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シルヴァーナ王国浄化伝  作者: 慈架太子


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第4章:王都制圧、そして乙女たちの覚醒

王都に帰還したアンジェリカ一行は、国王の全面的な信頼を得て、王宮の一角に広大な「紅蓮と聖盾騎士隊」専用の訓練場を設立しました。


そこは最新の魔法障壁で覆われ、タケシが教えた全属性バレットをどれだけ撃ち込んでも壊れない、王国最強の修練の場となりました。


アンジェリカは、隊の守りの要である「重盾」を担う大柄な騎士たちを集めました。これまではただ耐えるだけだった彼らに、タケシ直伝の魔法理論を叩き込みます。


教育の目的: 盾を単なる物理障壁ではなく、全属性を反射・吸収し、反撃に転じる「魔法媒体」へと進化させること。


タケシは、かつて斥候だったガブリエラを指導役に指名しました。


「ガブリエラ、あんたの並列処理のセンスをこいつらに叩き込め。盾を構えながら、芯から外に魔力を広げる感覚……あんたなら教えられるはずだ」


ガブリエラは、かつての軽装から一転、重盾騎士たちの前に毅然と立ちました。


「いい? 重盾の皆。盾は『壁』じゃない。全属性を自在に操る『武器』の一部よ。まずは芯を石魔法で固め、その表面を氷の層で包んで、敵の攻撃をすべて滑らせて受け流す……並列構築、開始!」


ガブリエラの鋭い指示の下、重盾騎士たちの巨大な盾が次々と色を変えていきます。


フレイム・リアクト: 攻撃を受けた瞬間に火のバレットを全方位に放つ反撃盾。


グラビティ・シェル: 闇魔法で敵の質量を引き寄せ、その場に平伏させる重力盾。


ホーリー・ミラー: 光魔法で魔法攻撃をそのまま反射し、同時に味方を「ヒールバレット」の余波で癒やす聖盾。


タケシは訓練場の隅で、新しく新設された「特設酒場カウンター」からその様子を眺めていました。


「……ま、あいつらなら大丈夫だろ。ガブリエラも、教える方が性分に合ってるじゃねえか」


アンジェリカはタケシの隣に座り、活気づく訓練場を見渡しながら、静かに杯を掲げました。


「タケシ、見てくれ。これが貴殿が種を蒔いた、新しい騎士団の姿だ。……さて、今日はどのバレットの応用を教えてくれるんだ?」






専用訓練場の完成後、規律正しいはずの「紅蓮と聖盾騎士隊」の空気は、どこか奇妙に浮き足立っていました。


整列する隊員たちの視線は、訓練の成果を確認するよりも、場内の特設カウンターでだらしなく酒を飲んでいる一人の男――タケシに注がれています。アイアン・ゲートの地獄から自分たちを救い出し、世界の理さえ書き換えてしまったその背中は、彼女たちの目にあまりにも大きく、そして魅力的に映っていました。


特に、その中心にいる5名の幹部たちの内心は、聖騎士としての規律と、抑えきれない「女」としての感情の間で激しく揺れ動いていました。


隊長 アンジェリカ かつては「王国の盾」として冷徹なまでに己を律していた彼女。しかし、タケシに背負われ、空を舞い、絶望の中で彼の温かさに触れたあの日から、彼女の「赤」は闘志ではなく、タケシを視界に入れるたびに染まる頬の色へと変わっていました。 (タケシ……貴殿の隣が、私にとって最も心安らぐ場所だなどと、口が裂けても今は言えぬな……)


副長 マーガレット 重厚な土魔法を操る彼女は、タケシに見せられた「芯のある石」の強さに、己の理想を重ねていました。規律を重んじる彼女にとって、自由奔放なタケシは正反対の存在。だからこそ、その強引で確かな導きに、抗いがたい恋心を抱いています。


隊長補佐 エリザベス 風のように軽やかな彼女は、誰よりも早くタケシの「凄み」を理解していました。訓練中、タケシと目が合うたびに、普段の冷静さを失い、風の制御が乱れてしまうほどに彼を意識しています。


副長補佐 ヴィクトリア 清廉な水を司る彼女は、タケシが作る無骨ながらも深い味わいのスープのような、彼の本質にある優しさに気づいていました。氷のような冷静さを保とうと努めるほど、内側の熱が溶け出していくのを感じています。


斥候 ガブリエラ 指導役として重盾騎士たちを叱咤しながらも、その視線は常に訓練場の隅を追っていました。影に潜むのが仕事の彼女が、今やタケシという光に照らされ、彼に認められたい一心で声を張り上げています。


そんな乙女心に満ちた熱い視線の集中砲火を浴びているとは露知らず、タケシは不味そうに顔を顰めてグラスを置きました。


「おい、アンジェリカ。……さっきから全体の魔力の流れがガタガタだぞ。特に幹部連中、何ニヤついてんだ? 集中力が足りねえ。……ガブリエラ! 盾の奴らがサボってんぞ、もっと厳しくしろ!」


タケシのぶっきらぼうな声が響くと、5人はハッとして背筋を伸ばし、顔を赤くしながらも慌てて訓練に戻ります。


「ハ、ハッ! 申し訳ありません、タケシ殿!」 (アンジェリカの声が、心なしかいつもより弾んで聞こえるのを、タケシは気づいているのかいないのか――)





アンジェリカは、王宮での華やかな訓練から一度離れ、王都の最底辺に位置するスラム街の巡回を決めました。同行するのは、剣士隊の中でも特に腕の立つ精鋭たち――カタリナ、フランチェスカ、ジュヌヴィエーヴ、イザベラ、クリスティーナ、そしてベアトリクスの6名です。


エドモンド公爵らの失脚後、王都の治安は一時的に不安定になっており、特にスラム街は不穏な空気が漂っていました。


かつての彼女たちなら、重い鎧を鳴らして威圧的に歩くだけでしたが、今の彼女たちは違います。タケシから学んだ「全属性」と「密度」の理論は、こうした入り組んだ場所での治安維持にこそ真価を発揮しました。


カタリナとフランチェスカ(先鋒) 路地裏で暴れようとしていた野党に対し、抜剣することなく**「バインドバレット」**を放ち、影の鎖で瞬時に無力化します。「血を流さず、静かに制圧する」というタケシの教えを忠実に守っていました。


ジュヌヴィエーヴとイザベラ(中堅) 崩れかけた建物の下敷きになりかけていた子供を見つけるや、イザベラが**「土の固定バレット」で倒壊を防ぎ、ジュヌヴィエーヴが「風の浮遊」**で瓦礫をどかしました。


クリスティーナとベアトリクス(後衛) 衰弱した病人に**「ヒールバレット」**を静かに撃ち込み、タケシ直伝のスープのような栄養価の高い食事を配り歩きます。


スラムの住人たちは、これまでの「高慢な騎士団」とは違う、不思議な温かさと圧倒的な技術を持つ彼女たちの姿に、驚きと感謝の声を上げ始めました。


巡回の合間、アンジェリカはふと立ち止まり、自身の右手に宿る光を見つめました。


「カタリナ、皆。……以前の私たちなら、ここに来ても力で押さえつけることしかできなかった。だが今は、救うための術を持っている」


カタリナが頷きながら、少しいたずらっぽく微笑みました。 「ええ、隊長。……あの方が教えてくれたのは、ただの戦い方じゃなかったんですね。……でも隊長、さっきからタケシ様の話題になると、少し魔力の温度が上がっていませんか?」


「なっ……! 集中しろと言っただろう!」


アンジェリカは慌てて顔を背けましたが、紅蓮の髪よりも赤くなった耳元までは隠せませんでした。




アンジェリカを筆頭に、カタリナ、フランチェスカ、ジュヌヴィエーヴ、イザベラ、クリスティーナ、ベアトリクスの6名は、スラム街の深部にある、劣悪な環境の避難所に足を踏み入れました。


そこには、公爵らの圧政や戦乱の余波で、適切な治療を受けられず横たわる多くの病人と怪我人が溢れていました。


かつて「破壊の象徴」であった彼女たちの魔力は、今、タケシから授かった「慈悲」の形へと昇華されていました。


アンジェリカとクリスティーナ:広域治癒 二人は広場の中央に立ち、手のひらを空に向けました。 「『ヒールバレット・レイン』」 本来は一点を撃ち抜くバレットを、あえて空中で霧状に霧散させる応用技です。柔らかな光の雨が降り注ぎ、重い熱にうなされていた子供たちの顔に生気が戻り、化膿していた傷口が音もなく塞がっていきます。


カタリナとフランチェスカ:外科的処置 複雑骨折や深い切り傷を負った者に対し、二人は**「氷のバレット」で局所を冷却して痛みを麻痺させ、その後、高密度の「ヒールバレット」**を直接撃ち込みます。肉が盛り上がり、骨が繋がる奇跡を目の当たりにした住人たちは、涙を流して彼女たちの足元に跪きました。


ジュヌヴィエーヴ、イザベラ、ベアトリクス:環境改善 病の元となる腐敗した水を**「水と光のバレット」で浄化し、停滞した空気を「風のバレット」で循環させます。さらに、冷え切った家々に「火の針」**を応用した、煙の出ない熱源を設置して回りました。


「おお……聖母様だ……紅蓮の騎士団が、私たちのような汚れ者を救ってくださるなんて……」


住人たちの感謝の声が響く中、カタリナは汗を拭いながら、傍らのベアトリクスに囁きました。


「見て、ベアトリクス。タケシ様が言っていた『属性は出口の形に過ぎない』っていう言葉、今なら本当の意味がわかる気がするわ。火も水も、こうして人を救うための手に変えられるのね」


ベアトリクスも穏やかに微笑みます。 「ええ。……でも、これだけの人数を癒やすのは魔力の消費も激しいわ。……帰ったら、タケシ様にたっぷり甘えて、美味しいスープを作ってもらいましょう?」


その言葉に、アンジェリカは「甘えるとは何だ、甘えるとは!」と顔を赤くして反論しましたが、その瞳には、かつてない充実感と、愛しい師への想いがあふれていました。




アンジェリカと6名の精鋭たちは、スラム街の最も汚濁した中心部へと足を進めました。そこは、ゴミと汚水が混ざり合い、目に見えない病魔の「淀み」が物理的な重圧となって漂う場所でした。


「全員、光属性の真髄を見せてやれ。タケシに教わった、不純物を排する『純化』の理だ」


アンジェリカの号令と共に、7名は円陣を組み、天に向けて掌を掲げました。


タケシから授かった光魔法の理論。それは単に照らすことではなく、万物をあるべき清浄な姿へと還す「再定義」の力です。


光の波動の伝播 「『ピュリフィケーション』!」 7人の指先から放たれた光の弾丸バレットが空中で交差し、巨大な光の天蓋となってスラム街全域を覆いました。


汚泥と病魔の霧散 地面を這う黒い汚水が光に触れた瞬間、パチパチと音を立てて透明な水へと還り、立ち込めていた悪臭は、雨上がりの森のような清々しい空気へと書き換えられていきます。


人々の内側からの浄化 光の粒子を吸い込んだ住人たちは、長年の不摂生や毒素によって蝕まれていた内臓が浄化され、肌に健康的な艶が戻るのを感じました。まさに街そのものが「洗礼」を受けたかのような光景です。


光の余韻が消える頃、かつて暗鬱としていたスラム街は、王宮の庭園にも勝るほど清浄な空間へと変貌を遂げていました。


カタリナは、自身の指先に残る光の粒子を愛おしそうに見つめます。 「すごい……。光って、こんなに温かくて優しいものだったんですね。タケシ様は、こんな世界を当たり前のように見ていたのでしょうか」


クリスティーナやベアトリクスも、自分たちの力で街が文字通り「生まれ変わった」ことに、深い感動を覚えていました。


アンジェリカは、清まった空気を深く吸い込み、少し誇らしげに微笑みました。 「ああ。だが、これはまだ序口だ。私たちがこの力を研鑽し続ければ、この国全土を浄化することだってできる。……さあ、戻るぞ。私たちの『師』が、空腹で機嫌を損ねる前にな」


7名が清々しい顔で戻ると、そこには案の定、退屈そうに空の酒瓶を振っているタケシの姿がありました。


「……遅かったな。スラムの掃除にどれだけ時間かけてんだ。魔力の使い方は覚えたみたいだが、腹の足しにはならねえぞ」


ぶっきらぼうなタケシの言葉でしたが、その視線は、以前よりも格段に魔力の純度が上がった7名の成長を、確かに認めているようでした。






王都の背後に広がる深い森。そこはかつて、熟練の猟師ですら足を踏み入れるのを躊躇う魔物の巣窟でした。副長のマーガレットは、タケシから伝授された「新魔法」の実戦訓練と、王都の安全確保を兼ねて、精鋭斥候隊を率いて森へと分け入りました。


同行するのはガブリエラ、セシリア、オルテンシア、シャルロッテ、アレクサンドラの5名。彼女たちは斥候隊としての鋭い感覚に、タケシ直伝の魔法を融合させていました。


「全員、気を引き締めなさい。ここはタケシ殿の目の届かない場所よ。自分たちの力を証明するわよ」


マーガレットの静かな号令と共に、5名は即座に散開しました。


ガブリエラとセシリア:光と闇の隠密 二人は**「光の屈折」で姿を消し、同時に「闇の消音バレット」**を周囲に展開。気配を完全に断ち、魔物の懐へと音もなく潜り込みます。


オルテンシアとシャルロッテ:風と土の広域索敵 オルテンシアは**「風の微振動」を森全体に放ち、葉の揺れ一つで敵の数と位置を特定。シャルロッテは「土の共鳴」**を地面に流し込み、地中を移動する魔物の鼓動さえも捉えます。


アレクサンドラ:バレットの装填 全属性を均等に扱える彼女は、仲間の情報を受け取り、状況に合わせて最適な「バレット」を指先に準備します。


森の奥で、王都を狙っていた巨大な「シャドウ・ウルフ」の群れを捕捉しました。


「ターゲット確認。……仕掛けるわよ」


マーガレットが**「土の重力バレット」を放つと、ウルフたちの足元の重力が数倍に跳ね上がり、彼らは地面に這いつくばりました。そこへガブリエラたちが虚空から現れ、「氷と火の混合バレット」**を急所に叩き込みます。


かつては命がけだった魔物狩りが、タケシの「合理性」を取り入れたことで、まるで精密機械の作業のように迅速かつ無傷で進んでいきました。


狩りの合間、アレクサンドラがふと口を開きました。


「ねえ、マーガレット副長。……タケシ様って、私たちのこういう戦い方、どう思うかしら? 『もっと効率よくやれ』って、また怒られちゃうかな?」


マーガレットは少しだけ表情を和らげ、森の奥を見つめました。 「……あの方は厳しいけれど、私たちが怪我をしないことを一番に考えてくれているわ。……だから、無傷で帰ることが、あの方への一番の『お返し』になるのよ」


シャルロッテがニヤリと笑います。 「副長、そう言いながら、タケシ様のために一番いい『魔物の肉』を選んでませんか?」


「な、何を……! これは単に、栄養価の高い食料を確保しているだけよ!」


マーガレットは慌てて否定しましたが、彼女の獲物袋には、タケシが「美味い」と言っていた希少な部位が、丁寧に魔法で鮮度を保たれたまま収められていました。





訓練場の片隅で、マーガレットは真剣な眼差しをアンジェリカに向けました。手には、先ほど森で仕留めた最高級の獲物が握られたままです。


「隊長……一つお聞きしたいことがあります。私たち六属性を手にしましたが……あのタケシ殿が見せる、時を操るような動き。**『時空間魔法』**はどうやったら取得できるのでしょうか?」


アンジェリカは少しの間、沈黙しました。彼女自身も、タケシが時折見せる、まるで未来を予見しているかのような動きや、一瞬で距離を詰める理外の歩法に、同じ疑問を抱いていたからです。


アンジェリカは自身の六属性の魔力を掌に浮かせ、それをじっと見つめながら答えました。


「マーガレット、私もそれを考えていた。……だが、タケシの言葉を借りるなら、時空間魔法という『新しい属性』があるわけではないのだと思う」


「おそらく、光の速度と闇の重力、そして風の振動……これら六属性の『密度』と『精度』を極限まで高め、互いに干渉させたその『歪み』に、時の隙間があるのではないか」


タケシの教えの核心: 「彼は言っていた。『属性は出口に過ぎない』と。つまり、私たちが今持っている六属性を、単なる魔法としてではなく『世界の法則そのもの』として扱い、それらを多層的に重ね合わせる(オーバーレイ)必要があるのだ」



二人がそんな会話をしていると、背後からあくび混じりの声が聞こえてきました。


「……おいおい、いきなり高度なことを考え始めたな。時空間だと?」


いつの間にか、タケシが空の酒瓶を片手に立っていました。彼はマーガレットが持っている獲物の肉に目を留め、満足げに鼻を鳴らします。


「いいか、マーガレット。時間は『川』だ。空間は『器』だ。お前らがやってるのは、まだ川の水をバケツで汲んでぶっかけてる段階なんだよ」


タケシは指先で、空間に小さな「闇」の点を作り、その周囲に「光」を公転させました。


タケシの助言: 「時空をいじりたきゃ、まずは自分の魔力で『自分だけの小さな世界(領域)』を定義しろ。その中じゃ、お前がルールだ。光を遅くすれば時は止まって見えるし、空間を闇で圧縮すれば距離はゼロになる。……ま、今のあんたらに必要なのは、魔法を『撃つ』ことじゃなく、魔法で『世界を書き換える』意識を持つことだ」


マーガレットは深く頷きました。 「魔法で、世界を書き換える……」


「そう。それができりゃ、わざわざ飛行魔法なんて使わなくても、次の瞬間には目的地に立ってる(転移)はずだぜ」


タケシはそう言うと、マーガレットの手から鮮やかに獲物の肉を奪い取りました。


「時空間の講釈はここまでだ。この肉、スチームバレットの圧力調理で一気に仕上げてやる。アンジェリカ、お前は酒の準備だ。ガブリエラたちも呼んでこい」





タケシの言葉に火をつけられたマーガレットたちは、翌朝、訓練場の最深部にある静寂な一角に集まりました。


アンジェリカ、マーガレット、エリザベス、ヴィクトリア、そしてガブリエラの5名は、タケシが見守る中、未知の領域である**「時空間魔法」**への第一歩を踏み出します。


「いいか、まずは自分の周囲1メートルだ。そこを既存の世界から切り離し、『自分の魔力だけがルール』の空間に書き換えろ」


タケシが地面に線を引くと、5人はその中央に立ち、全属性の魔力を内側に集中させました。


「重力を一点に……空間そのものを『固める』イメージ……」 彼女の周囲1メートルだけ、空気の密度が異常に高まり、光がわずかに屈曲し始めます。


「光を遅く……風を止める……」 彼女の領域内だけ、舞い落ちる木の葉がスローモーションのように動きを止めました。


「……っ、維持するだけで、これまでの全属性魔法とは比較にならない魔力を消費するわ……!」 アンジェリカは額に汗を浮かべながら、自身の領域を「定義」し続けます。


タケシは、彼女たちの領域に向かって、無造作に小石を投げ込みました。


小石がマーガレットの領域に入った瞬間、見えない壁に衝突したように急減速し、そのまま地面にポトリと落ちました。


「悪くない。空間の密度を上げたことで、外からの物理法則を遮断した証拠だ。それが完成すりゃ、どんな超高速の矢も、お前の前じゃ『止まってる』のと変わらねえ」


次に、エリザベスが自身の領域を前方1メートル先へ「重ねる」イメージを持ちました。 彼女が半歩踏み出した瞬間、まるで映像が飛んだかのように、一瞬でその場から1メートル先へと移動していました。


「今……歩いた感覚がありませんでした。景色が、繋がった……?」


「それが『空間跳躍』の基礎だ。距離を『移動』するんじゃなく、空間を『畳んで繋げる』んだよ」


数時間の修行の末、5人はその場に崩れ落ちました。精神的な疲労は凄まじく、全身の魔力は空っぽの状態です。


「……たった1メートル、たった数秒……。時空を弄るのが、これほどまでに過酷だとは」 アンジェリカは荒い息をつきながらも、その瞳には希望の光が宿っていました。


タケシは彼女たちに、キンキンに冷えた(氷バレット製)水を差し出しました。


「ま、最初はそんなもんだ。だが、その1メートルを支配できれば、戦場じゃ無敵だぜ。……よし、今日はここまでだ。空っぽになった魔力を戻すために、特製のスタミナスープを作るぞ」





マーガレットは、先日の森での狩りを思い出しながら、切実な表情でタケシに詰め寄りました。


「タケシ殿、先ほどの空間の理論を聞いて確信しました。……『アイテムボックス』、いわゆる空間収納が欲しいのです。狩りをした獲物を鮮度そのままに、大量に保管して持ち運びたい。そうすれば、遠征先でもあなたの美味しい料理がもっと楽しめますから」


タケシは酒を飲み干すと、ニヤリと笑ってマーガレットの鼻先を指差しました。


アイテムボックスの構築:亜空間ストレージ

「食い意地が張ってる時のあんたの集中力は信頼できるな。いいぜ、アイテムボックスなんてのは、さっきの『領域の定義』の応用だ。外側じゃなく、内側に空間を作ればいい」


タケシの即席講義が始まります。


闇属性で「袋」を作る: 「まず、闇魔法で魔力の『渦』を作れ。ただし、外に放つんじゃなく、内側へ内側へと収束させるんだ。これが空間の『入り口』になる」


空間魔法で「容積」を固定する: 「その渦の奥に、さっき練習した『自分の領域』を固定しろ。物理的な壁じゃなく、魔力で編んだ『箱』だ。そこは時間の流れも、外の世界から切り離される」


光魔法で「保存」を定義する: 「仕上げに光の純化ピュリフィケーションの理を組み込め。腐敗や劣化という『変化』そのものを拒絶するルールをその箱に書き込むんだ」


マーガレットは全神経を集中させ、自身の目の前の空間を指先で円状に切り裂くイメージを持ちました。


「闇で入り口を……光で保存を……空間を、定義……!」


彼女の目の前に、直径30センチほどの、夜空を切り取ったような「漆黒の揺らぎ」が出現しました。マーガレットが恐る恐る、傍らにあった練習用の重い石を持ち上げてそこへ差し込むと、石は吸い込まれるように消え、彼女の感覚の中に「保管した」という確かな手応えが残りました。


「……入りました! 重さを感じません……それに、中の時間は止まっているようです!」


それを見ていたアンジェリカやガブリエラたちも、次々と自身のアイテムボックスを構築し始めました。


「これがあれば、潜入任務の時に予備の武器や食料をいくらでも持ち込めるわ……!」


「私は新鮮な水を大量にストックしておきます。砂漠でもどこでも、仲間を潤せますから」 


「水魔法でできるやん」タケシから突っ込みが入る。


タケシはそれを見て、満足げに頷きました。 「よし、これで全員が『歩く兵糧基地』だ。マーガレット、そのボックスには肉だけじゃなく、俺の酒も数本ストックしとけよ?」


「ハッ! 喜んで、タケシ殿!」




アイテムボックスという「無限の背負い袋」を手に入れた20名の全属性騎士たちは、その利便性を試したくて仕方がありませんでした。


「総員、装備を確認せよ! 目標は王都北方の『巨獣の森』。タケシ殿の厨房を溢れさせるほど、最高の食材を詰め込むわよ!」


アンジェリカの号令に、20名が一斉に拳を突き上げました。


かつての狩りは、獲物を運ぶための馬車や人足が必要な大がかりなものでしたが、今の彼女たちは違います。


超高速の索敵と制圧 ガブリエラ率いる斥候隊が、飛行魔法で空から、あるいは**「光の屈折」**で姿を消して森を駆け、巨大な「大角鹿」や「森王猪」を次々と発見。


鮮度を保つ「一撃」 仕留めるのは、各隊員の**「氷バレット」や「雷(光+風)バレット」**。肉を傷つけず、瞬時に仮死状態または即死させることで、最高級の鮮度を維持します。


アイテムボックスへの「一瞬の収納」 倒れた巨大な獲物の前にマーガレットたちが立つと、空間を切り裂く「漆黒の揺らぎ」が出現。数トンはある巨体たちが、重さを一切感じさせることなく、次々と彼女たちの「領域」へと吸い込まれていきました。


森の恵みを根こそぎ「保管」

獲物は肉だけではありませんでした。


ヴィクトリア: 「この清らかな湧き水も、ボックスに入れておけばいつでも冷たいまま飲めますね」


カタリナ: 「珍しい香草や、タケシ様が好むという激辛の自生スパイスも大量に確保しました!」


イザベラ: 「熟した果実も、ボックスの中なら腐りません。タケシ様にデザートを作ってもらいましょう」


わずか数時間の間に、巨獣の森から「危険な魔物」と「極上の食材」が姿を消し、代わりに20名の騎士たちのアイテムボックスがパンパンに満たされました。


夕暮れ時、王宮の訓練場に20名の騎士たちが悠々と降り立ちました。そこには、いつものように酒を飲んでいたタケシがいましたが、彼女たちの様子が少しおかしいことに気づきます。


「……おう、お帰り。随分と身軽な格好で狩りに行ったもんだな。手ぶらか?」


アンジェリカが不敵に微笑みました。 「タケシ殿、手ぶらかどうか……その目で確かめてください。皆、開放せよ!」


アンジェリカの合図で、20人が一斉に空間の入り口を開きました。


ドォォォォン!!


訓練場の地面に、巨大な猪、鹿、鳥、山のような果実、そして大量の木材までもが、まるで天から降ってきたかのように積み上がりました。


タケシは口に含んでいた酒を噴き出しました。 「……おい。これ、俺一人で全部捌けってのか!? 騎士団の訓練はどうした!」


「「「今日の訓練は、タケシ様の料理を美味しく食べることです!!」」」









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