自立のピュリフィケーション
「……なるほど。貴殿は、私たち自身が新たな『権力者』という淀みにならないよう、警告してくださっているのですね」
アンジェリカは立ち上がり、20名の騎士と弟子たちに新しい方針を打ち出しました。
魔法の一般開放(教育のピュリファイ): 「全属性」を一部の精鋭の独占物とせず、生活を豊かにするための「技術」として、全国民に基礎を教育します。
自治の促進: 騎士団による統治ではなく、民衆が自ら街を管理し、トラブルを解決できる仕組みを整えます。アンジェリカたちは「支配者」ではなく、あくまで「最後の安全装置」へと退く準備を始めました。
「……ま、そういうことだ。俺がいつまでもここにいたら、この国の奴らは自分で酒を造ることも忘れちまう」
タケシは、身軽な格好で立ち上がりました。
「俺はちょっと、隣国の皇帝のツラでも拝みに行ってくる。あいつが震えて不味い酒を飲んでるうちは、本当の平和じゃねえからな。……アンジェリカ、あとの片付けは任せたぞ」
バルガ帝国の玉座の間。皇帝が重臣たちと「王国の怪物どもをどう排除するか」という陰鬱な会議を繰り広げていた、その時でした。
守護魔法も、何重もの近衛兵の包囲も無視して、玉座のすぐ隣に「それ」は出現しました。
「……おい。そんなに怖い顔して会議してると、せっかくの酒が酸っぱくなるぞ」
「ひっ……!?」 皇帝が腰を抜かして床に転がります。そこには、王宮から掠めてきた安酒の瓶を片手に、気怠そうに座るタケシの姿がありました。
近衛兵の無力化 反射的に剣を抜こうとした兵士たちに対し、タケシは指をパチンと鳴らしました。 「全属性・静止領域」 タケシの周囲数メートルだけ、時空間が完全に固定されました。兵士たちは彫像のように固まり、瞬き一つできなくなります。
タケシは皇帝の震える手に、自分の安酒を無理やり握らせました。
「いいか、皇帝。俺がここに来たのは、あんたの国を滅ぼすためじゃねえ。……この酒を飲み干せる程度の『肝っ玉』と、もっと美味い酒を俺に献上する『誠意』があるか確かめに来たんだ」
平和の条件:美食と酒の共有 「条件は三つだ。 一つ、軍隊を解散して、その予算を全部『美味い酒と飯』の研究に回せ。 二つ、国境の壁を壊せ。不味い飯に飽きた奴が、うちの国のエデンに食いに来れるようにな。 三つ、……今後、俺の弟子たち(20名の乙女)に余計な色目を使うな。あいつらは怒ると怖いぞ」
皇帝は、タケシの底知れない魔力のプレッシャーに冷や汗を流しながらも、渡された酒を一気に飲み干しました。
「……ぐっ、はぁ! ……不味い、不味すぎるぞ、この酒は!」 「だろ? だから、あんたの国で最高の『龍の涙』の改良版を造れ。それができたら、攻め込む代わりに俺が飲みに来てやる」
タケシが「縮地」で消えた後、皇帝はすぐに全軍へ武装解除の命令を下しました。 「戦っても無駄だ。あやつは、存在そのものが『理』なのだ。……それよりも、世界一の酒を造れ! 我が国の存亡は、あの男の舌にかかっている!」
こうして、かつての軍事大国は、王国と競い合うように「究極の酒とつまみ」を開発する平和な食文化国家へと生まれ変わりました。
王都の訓練場へ戻ったタケシを、アンジェリカがいつものように待っていました。
「おかえりなさい、タケシ。……外交の結果は?」 「ああ。しばらくは静かになるだろ。あいつら、必死に酒造りの研究を始めるはずだ。……それよりアンジェリカ、腹が減った。エデンの野菜を使った新しい料理、試させてくれ」
アンジェリカは、タケシが世界から「戦いの匂い」を完全に消し去ったことを悟り、柔らかな微笑みを浮かべて彼の隣に並びました。
「不純物」が消え去り、平和が訪れた王国。しかし、タケシの周囲だけは別の意味で「戦場」と化していました。20名の乙女たちは、もはや魔物や悪徳貴族ではなく、タケシの「隣」という唯一無二の椅子を巡って、全属性魔法をフル活用したアピール合戦を繰り広げていたのです。
夕暮れ時、タケシが厨房の裏で一息ついていると、アンジェリカが静かに現れました。彼女は騎士団長としての鎧を脱ぎ、タケシに教わった「光の純化」で磨き上げた、透き通るような私服姿です。
「タケシ、今日の火加減の礼だ。……肩が凝っているのではないか?」
彼女は「縮地」を使って一瞬でタケシの背後に回り込むと、その手に「土の重力」と「風の微振動」を纏わせ、至高のマッサージを開始しました。 「私の魔力制御は、貴殿を癒やすためにこそある。……どうだ、悪くないだろう?」 頬を赤らめ、耳元で囁くアンジェリカ。しかし、そこへ次元の壁を突き破る声が響きます。
「ずるいですわ、隊長! 密着しすぎです!」
ガブリエラが「光の屈折」を解いて、タケシの膝元に現れました。 「タケシ様、私の『全属性・冷却バレット』で冷やした最高のアイスをどうぞ! はい、あーん……」
さらに、マーガレットが「アイテムボックス」から、タケシの好物ばかりを詰め込んだ特製弁当を取り出します。 「私の空間の中なら、この料理はいつでも出来立て、私の『愛』も鮮度抜群です。さあ、こちらを!」
20名の乙女たちが次々と「縮地」で現れ、タケシの周囲1メートルは、時空間が歪むほどの「美」と「熱意」の過密地帯となりました。
タケシは、四方八方から飛んでくる甘い誘惑に、酒瓶を置いて深く溜息をつきました。
「……おい、お前ら。魔法の無駄遣いすんなって言っただろ。時空を歪めてまで『あーん』をしに来る騎士団がどこにいる」
そう言いながらも、タケシはアンジェリカのマッサージを受け入れ、ガブリエルの差し出したスプーンを口に運びました。
「……ま、悪くねえな。アンジェリカ、力加減はそのまま。ガブリエラ、次はもう少し甘さ控えめだ。マーガレット、その肉は後で酒のつまみにする」
タケシのぶっきらぼうな、けれど全員を等しく受け入れる言葉に、乙女たちは顔を輝かせました。
夜、宴の喧騒が収まり、タケシが一人で月を見上げていると、アンジェリカが再び寄り添ってきました。
「タケシ。……この平和も、この温かな気持ちも、貴殿が不器用に、けれど真っ直ぐに私たちを導いてくれたおかげだ。改めて……感謝している」
彼女はタケシの手をそっと握りました。 「これからも、私たちの『師』で、そして……それ以上の存在でいてくれるか?」
タケシは少し照れ臭そうに、けれど力強くその握り返しました。 「……フン。不味い酒の匂いがしねえ限り、どこへも行かねえよ。お前らが造る『最高の酒』を飲み干すまではな」
20名の恋する戦乙女たちに見守られ、タケシの新しい日常は、甘く、そして賑やかに続いていくのでした。
「全属性」による浄化が完了した王国で、アンジェリカがついに意を決したようにタケシの元へやってきました。
「タケシ、折り入って頼みがある。……私の実家、ランカスター公爵家へ同行してくれないか。両親に、今の私を……そして、私を変えてくれた貴殿を紹介したいんだ」
いつになく真剣な、しかしどこか不安げなアンジェリカの様子に、タケシは酒瓶を置きました。 「……フン、公爵家か。また『不味いしきたりの匂い』がしそうだが、お前の頼みなら仕方ねえ。つまみの一種だと思って付き合ってやるよ」
王都から離れた由緒ある領地。そこには、かつての「規律こそが正義」と信じていたアンジェリカを育て上げた、厳格な家風が残っていました。
豪華な屋敷の門前に着くと、アンジェリカの両親――厳格な父公爵と、誇り高い母夫人が待ち構えていました。
「アンジェリカ、帰ったか。……そちらの御仁が、王都を『作り変えた』という男か。だが、見たところ魔法の杖も持たず、礼儀も知らぬようだが?」
公爵家は、代々「純血の火属性」を誇る名門。父公爵はタケシを試すように、挨拶代わりに極大の火炎魔法を庭園に放ちました。
「我が家の炎は、不純な者を寄せ付けぬ。この炎の中で平然としていられるか?」
タケシは欠伸をしながら、指をパチンと鳴らしました。 「……火属性ね。密度がスカスカだ。見てろ」
全属性・熱素吸収 タケシが軽く息を吹きかけると、公爵の放った猛烈な炎が、一瞬にして中心部へと「圧縮」され、タケシの手のひらの上で小さな、しかし超高温の「青い火の玉」へと変わりました。 「これで肉でも焼いた方が、よっぽど有意義だぜ」
その圧倒的な「理」の違いに、公爵は腰を抜かしました。
驚愕する両親の前で、アンジェリカはタケシの隣に並び、堂々と宣言しました。
「お父様、お母様。私は、この方の導きで属性の壁を超えました。今の私は、家を継ぐためだけの道具ではありません。一人の女性として、この方と共に歩むことを決めたのです」
アンジェリカの瞳には、かつての冷徹な騎士の影はなく、一人の恋する乙女としての強い光が宿っていました。
母夫人は、アンジェリカのこれまで見たこともないような幸せそうな表情を見て、涙を流しました。 「……ああ、アンジェリカ。貴女、そんなに綺麗な顔で笑えるようになったのね。伝統や属性よりも、貴女のその笑顔こそが、我が家の誇りですわ」
タケシは、公爵家の最高級のワインを勝手に開け、ラッパ飲みしながら笑いました。 「……安心しな。この娘は、俺が世界一の騎士に……いや、世界一幸せな女にしてやるよ。その代わり、この酒、全部アイテムボックスに詰めさせてもらうぜ」
その夜、ランカスター家では「全属性BBQ」が開催されました。タケシが焼く肉に、公爵も夫人も、そして屋敷の雇い人たちも皆、階級を忘れて舌鼓を打ちました。
アンジェリカは、月明かりの下でタケシの肩に頭を預けました。 「ありがとう、タケシ。……これで、私の過去もすべて『純化』された気がするよ」
「……ふん、お前の親父も最後は美味そうに酒飲んでたじゃねえか。これでよし、だ」
アンジェリカの実家での騒動(と20名の乙女たちの乱入)が一段落した頃、今度はマーガレットが、少し遠慮がちに、しかし期待に満ちた瞳でタケシの袖を引きました。
「タケシ殿……次は、私の故郷である『アイアンウォール伯爵領』へお越しいただけないでしょうか? 私の家族は代々、土属性と防御魔法を重んじる堅物ばかり。貴殿の『空間を畳む防御』を見せれば、きっと皆、ひっくり返るはずですわ!」
タケシは「またかよ」と言いたげな顔をしながらも、マーガレットの豊満な胸が腕に当たるのを無視できず、重い腰を上げました。
そこは、王国の国境を守る要塞のような領地でした。マーガレットの両親と三人の兄たちは、全員が巨大な盾を背負った、岩石のような大男たち。彼らは並んで、タケシを威圧するように立ちはだかりました。
「マーガレット! 王都で軟弱な色恋にうつつを抜かしていると聞いたが、連れてきたのはこの細身の男か? 我ら『鉄壁の一族』の試練に耐えられぬ者に、娘を預けるわけにはいかん!」
マーガレットの父伯爵が合図を送ると、三人の兄たちがタケシを囲み、土属性の極致である「重力結界」を展開しました。
「この重圧の中で、一歩でも動けるか! 我らの盾は、龍の咆哮すら防ぐのだぞ!」
タケシは、重力など感じていないかのように悠々と、懐から酒瓶を取り出しました。 「……重い盾だな。そんなもん持ってるから、視野が狭くなるんだよ。見てろ」
空間剥離 タケシが軽く指を振ると、兄たちが構えていた巨大な盾が、触れてもいないのに**「空間の裂け目」**に飲み込まれ、一瞬で消滅しました。
重力の反転 さらに、彼らが必死に維持していた重力結界を、タケシは「無属性」のバレット一発で中和。逆に彼らの足元を浮かせ、屈強な大男たちが空中でバタバタと泳ぐ羽目になりました。
「……防御ってのは、攻撃を受け止めることじゃねえ。攻撃が来る場所を『消す』ことだ。マーガレットの方が、よっぽどいい盾を持ってんぞ」
マーガレットは、空中で困惑する兄たちの前で、タケシから教わった「空間遮断」を展開してみせました。 「お父様、お兄様。私はタケシ殿から、物理的な壁ではなく『概念の壁』を教わりました。もう、重い盾に縛られる必要はないのです!」
その圧倒的な「理」を目の当たりにした伯爵は、地面に手をつきました。 「……完敗だ。我らが一族が何百年も守ってきた技術が、これほどまでに古臭く見えるとは……。タケシ殿、娘を……いや、我ら一族を導いてはくれぬか!」
その夜、堅物だった伯爵家は一変。マーガレットがアイテムボックスから取り出した「王都の最新スイーツ」と、タケシが空間魔法で冷やした最高級の酒により、大男たちが涙を流して喜ぶ宴となりました。
「う、うまい……! 盾を置いた後に食べる飯が、これほど美味いとは!」
マーガレットはタケシの隣で、幸せそうに特大のケーキを頬張っています。 「タケシ殿、私の家もこれで安泰ですわ。……さて、次はどなたの実家へ行きましょうか?」
マーガレットの実家での「鉄壁崩壊」の後、次にタケシの袖を引いたのは、普段は冷静沈着で知的な軍師役、エリザベスでした。
「タケシ様……。私の実家、フォント・ブラウ家にも顔を出していただけませんか? 我が家は代々、王国の儀式と魔導書の管理を司る『知識の守護者』。……きっと、貴方の型破りな全属性理論に、頭の固い年寄りたちが卒倒する姿が見られるはずですわ」
エリザベスは眼鏡をクイと押し上げ、不敵な笑みを浮かべました。
そこは広大な領地というより、巨大な図書館のような場所でした。エリザベスの父である当主と、白髭を蓄えた長老たちは、タケシを見るなり山積みの古い魔導書を広げて詰め寄りました。
「エリザベス! 貴様、こんな得体の知れない男を連れてくるとは! 魔法とは詠唱、陣、そして数式。全属性などという出鱈目を、この知の聖域で口にするな!」
長老たちはタケシを包囲し、床に描かれた巨大な「古代魔法陣」を起動しました。 「この陣は、対象の魔力属性を強制的に分離し、無力化する。さあ、貴様の『全属性』とやらが、いかに脆いか証明してやろう!」
タケシは、目の前で光り輝く魔法陣を冷めた目で見つめました。 「……文字が多すぎる。数式に頼るから、魔力が『淀む』んだよ。全属性ってのは、もっとシンプルだ」
情報の圧縮 タケシが魔法陣の「核」に向けて指を鳴らすと、陣に刻まれた複雑な文字が一瞬で一点に吸い込まれ、タケシの手のひらの上で小さな、真っ黒な「点」へと圧縮されました。
情報の書き換え(オーバーライト) タケシはその「点」に指で何かを描き込み、陣に投げ返しました。 「ほら、こっちの方が効率的だぞ」 瞬間、古代魔法陣は「全属性の黄金の輝き」へと書き換わり、周囲の魔導書すべてに「最新の全属性理論」が自動的に追記され始めました。
「な、なんという事だ……! 我らが数百年かけて解明できなかった真理が、一瞬で……!」
エリザベスは、腰を抜かした長老たちの前で、タケシから教わった「全属性同時思考」を披露しました。 「お父様、知識は守るものではなく、誰かのために使うものです。タケシ様は、それを『美味い酒を飲むための道具』にまで昇華させたのですわ」
彼女は、複雑な儀式魔法をわずか一秒で「簡略バレット」に変換し、屋敷中の埃を一掃する「ピュリフィケーション」を放ってみせました。
その夜、フォント・ブラウ家では「知識」の代わりに「美味」が溢れました。 エリザベスは、タケシのために古い魔導書の棚から、何百年も隠されていた「伝説の古酒」の処方箋を掘り出し、タケシに捧げました。
「タケシ様、これこそ我が家の最大の秘密。……貴方の手で、この『知識』を『現実の味』に変えていただけませんか?」
タケシは、古代の処方箋を眺めて鼻を鳴らしました。 「……フン、なるほど。この成分なら、光属性で熟成を加速させりゃ、今すぐ飲めるな。おい、エリザベス、手伝え」
二人は並んで、魔法を使って「伝説の酒」を一瞬で醸造。その香りは、王都全域に届くほどの芳醇さでした。
エリザベスの実家で「伝説の古酒」を再現し、知の守護者たちを酔い潰したタケシの前に、次はヴィクトリアがしとやかに、しかし逃がさないという強い意志を込めて進み出ました。
「タケシ様……。次は私の実家、ハインライン公爵家へ。我が家は代々、王国の『水』と『物流』を司る名家。……ですが、父は水属性の純血主義者。他の属性が混ざることを『不浄』と呼んで忌み嫌っているのですわ」
ヴィクトリアは、タケシの腕をそっと抱き寄せ、冷ややかな微笑みを浮かべました。 「貴方の『全属性』で、その凝り固まった常識を……美しく洗い流して差し上げて?」
そこは、美しい運河と巨大な噴水に囲まれた、水の芸術とも呼べる領地でした。ヴィクトリアの父、ハインライン公爵は、クリスタルの杖を手に、氷のように冷たい視線でタケシを迎えました。
「ヴィクトリア、不浄な男を連れてきたな。水こそが万物の源であり、最も高貴な属性。火や土などという泥臭い魔力が混ざった『全属性』など、我が家の清流には一滴たりとも入れさせん!」
公爵が杖を振ると、庭園の巨大な噴水が意思を持った蛇のようにうねり、タケシを囲む巨大な「氷の牢獄」を作り上げました。
「この氷は、あらゆる熱を遮断し、時をも凍らせる絶対零度の結界。不浄な魔力など、発動する前に凍りつくわ!」
タケシは、凍てつく空気の中で鼻を鳴らし、懐から一本の空のグラスを取り出しました。 「……水が一番高貴? 笑わせんな。水ってのは、他のもんが混ざって初めて『味』が出るんだよ。……見てろ」
不純物の定義 タケシが氷の壁に指を触れると、絶対零度の氷が、触れた場所から「全属性の黄金色」に変色し始めました。
属性の循環(全属性サイクリング) 「火で溶かし、土で濾過し、風で香りを乗せ、光で純化する。……これが本当の『美味い水』だ」 タケシが魔力を流し込むと、公爵の最強の結界は、一瞬にして最高級の「全属性ミネラルウォーター」へと変わり、心地よい水音を立ててグラスに注がれました。
「な、何だと……!? 我が家の絶対零度の氷が、一瞬で『最高の飲み物』に書き換えられたというのか……!」
ヴィクトリアは、腰を抜かした父の前で、タケシから教わった「水の多層構造」を展開しました。 「お父様、純粋すぎる水には魚も住みません。……タケシ様に教わった『混ざり合う美しさ』こそが、真の清流なのですわ」
彼女が指先から放った「水と光の乱反射バレット」は、ドブ川のようだった裏路地の排水を一瞬で「真水」へと変え、街全体を清らかな香りで包み込みました。
その夜、ハインライン公爵家では、伝統の「沈黙の晩餐」ではなく、運河を舞台にした賑やかな晩餐会が開かれました。 公爵は、タケシが結界から作り出した「全属性の水」を一口飲み、そのあまりの奥深さに涙を流しました。
「……私は、なんと狭い世界にいたのだ。この水こそ、我が一族が数百年追い求めた『神の雫』ではないか!」
タケシは、運河のほとりでヴィクトリアに酌をさせながら、満足げに喉を鳴らしました。 「……フン、水が美味けりゃ、どんな酒を割っても美味くなる。ヴィクトリア、この水、王都の俺の店まで毎日『空間転送』で送れよ」
「ええ、喜んで。……タケシ様の喉を潤すのは、私の一族の誇りですわ」




