第3章:属性の殻を壊せ!全属性魔導騎士の誕生
「ガブリエラはそのまま練習してろ。感覚を体に叩き込め」
タケシは次に、他の隊員たちへ向けて鋭い指示を飛ばした。20名の精鋭たちは、それぞれの属性に応じた「芯」の構築という、さらに高度な制御に挑む。
水属性の隊員への指示 「氷を外から固めるんじゃない。芯から外に向かって一気に凍らせるイメージでバレットを撃て。中心の硬度が上がれば、貫通力が桁違いになる」 ヴィクトリアは指先に水の球を浮かべ、その「核」となる一点へ魔力を凝縮させる。中心から結晶が爆発的に広がり、極小の、しかしダイヤモンドのように硬い氷弾が次々と虚空を撃ち抜いた。
風属性の隊員への指示 「風の奴も同じだ。外側で風を回すな。芯から外に風を纏わせるイメージで放て。螺旋の密度を上げろ」 エリザベスたちの手元で、不可視の「芯」が形成される。そこから溢れ出した風は、鋭いドリルとなって空気の壁を切り裂き、風切り音すら残さずに標的を穿った。
土属性の隊員への指示 「土の奴は、芯を石で固めて、周りを柔らかい土で囲ってバレットを撃て。着弾した瞬間に外の土がクッションになり、中の石が衝撃を逃がさず叩き込まれる」 マーガレットは地面から最も硬い鉱石の「芯」を抽出し、それを層状の土で包み込む。放たれた弾丸は岩場に激突した瞬間、土が飛び散ると同時に、中の石が岩を粉々に粉砕した。
「もちろん無詠唱だ。言葉を介している間に、敵の首は飛んでるぞ」
タケシの言葉通り、20名の隊員たちはもはや一言も発しない。ただ、指先から放たれる高密度の「弾丸」が、夜の闇を切り裂く音だけが響く。
自分の部下たちが、わずか数時間の間に、一流の魔導師でも困難な「属性の多層構築」を無詠唱で次々と成功させていく。その光景は、従来の騎士団の常識を根底から覆すものだった。
タケシは安っぽいシャツの襟を直し、満足げに鼻を鳴らす。 「……いい感じだ。これでようやく、俺が『惜しい』と言ったラインを超えてきたな」
タケシは、先ほどまでの「圧縮」とは打って変わり、魔法の根本に触れるような奇妙な訓練を始めました。
「アンジェリカ、俺の真似をしてくれ。……『火』」
タケシが短く呟くと、その手のひらに小さな火が灯ります。
「『火』」
アンジェリカが続くと、彼女の手からも慣れ親しんだ火が出ました。ここまでは当然の結果です。しかし、タケシは次にありえない言葉を口にしました。
「『水』」
タケシの手のひらに、透き通った水玉が浮かび上がります。
「……!?」 アンジェリカは目を見開きました。火の適性が極めて高い自分にとって、対極にある水属性は本来、発動すら不可能なはずだからです。
「『水』……」
アンジェリカが唱えますが、彼女の手からは何も出ません。ただ熱気が揺らぐだけです。
「水をイメージしろ。熱を奪い、形を変え、すべてを潤す水の性質を。あんたの魔力は『火』に固定されてるんじゃない、あんたの『思い込み』が火に固定してるんだ。いいか、魔力はただのエネルギーだ。属性は出口の形に過ぎない」
アンジェリカは深く息を吐き、これまでの「火の騎士」としての自分を一度捨て去るように目を閉じました。冷たく、澄んだ、流動的な水の感触を脳裏に描きます。
「……『水』」
次の瞬間、アンジェリカの手のひらから、震えるようにして小さな、しかし確かな水玉が溢れ出しました。
「……出た。私が、水を……?」
アンジェリカの手が震えています。2000の敵を倒した時以上の衝撃が、彼女を襲いました。
「よし、次は『土』だ。そして『風』。……20人全員、属性の壁を壊せ。複数の属性を芯と外殻に使い分けるのがさっきの練習だ。だが、自分の属性以外も使えるようになれば、その組み合わせは無限になるぞ」
アンジェリカが成功したのを見て、20名の隊員たちも一斉に、自らの「専門外」の属性に挑み始めました。
ヴィクトリア(水)が「火」を灯す。
エリザベス(風)が「土」の塊を作る。
それは、これまでの魔法体系の常識を根底から覆す、まさに「全属性魔導師部隊」の誕生の瞬間でした。
タケシは、さらに深く、魔法の深淵へと足を踏み入れました。
「『光』……」 タケシの右手に、夜の谷を白く照らす純粋な光の球が浮かびます。
「『闇』」 対する左手には、周囲の光を吸い込み、視覚を拒絶するような漆黒の影が渦巻きました。
アンジェリカは、もはや驚くことさえ忘れ、神聖な儀式に臨むような面持ちでタケシの言葉を追います。
「『光』……『闇』」
彼女の両手にも、瞬時に相反する二つの力が宿りました。 かつては神殿の司祭や禁忌の術者しか扱えないとされていた極性魔法。それが今、アンジェリカという一人の騎士の中で、四大属性と共鳴し、一つに溶け合っています。
「火、水、土、風、そして光と闇……。信じられん、体の内側で魔力が、まるで宇宙のように広がっていく感覚だ」
アンジェリカは自身の六属性を見つめ、静かに拳を握りしめました。
アンジェリカの変化: 彼女の瞳には、以前のような猛々しい闘志だけでなく、万物を見通すような静謐な叡智が宿り始めています。
タケシの言葉: 「属性はただの『色』だ。全色を混ぜれば無色になるし、一色を際立たせることもできる。これでアンジェリカ、あんたは相手の弱点に合わせて、無限の戦術をその手で描けるようになったわけだ」
アンジェリカに続き、その場にいた15名の隊員たちも次々と全属性を顕現させていきました。
砦の守備に残った5名には後で伝えるとして、今ここにいる精鋭たちは、魔法体系の常識が崩壊し、再構築される瞬間に立ち会っていました。
ガブリエラ(斥候): 光の屈折を利用して姿を消し、闇の刃で音もなく仕留める「究極の潜入術」の片鱗を見せる。
ヴィクトリア(水): 闇の重力で敵を拘束し、光の槍で貫くなど、相反する属性の組み合わせを試し始める。
かつては「火の盾」に守られるだけだった彼女たちが、今や一人一人が予測不能な「万能魔導騎士」へと変貌を遂げたのです。
タケシは立ち上がり、20名の隊員(砦の5名を含む全員の未来のために)の手本となるべく、流れるような動作で指先を掲げました。
「いいか、これが基本だ。属性ごとの『芯』と『密度』、それを同時に叩き込む。俺の真似をして撃ってみてくれ」
タケシの指先から、次々と異なる色彩と性質を持った弾丸が放たれ、夜の空間を切り裂いていきます。15名の隊員たちは、その一つひとつの魔力構成を食い入るように見つめ、己の手の中で再現し始めました。
ファイアバレット: 爆発を抑え、熱を極小の点に凝縮した「青い貫通弾」。
ウォーターバレット: 高圧洗浄機を遥かに凌ぐ圧力で、鋼鉄をも削り取る「超高圧水弾」。
ウィンドバレット: 真空の芯を持ち、空気抵抗を切り裂いて加速し続ける「不可視の衝撃波」。
ソイルバレット: 質量を一点に集め、着弾と同時に内部で弾ける「破砕弾」。
ストーンバレット: ダイヤモンド以上の硬度に変質させた石の芯が、あらゆる盾を貫く「鉄甲弾」。
ホーリーバレット: 魔を浄化し、精神的・魔術的な障壁を無視して対象を射抜く「輝光弾」。
ダークバレット: 光さえも吸い込み、着弾箇所の物質を崩壊・霧散させる「虚無弾」。
さらにタケシは、属性を混ぜ合わせた特殊弾を連続で放ちます。
アイスバレット: 芯から一気に凍らせ、着弾の衝撃で広範囲を氷結・粉砕する「冷気弾」。
ボイルバレット: 水の質量と火の熱量を高度に融合させ、接触した瞬間に体液ごと沸騰させる「熱水弾」。
スチームバレット: 爆発的な膨張エネルギーを一点に集約し、凄まじい推進力で飛んでいく「超音速蒸気弾」。
アンジェリカをはじめとする隊員たちは、タケシの動きをなぞるように、無詠唱で次々とバレットを放ち始めました。
「火……水……風……土……石……光……闇……!」
谷のあちこちで、属性ごとの着弾音が響きます。ある者は岩を貫通させ、ある者は枯れ木を瞬時に凍らせ、ある者は空気を切り裂く真空の刃を作り出す。
アンジェリカは、己の指先から放たれる「スチームバレット」の破壊力を見て、確信しました。 「これだ……。これがあれば、城門も、魔法障壁も、裏切り者たちの企みも、すべて等しく撃ち抜ける」
タケシは満足げに腕を組みました。 「よし。全員、全属性の基礎は入ったな。これだけのバリエーションがあれば、どんな敵が来ても詰むことはない。……さて、これ以上練習してこの谷を消し飛ばす前に、王都へ乗り込むか」
タケシは、攻撃魔法の余韻が残るなか、さらに指先を動かしました。
「殺すだけが能じゃない。……次は捕縛と拘束、それと治癒のバレットだ。これも覚えておけ。バレットの組み合わせは無限だ。時間がある時に自分で開発してみるといい」
バインドバレット(闇属性派生): タケシが放った黒い弾丸が標的に触れた瞬間、粘り気のある影の鎖へと変化し、対象をがんじがらめに縛り上げました。 「ダークバレットの『吸着』と『収束』の性質を応用しろ。物理的な力じゃ引きちぎれない影の枷だ」
アイス・バインドバレット(氷属性派生): 着弾した瞬間に芯から冷気が爆発し、対象の足元から関節までを瞬時に凍りつかせ、動きを完全に封じます。
ソイル・バインドバレット(土属性派生): 柔らかい泥の弾丸が着弾した直後、魔力で一気に水分を抜き、岩のような硬度で固めて対象を埋め込みます。
ヒールバレット(光属性派生): タケシが放った柔らかな白い光の弾丸が、怪我を負った隊員の肩に吸い込まれました。 「ホーリーバレットの『浄化』を『再生』に全振りしろ。遠くの味方をピンポイントで治療できる。前線で盾を構えるアンジェリカには特に有用だろ?」
アンジェリカたちは、攻撃から拘束、そして癒やしまでをも「バレット」という単一の形式で扱えるようになった合理性に、改めて戦慄しました。
「捕縛も、治療も……すべてこの一撃に込められるのか」 アンジェリカは、自身の掌に浮かぶ光と闇の粒子を見つめ、静かに、しかし決然と言い放ちました。
「これで、無益な殺生を避けつつ、首謀者だけを確実に捕らえることもできる。……行くぞ。これ以上の練習は、王都の裏切り者どもを標的にして行う!」
「「「ハッ!!」」」
15名の隊員は、もはや恐怖も迷いもありません。タケシから授かった「無限の可能性」をその手に、彼女たちは夜の静寂を切り裂いて王都へと突き進みます。
王都・北門。篝火がゆらめく中、交代の時間を待ちわびてあくびをする兵士たちの頭上から、静かな死神たちが舞い降りました。
「……各員、タケシ師匠に教わった通りに。一兵たりとも声を上げさせるな」
アンジェリカの低い合図と共に、闇に紛れた15名の精鋭が指先を門上の兵士たちに向けました。
シャドウ・バインド: ガブリエラを含む数名が放った**ダークバレット(拘束仕様)**が、兵士たちの足元の影に吸い込まれます。次の瞬間、影が意志を持った蛇のように這い上がり、彼らの口を塞ぎ、手足を城壁に縫い付けました。叫び声一つ上げられぬまま、兵士たちは暗闇に固定されます。
マッド・凝縮: 城門の裏側にいた重装兵たちには、マーガレットたちが放つソイル・バインドバレットが命中。着弾した瞬間にドロドロの泥が全身を包み込み、コンマ数秒で岩石のような硬度に変化。彼らは生きた石像のごとく、その場に固まりました。
アイス・フリーズ: 逃げようとした伝令兵の足元には、氷のバレットが着弾。足首から先を瞬時に凍土へ溶着させ、転倒したところを冷気の枷が優しく、しかし絶対的な力で拘束しました。
わずか数十秒。 王都の北の守りは、誰一人として血を流すことなく、そして警鐘の一打すら鳴らされることなく完全に沈黙しました。
アンジェリカは、タケシによって全属性を解放された指先で、巨大な門の閂を**風の微細な振動(ウィンドバレットの応用)**で内側から弾き飛ばしました。
「ギィィ……」という重厚な音を立てて、王都の門がゆっくりと開かれます。
「……信じられん。これほどの規模の門を、たった15人で、無傷で落とすとはな」 アンジェリカは、自身の手に宿る多多彩な魔力の残滓を見つめ、改めてタケシの「合理性」に戦慄しました。
門を抜けた先、中央大通りを少し進むと、遠くの貴族街から華やかな音楽と笑い声が風に乗って聞こえてきました。
「聞こえるか? 私たちの死を祝い、自分たちの栄華を確信している連中の声だ」
アンジェリカの瞳に、静かな、しかし苛烈な青い火が灯ります。背後の15名も、闇に溶け込みながらそれぞれの「バレット」を即座に放てるよう指先を整えています。
「タケシ、案内してくれ。奴らが一番『いい気分』で酒を飲んでいる場所へ」
王都、白銀の大広間。 そこでは内通者である貴族や将校たちが、アンジェリカたちの非業の死を確信し、冷徹な勝利の美酒に酔いしれていました。
「……では、この国を意のままに操る『新しい夜明け』に……乾杯!」
首謀者の一人が高らかに銀の杯を掲げた瞬間、惨劇ではなく、静寂による断罪が始まりました。
タケシの教えに従い、**光の屈折(光魔法)と足音の消去(風魔法)**を組み合わせた15名の精鋭たちは、すでに広間の死角へと展開していました。
乾杯の合図と同時に、広間中に「カランッ」という乾いた音が響き渡ります。貴族たちが手にしていた銀の杯が、ウィンドバレットの微細な衝撃によって一斉に叩き落とされたのです。
床にこぼれたワインが広がる暇もなく、広間中の影が触手のように伸び上がりました。 「な、何だ!? 影が……動けな……っ!」 タケシ直伝のバインドバレットが15人の指先から放たれ、広間にいた30名以上の裏切り者たちを、声すら上げさせず一瞬で壁や椅子に縫い付けました。
混乱する彼らの目の前で、虚空からスッと15人の重武装の騎士たちが姿を現します。その中心には、死んだはずの「紅蓮のアンジェリカ」が、青白い火花を散らす大剣を手に立っていました。
アンジェリカは、恐怖に顔を歪める首謀者の喉元に、高密度に凝縮された**「火の針」**を突きつけました。
「残念だったな。貴殿らが用意した祝杯は、どうやら毒よりも回りが早かったようだ」
広間には、もはや音楽も笑い声もありません。あるのは、ただ圧倒的な実力差を見せつけられた者たちの、震える吐息だけです。
「タケシ、見てくれ。こいつらの顔……トカゲに食われかけていた時の我らよりも、ずっと無様だ」
タケシは広間の隅で、並べられた高級な酒瓶を一本手に取ると、無造作に栓を抜きました。 「……ああ。だが、こいつらを捕まえる手間が省けた分、酒が不味くならずに済んだな」
ルフェーヴルも引きずり込まれ、裏切り者たちは全員が自白せざるを得ない状況に追い込まれました。王都の混乱は、血を流すことなく、この一室で収束しようとしています。
アンジェリカが「火の針」を突きつけた相手は、恐怖で顔を土気色に変え、豪華な正装を震わせていました。
捕縛された者たちの中心にいたのは、現国王の叔父にあたるエドモンド公爵でした。
王国最高位の貴族であり、軍部の予算を握る大蔵卿を兼任。
王位継承権第4位。現国王が若く病弱であることを利用し、アンジェリカのような忠臣を排除した上で、実権を完全に掌握しようと画策していました。
彼を取り囲んで拘束されているのは、国境の警備を意図的に緩めた軍務副尚書や、ルフェーヴルと通じていた商工ギルドの長など、王国の根幹を支えるべき重鎮たちでした。
「あ、アンジェリカ……! なぜ生きている……? アイアン・ゲートの要塞は、確実に落ちたはずだ。あの『化け物』共から逃げられるはずが……!」
エドモンドは、自分の手足を縛り上げている漆黒の影を必死に引きちぎろうとしますが、タケシ直伝の密度で編まれた闇は、魔力を吸い取るようにさらに強く彼を締め上げます。
アンジェリカは氷のように冷たい視線で彼を見下ろしました。
「公爵、貴殿は計算違いをしたのだ。我々の武力ではなく、この世界の理を……そして、一人の『傍観者』が持つ知恵をな」
アンジェリカは、エドモンドの胸元にある王家の紋章を、指先から放った小さな火の針で静かに焼き切り、床へ落としました。
「貴殿の祝杯は、今この瞬間、断頭台への供え物へと変わった」
広間は完全に制圧され、15名の隊員たちは各出口を封鎖しています。タケシは公爵の椅子にどっかと座り、没収した最高級のワインをラッパ飲みしながら、この茶番劇を眺めています。
「さて、アンジェリカ。首謀者は捕まえた。王族の醜聞をどこまで暴くかはあんた次第だが……このまま国王の寝所に案内するか? それとも、ここでこいつらの息の根を止めて『事故』にするか?」
アンジェリカは血の気の失せたルフェーヴルを、タケシと共に王の寝室の前へと連行しました。重厚な扉を衛兵たちが開けるのを待たず、アンジェリカは静かに、しかし力強く扉を開きました。
寝台の上で病に伏せる若き国王が、突然の来訪に驚き、身を起こします。
「アンジェリカ隊長……? アイアン・ゲートに向かったはずでは……それに、その者は……」
「陛下、失礼を承知で申し上げます。このルフェーヴル、および大蔵卿エドモンド公爵による反逆を鎮圧いたしました」
アンジェリカは、タケシから学んだ**「ヒールバレット」**を、指先から寝台の王に向けて放ちました。
柔らかな光の弾丸が王の胸元に吸い込まれた瞬間、長年の毒物摂取や衰弱によって青白かった王の肌に、みるみるうちに赤みが差していきます。
濁っていた瞳は澄み渡り、震えていた呼吸は力強いものへと変わりました。
「……あ、ああ……体が、軽い……。これほどまでに力が湧いてくるとは……」
アンジェリカは膝をつき、報告を続けます。 「陛下、これは一時的なものではありません。魔力の密度を上げ、細胞そのものを直接癒やす『真の治癒』です。真実を語るための力を、今お与えしました」
タケシは王の寝室であっても、相変わらず安っぽいシャツの襟を正すこともなく、片手に持ったワインの瓶を軽く掲げて見せました。
「よお、陛下。あんたの国は、腐った身内とこのトカゲ野郎のせいで、もう少しで『アーマーリザードの餌場』になるところだったぜ。ま、今の一撃であんたの体は、そこらの兵士よりずっと健康だ」
国王は、目の前の「最強の魔導騎士」へと進化したアンジェリカと、その背後に立つ「得体の知れない男」タケシを交互に見つめ、全てを悟ったように深く溜息をつきました。
「……アンジェリカ。その方の言葉が真実であることは、その瞳を見ればわかる。エドモンド叔父上が、私を、そしてこの国を裏切っていたのだな……」
夜明け前の王都に、奇跡が訪れました。
病に伏していたはずの若き国王が、アンジェリカとタケシを伴い、中央広場のバルコニーに姿を現したのです。
「国民よ、そして兵士たちよ! 私は健在なり!」 王の力強い声が広場に響き渡ります。その傍らには、捕縛され、泥と影の枷に繋がれたエドモンド公爵をはじめとする裏切り者たちが、無様に転がされていました。
「彼らは私を欺き、忠義なる『紅蓮と聖盾騎士隊』を見捨て、この国を怪物に売り渡そうとした。その罪、万死に値する!」
国民の地響きのような歓声が上がる中、エドモンドたちの身柄は近衛兵へと引き渡されました。しかし、アンジェリカの心はすでに、遠く離れた砦に残る5名の仲間の元へ飛んでいました。
「陛下、残りの部下たちを救うため、一時離脱の許可を!」 アンジェリカの言葉に、タケシがニヤリと笑って割って入りました。
「馬で行くつもりか? 遅すぎるぜ。……全員、俺の真似をしろ。風魔法の『芯』を足元に作り、重力を『レビテーション』で相殺しろ。 弾丸として自分を放つイメージだ」
タケシの助言に従い、15名の騎士たちは一斉に魔力を練り上げました。
足元から噴出する高密度の風魔法。
重力の呪縛を解く無詠唱のレビテーション。
「飛ぶぞ、総員!」 アンジェリカの号令と共に、15名の騎士たちは王都の石畳を蹴り、弾丸のような速度で夜空へと舞い上がりました。
王都の住人たちが空を見上げ、彗星のように流れる15の光に息を呑みます。 本来なら数日かかるアイアン・ゲートまでの道のりを、彼女たちは新魔法を駆使し、わずか数十分で踏破しようとしていました。
「……見えるわ、砦が!」 斥候のガブリエラが叫びます。砦の周囲には、残党や怪物たちが再び集まりつつありましたが、空から降臨する「全属性魔導騎士団」の前では、それらはもはや標的ですらありませんでした。
「5人を待たせすぎたな。……全属性バレット、掃射開始!」
アンジェリカの叫びと共に、15名の騎士たちは空中から色とりどりの「弾丸」を放ち、仲間の待つ砦へと突入していきました。
空中から降り注ぐ全属性バレットの豪雨により、砦を包囲していた残党や魔物たちは、反撃の暇もなく一掃されました。
「隊長! 皆さん! その姿は……一体……!?」
砦を守り抜いた5名の隊員たちは、空から飛来し、見たこともない多色多彩な魔法を操る仲間たちの姿に驚愕します。しかし、アンジェリカは彼女たちの肩を抱き、力強く頷きました。
「遅くなってすまない。……すべて、この男のおかげだ」
彼女が指差した先では、タケシがすでに瓦礫を片付け、手際よく調理場を整え始めていました。
「いいか、全員。元がどの属性だろうが関係ねえ。今は全員が六属性の使い手なんだ。属性ごとの特性を理解して、最高の飯を仕上げろ!」
タケシの叱咤が飛ぶ中、20名の最強魔導騎士団による、全属性を注ぎ込んだ調理が始まりました。
アーマーリザードの極上ロースト 全員が指先に**「火の針」を出し、肉の繊維を壊さないよう精密に熱を通します。さらに、「風の旋回」で熱を均一に回し、「土の予熱」**を閉じ込めた石板でじっくり焼き上げました。外は岩のように香ばしく、中は驚くほどジューシーな仕上がりです。
「水」で素材を洗い、「光」で鮮度を見極め、「闇」の重力でアクを一瞬で強制沈殿させる。仕上げに「氷(水+風)」のバレットを投入して一瞬で温度を整え、旨味を閉じ込めました。**「ヒールバレット」**の理論を応用したスープは、一口飲むたびに五臓六腑に染み渡り、疲労を根こそぎ消し去ります。
酒:最高級の「冷え」と「輝き」 王都から「徴収」してきた極上の酒を、各々が「氷バレット」でそれぞれの好みの温度に冷却。アンジェリカが「光」を微弱に灯して杯を照らすと、祝杯の黄金色が砦の夜を幻想的に彩りました。
「師匠、この『バインドバレット』の闇の密度を調整すれば、肉をさらに柔らかく熟成させられそうです!」 「タケシさん、スチームバレットの圧力を変えれば、もっと早く野菜に火が通りますね」
20名の隊員たちは、覚えたての六属性を調理にまで応用しようと、目を輝かせてタケシを囲みます。タケシは「食ってる時に魔法の実験をするな」と呆れながらも、次々と空になる皿を満足そうに眺めていました。
アンジェリカは、肉汁の滴る最高の一片を口にし、傍らのタケシに杯を差し出しました。
「……タケシ。属性の壁を超えた先に、これほどの豊かさがあるとは。貴殿に教わったのは、単なる殺しの技術ではなく、世界の捉え方そのものだったようだな」
タケシは無造作に自分の杯をぶつけ、笑いました。 「大げさなんだよ。……さあ、食え。明日はこの20人で、王都の新しい歴史を『バレット』で書き換えるんだろ?」
アイアン・ゲートの砦には、アンジェリカ直属の部下である5名の騎士以外に、一般の守備兵たちが約100名ほど残っていました。
しかし、エドモンド公爵やルフェーヴルの策略によって、彼らの状況は燦々たるものでした。
騎士団の20名とは違い、一般兵たちは「全属性」どころか魔法の素養も乏しく、騎士団が王都へ向かった後は絶望的な籠城戦を強いられていました。
補給を断たれていたため、兵士たちはボロボロの状態で、タケシたちが空から降臨した時は、すでに力尽きかけて横たわっている者も少なくありませんでした。
宴の最中、タケシは自分たちだけで盛り上がる騎士たちを一喝しました。
「おい、アンジェリカ。自分たちだけ腹を満たして満足か? 隅で震えてる兵士どもにも、その『ヒールバレット』とスープを回してやれ。動ける奴がいないと、この砦の後片付けが終わらねえだろ」
アンジェリカはハッとして、生き残った一般兵たちを見渡しました。
20名の騎士たちが一斉に、弱り切った100名の兵士たちに「ヒールバレット」を放ちます。
タケシの指導の下、騎士たちが「スチームバレット」や「火の針」を使い、兵士たちの分まで大量の肉とスープを高速で調理しました。
「……う、うまい。死ぬかと思った……」 「騎士様たちが、空から降ってきて……傷を治してくださった……」
一般兵たちは、まるで神の軍勢を見るような目でアンジェリカたちを仰ぎ、瞬く間に活力を取り戻していきました。これで砦の機能は完全に回復し、本当の意味での「アイアン・ゲートの守り」が復活したのです。
タケシは宴の喧騒が落ち着いた頃、生き返ったような顔をしている一般兵100名を広場に集めました。
「おい、お前ら。騎士団がずっとここにいるわけにはいかねえ。自分たちのケツは自分で拭けるようになれ」
タケシの「特別講義」が、一般兵たちに対しても始まりました。
魔法の素養が乏しい一般兵に、アンジェリカたちのような全属性操作を求めるのは酷です。そこでタケシは、彼らの武器や適性に合わせた**「単属性バレット」**に絞って指導を行いました。
魔力が低い兵士でも、足元の土を弾丸として放つ方法を伝授。 「狙う必要はねえ。門に近づくトカゲどもの足元を狙って撃ち込め。泥で動きを止めるだけで、騎士団の獲物になる」
弓を射る瞬間に「風の芯」を添える技術。 「矢の先端に風を纏わせろ。飛距離が倍になり、アーマーリザードの皮膚も抜けるようになる」
10人一組で同時に放つことで、巨大な魔物も拘束できる影の網。
「いいか、一人で倒そうとするな。100人で『バレット』を重ねれば、そこらの魔導師よりよっぽど役に立つ」
一晩の特訓を経て、100名の兵士たちは見違えるような精悍さを取り戻しました。
「アンジェリカ隊長、タケシ殿! 砦の防衛は我らにお任せください! 次に敵が来れば、この『バレット』で地獄を見せてやります!」
兵士たちは、自分たちの手の中に宿った「魔法という名の武器」に自信を深めていました。これで、アンジェリカたちが王都を離れても、アイアン・ゲートが陥落する心配はなくなりました。
「よし、後腐れはねえな。アンジェリカ、お前ら20人は俺と一緒に王都へ戻るぞ。……今度はゆっくり、美味い酒を奢ってもらうからな」
タケシの言葉に、20名の全属性騎士たちが一斉に頷きます。
「総員、飛行魔法展開! 目標、王都・玉座の間!」
アンジェリカの号令と共に、20の光の筋が夜明けの空へと舞い上がりました。




