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1話 願いが届く夜

こんなにたくさんの人と一緒にいるのに、

どうして、こんなにも寂しいんだろう。



そこは青き惑星、名を地球と呼ぶ。


宇宙からも見える輝ける都市、

東京のとある場所に、彼の者は飛来するーー



1話 願いが届く夜



晴天の下、 生徒たちの駆ける足音と、歓声が響く。


「行けー!! そのままバトンを渡せー!!」


息が切れる。

肺が苦しいと悲鳴を上げる。


それでも、

バトンを渡すまでは、

止まるわけにはいかない。


「追い越されるなー!!」


分かってるよ!

そんなの分かってるって……!


すぐ後ろにいる。足音が迫っている。


焦る、息がさらに乱れる、でも、


絶対に……止まるな……! !


後少しだ……!

これさえ、渡せば……!



次の走者が僕を見つめる。


あと一歩……!!


少年「あっ……」



極限まで張り詰めた意識が、弾ける。


一瞬が無限にも感じられるスローの世界で、

バトンが宙を切り、地面が、目前に迫る。



あ、僕……転ぶんだ。


激しい音。 土の味。耳鳴り。

静寂の後、女子達の悲鳴。



……それからのことは覚えていない。


ただ1つ確かなのは、

あの出来事をきっかけに、

僕はクラスの“嫌われ者“になったということだった。


あの日から僕は、

前髪を下ろすようになった。



「おい、これ持ってけよ」

少年「え、でも僕は体育係じゃないし……うわあ!」


体育倉庫に向かう。

半ば押し付けられる形で渡された器具、

そのまま校庭に放置するわけにもいかず。


少年「別に、いいんだ……

学校は勉強するところだし。

友達なんて居なくても……」


晴天だが顔は暗い。

うつむいていれば尚更か。


……1人で運ぶには重いけど、何とかなるだろう。



ーー突然の浮遊感。

またあのときの、嫌な感覚。


地面が近づき、全てが壊れるあの、感覚。


少年「うぐっ」


前歯が器具にぶつかった。

痛い、でも大丈夫、折れてはいない……か?


「あ、わりい、足引っかかっちまった」


誰かの足に引っかかり、転んでしまったのだ。


「お前ほんとひでーなw」

「大丈夫っしょ、転ぶの好きじゃんあいつw」

「はっ、まじそれなw なんですぐ転ぶんだろうな」

「ちゃんと、それ運んどけよー」



……大丈夫、もう、慣れてきた。


いいんだ、僕が悪いんだ。

僕があの日転んだせいで、みんなに迷惑をかけた。


みんなが繋いだバトンを落としたのは僕なんだ。


そして

僕を信じて手を伸ばした彼に、 僕は恥をかかせた。



これはその、罰なのだ。



サキ「あ、それ持ってくの? 手伝おうか?」

少年「あ、え……? うわあ!」


突然、抱えた器具が軽くなる。


重たい器具のもう片方を

クラスメイトのサキさんが掴んでいた。


少年「わ、え、サキさん……!?」

サキ「どうせあの人たちに

無理に押し付けられたんでしょ?

もう、みんなの仕事なのにね……」


サキさんはあまり目立つ方ではないけど、

その大人びた性格と優しさから、

密かに人気を集めている子だ。


正直なところ、僕は彼女に憧れていた。


少年「わ、悪いよ、そんな」

サキ「……優しいなあ、君は」


微笑む横顔は夕日に照らされていた。


サキ「……あのね、いいこと教えてあげる。

願いはね、口にすれば叶うんだよ」


少年「なにそれ……口にしただけじゃ叶わないよ」


サキ「ううん、口にするのが第1歩なの。

言葉にしてやっと、始まるんだってさ」


少年「そうなんだ……まあ、頑張って、みるよ」


サキ「うん、だから次はちゃんと断るんだぞ?

たまには自分でやれー!って。

それじゃあ、またね?」


サキさんは走って行ってしまった。

仄暗い倉庫に僕だけ取り残された。


少年「サキさん……優しいなあ……」



そうだ。

世の中、辛いことばかりじゃない。


いい人だって居るんだ。

こんなことで、心が折れるなんて、情けない。


目頭が熱くなるのを堪えて、前を向く。


少年「よし、教室に帰らなきゃ。

ホームルームに遅れちゃう……てあれ?」


体育倉庫の扉が閉まっていく。

なんで、どうして。


少年「うそ、うそうそうそ!!」


重い金属音が響き、暗闇に包まれた。

カチャリと、錠の絞まる音。


「おい、さすがにやりすぎじゃね?」

「誰も気づかねって」

「まじひでーなw」


僕を転ばせた彼らの声だ。


少年「ちょっと! ねえ! 開けてよ!!」


重い金属の扉は、少年の手では動かなかった。


少年「そんな……」


チャイムが何度か響いた。

明かりが差し込まなくなった。

最後の下校放送が遠くに響いた。


人の声が完全に聞こえなくなった。


冬の体育倉庫は冷たい。

辛うじて見つけたマットレスカバーを羽織る。

汚いけれど、寒さに耐えれなかった。


意識が薄れる。

トイレにも行きたい……。

奥歯がカチカチと鳴っている。


今、何時くらいだろう?

もう夜になってしばらく経った。


お母さん、今日は夜勤だって言ってたし……


でも、大丈夫……きっと……

朝になれば見つけて貰えるはずだ。

それまで尿意を我慢しなきゃ……


少年「あ……」


はっとした。

朝見つけてくれるのがもし、サキさんだったら……?


今度こそ、僕は、 学校に来れなくなる気がする。


暗闇は想像力を掻き立てる。

明日のこと、これまでのこと。

不安を塗り潰すように考える。

嫌なことを考えないようにする。


独りの夜は余りにもーーながい。



お腹空いた……お腹すいたよ……


何で僕がこんな目に会うんだよ……僕だって!


レイ「頑張った、頑張ったのに……!!」


目元がヒリヒリと痛む。

触れると、涙が張り付いていた。



こんなにたくさんの人といるのに、

どうしてこんなに、寂しいんだろう……


少年「誰か……僕を見つけて……誰か……!」



そのとき、

運命の弾ける音がした。


火花が散る。


倉庫の外で暴風が吹き荒れる。

世にも珍しい真上から降き下ろす突風。


曇天に穴が空き、

突然の嵐が、迫るーー迫るーー




ーー無限と思える暗闇に、

火を灯す流星が降り注ぐ。


それは遠い宇宙から飛来せし孤独な流星。


偶然と必然により

この星に導かれた異界の生命。


あなたに会うために顕現せし、弱くなった魔王。



「……なんだ? 窓の外が明るい……?」


この日、日本中の人々がそれを目にした。


夜空の彼方から現れた彗星の如き光束。


それは大気圏に触れると弾けて、各地に散らばった。


「ママーあれなにー?」

「あらま、流れ星……ね」

「きれーだね」

「うん。お願い事しよっか」

「何をお願いするのー?」

「何だっていいのよ、たとえばね……」


願いの象徴とされるその景色に、

日本中の“想い“が集束する。


魔王「うむ……魔力だ……

あの輝く地に大量の魔力がある……

あそこを我が手中におさめよう……」


その生命は如何なる現実も、

変えようのない絶望も、


莫大な想いのエネルギーを魔法に変換し、

世界を変えうる高次元存在。


かの魔王の名はバウム。


数百年の眠りから目覚めし、異世界の君主。



少年「う……な、なんだ…… 扉が開い……爆発?」


眠りかけていた少年が目にしたのは、

開いた扉ではない。



月に照らされ、砂埃舞う中、

悪魔の如き翼を生やし、


充血した赤い瞳でこちらを見つめ、

唾液を垂れ流す全裸の少年の姿だった。


魔王「ここは……どこだ……我は……何して……ん?

……お前……寒くないのか?」


明らかに自分より寒そうな不可思議な存在に、

少年の涙はふと、引っ込んだという。


少年「こ、こっちの台詞……ですけど」

『異世界魔王』

本日より投稿開始します。


不定期投稿にはなりますが、

少年と魔王バウムの成長を

暖かく見守ってくださると大変励みになります☺️

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