表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

第5話 風の女神と契約者

――少し前、モルナ村・牢獄


夜の始まり。

リスティは一瞬、窓の外を見やった。

光がゆっくりと色を変え、空は群青に染まり始めていた。


《……柊真よ。お主にはこの世界のこと、

 まだ話しておらなんだな。》


リスティの声が胸の奥に響く。

柊真は大きく息を吸い、口を開いた――。



「ああ。頼む。どうやら、俺はずいぶん

 厄介な場所に転生されたみたいだ。」


《うむ。ここは“ヴァルネア大陸”。》


柊真のまぶたがわずかに動いた。


《この大陸を創り、統べるのは四柱の風の女神――我と、三人の姉たちじゃ。》


「……つまり、神が治めてるってことか?」


《そうではあるが、表向きは違う。我らは

 人の目には見えぬ場所から、風の流れと

 国の形を定めておる。》


首を傾げる柊真。リスティは構わず続ける。


《大陸には大小二十の国があり、大陸の支配を

 巡って数千年も絶えず争いが起きていた。》


「……なるほど。結局どこの世界でも

 戦争は終わらないって事だな。」


《そして姉――長女シルファリアは、終わらぬ戦に嫌気が刺し、大陸に“秩序”を与えようとした。彼女は今の大陸で最も力を持つ国――“アークレオン帝国”の王に告げたのじゃ。》


“争いをやめ、風のもとに一つとなれ。

大陸を統べるその資格を、走りによって示せ。”


《かくして、“ヴァルネア・グランレース”の

 開催が提案された。》


柊真の目が細くなる。


「レース?……、転生する前に言っていた奴か」


《二十の国、それぞれを舞台とした全二十戦。

 優勝国には“大陸統治の権限”が与えられる。

 それに逆らえば他の全国家が敵となる――。

 戦を終わらせる“和平レース”と言う事じゃ。》


「……なるほど、平和のための戦い、ね。」


《だが実際は違う。》


リスティの声がわずかに低くなる。


《その舞台の裏では、我ら風の女神四柱が静かに争っておる。誰が“真の風の女神”としてこの大陸を治めるか――レースはそれを決める戦いでもあるのじゃ。》


「つまり、女神たちも自分達のの威厳を

 賭けてるわけだ。それに大陸の

 人々が付き合わされると。」


《そう。各女神は一国を選び、祝福を与える。もしその国の者が優勝すれば、祝福を与えた女神がヴァルネアを支配する“唯一の風”となる。》


「……で、お前は?」


《我は――答えを保留した。姉たちは上位国を巧みに取り込み、残るは弱小、良くて中級国家のみ。だが、我はそれとは違う道を選んだ。》


「……つまり俺か。」


《うむ。おぬしの“走り”はこの世界に存在せぬ概念。高速で駆ける鉄の馬――その名は“バイク”。このレースに風穴を空ける為には、これしかないと考えた。それの“使い手“を、世界に呼び込んだのじゃ。》


柊真は無言で息を吐き、天井を見上げた。


「……神々の都合にしては筋が通ってる。」


《……嫌か?天城柊真よ。》


「…………いや。

 俺は走るために生きてきた。一度死に――、

 その理由が、また出来たなら悪くない。」


リスティはクスッと笑った。

《改めて、契約完了じゃな。話が走者、天城柊真よ。では、急ぎ行くとするか。》


「行くって……どこに?」


《おぬしの今いるこの村――リオスト領・モルナ村がどうやら危ういようじゃ。この村を覆う風の流れが乱れておる。》


「……昼間の、あの魔獣か。」


《うむ。風の乱れは隙を生み、獣を呼ぶ。

 村を守れ。主の走りが風の証となる。》


柊真は立ち上がる。

鉄格子の向こう、夜の風が吹き込んだ。


その時、外で足音が響いた。

小さな声が重なる。


「お父さん……この人。助けてくれたんだよ。」


「ああ、俺達は……勘違いしてたみたいだ。」


鉄の扉が軋み、鍵の音がした。

昼間助けた少女と、その父と思しき村人だ。


「娘を助けてくれたあんたが、只者じゃ無い事を見込んだ上で――――頼む。外の状況を見てくれ。南の門が……村が、多分もう、もたない。」


柊真は頷いた。


「ああ、丁度今から行く所だったんだ。」


扉が開き、風が流れ込む。

ソウリスの下に向かう中、リスティに尋ねた。


「ソウリスは……、バイクって言うのは

 速く走るために造られたマシンなんだ。

 リスティ、ソウリスで魔獣と戦えるのか?」


《ふふ……まだわかっておらぬな。

 ソウリスは“魂と風を繋ぐ器”なのじゃ。

 お主が走る限り、我が風はお主の刃となる。》


「……信じてみるよ。今の俺に出来るのは、

 リスティを信じて……走る事だ。」


柊真の手がゆっくりと宙を切る。


《呼べ。おぬしの魂が、その名を呼ぶなら――》


「――来い、ソウリス。」


光が弾けた。

青白い魔力の輪が床を走り、リスティが包まれる。

包まれた光から、黒銀の機体が音もなく現れる。


「ははっ……。もうこれ位じゃ、驚かねえな。」


柊真は軽く微笑み、ハンドルに手をかけた。


「……よし、行くぞ、リスティ。……いや、

 今はソウリスだな。相棒。」




――モルナ村・南門前


砂の壁がひび割れ、夜の空気が焼けるように震えた。今や片腕となったゴーレムの拳が、魔獣の親玉の鱗を叩く。

火花と砂煙が巻き起こる。

だが、親玉の巨体は微動だにしない。


「くっ……!」


サノ隊長は、すかさず魔力を込め直す。

ゴーレムが再び拳を作り上げ、その拳が

闇の中の巨獣と衝突した。


衝撃で地面が割れ、

兵士たちが飛ばされまいと踏ん張る。


「下がるな! 防御陣を維持しろ!」


「サノ隊長っ、もう持ちませんっ!」


砂の巨人の腕に再びひびが走り、

数秒もせず、音を立てて砕けた。


「まだよ……!」


再び腕を再構築しようとした瞬間、

巨獣の拳が振り上げられる。


サノの影に巨大な腕の影が重なる――。

拳の風圧が爆ぜるような衝撃となり、

広場を飲み込んだ。


振り降ろされんとするその時――。


青白い閃光が夜を裂いた。


排気が唸り、黒銀の機体が周りの砂を巻き上げて飛び込む。


「やめろっ!」


柊真の声が響いた。


ソウリスが滑り込み、振り降ろされた巨獣の腕を横から弾き飛ばす。


機体から風が爆ぜ、拳が更に押し返された。


少女が目を見開く。


「……昼間の……!」


柊真はハンドルを握り、口角を上げた。


「ここからが――本当の走りだ。

 ……そうだろ?見せてくれよ、ソウリス!」


ソウリスの排気が光を放ち、

リスティの声が響く。


《出力解放――“ソウルライド”開始。》


「ああ、行くぜッ!!」


叫びと共に、黒銀の軌跡が夜を裂いた。

青白い尾が砂を貫く。

怒りに燃える巨獣も又、咆哮を上げる。


――サノ隊長は立ち尽くしていた。

ソウリスを駆る柊真を見た彼女は――“何か”が、フラッシュバックしていた――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ