第17話 均衡
三者が並び、レースは佳境に
迫る中、柊真はまだ動けず
葛藤していた。
直線は自分の勝ち筋だ。
だが、後ろから迫った時
二機の激しい攻防を
見せつけられている。
今飛び出せば──きっと、
同時に狙われる。
そう判断した柊真はアクセルを
絞ったまま状況を注視していた。
武器屋店主、翼竜使いの騎士。
二機の操縦士は悟っていた。
真ん中を走れば不利となる。
だから左右に散開し、互いの
射線を確保し牽制し合っていた。
追い付いて来た柊真に対し
誘い込む様に道の真ん中を
空けている。
「サノン、走りながら砂の壁を
左右に張る事は出来るか?」
背に乗るサノンは
短く息を飲み答える。
「張るだけなら……できる。
でも……武器屋さんの大砲や、
ルミナさんの斬撃、それに翼竜の
攻撃に耐えられるか分からない……」
……リスクが高すぎる。その返答に
柊真はさらに踏ん切りがつかず、
胸の奥で焦りだけが膨らむ。
──考えろ。
これがこの世界のレースだ。
不利を覆す方法を……!
見つけるんだ……。
歯を噛みしめた瞬間、
閃いた。
「……サノン、作戦がある。
……聞いてくれ」
「…………!うん!やってみる」
緊張の均衡が続く中、ついに
動いたのは──
柊真とソウリス。
「行くぞっ!」
爆発的な加速。青白い残光を
引きソウリスが射出する。
翼竜を操るルミナ、武器屋の店主も
瞠目しながら距離を詰めてくる。
攻撃の狙いをつけるためだ。
だがその瞬間──
柊真は風の力を借り、
急制動に入った。
「っ……!?」
ソウリスが地を削り
一気に失速、停止。
速度MAXから、0へ。
二機は余りの速度変化に
柊真が“消えた”と
錯覚するほどだった。
気付けば互いに接近。
その距離の短さに
二機の操縦士たちは
牽制し合うしかない。
補助士に再び回ったアリアの
光魔法と、婦人の魔法筒が
ぶつかり合う。
そこを──抜く。
柊真は再度全開。ソウリスが跳ねる。
左側を走っていた武器屋夫婦の更に
左側へと割って入る。
「な、挟まれた!?」
店主が焦りの声を上げ、必死に
体勢を保つ。
その瞬間を好機と見て、
ルミナが翼竜を沈め、
二台まとめて黒炎弾を撃つ
軌道を描く。
二台は咄嗟にガード。
炎が炸裂し、
武器屋の店主の視界は
一時完全に煙で染まる。
「っち、油断したわい──!
なっ!何────⁉」
舵をと取り直す店主。しかし、
晴れた視界に現れたのは、
サノンが作り出した“砂の壁”だった。
柊真は翼竜の攻撃を受けながらも
加速しており、店主の盾船を
追い抜いていたのだ。
そして砂の壁で炎弾から右側を
ガードすると同時に───
壁を切り離す───。
絶妙な高さに設置した。
盾の船は、その壁に
ふわりと突っ込み──衝撃が走る。
「………………!」
砂煙が晴れると、武器屋夫婦だけが
砂の壁に張り付いていた。
サノンは敢えて柔らかい砂の壁を
造ったのだろう。
夫婦の乗っていた盾の船は、
勢いのまま遥か先へ飛び──
そのままコースアウトした。
残ったのは二台。
王女アリアと近衛騎士ルミナの
駆る翼竜──ワイバーン。
異世界からやって来た
高速二輪車──ソウリスを操る
柊真と、魔術師サノン。
リオストを代表する走者は
果たしてどちらになるのか。
モルナ村へと続く直線はあと僅か。
最後の瞬間は目の前に
迫っていた──。




