第16話 三つ巴
関所を抜け、峠を越えた先は
森に囲まれた平たい山道だった。
ここからモルナ村までは
ほぼ直線が続く。
――完全なスピード勝負だ。
柊真は峠の頂を超え、
前方の奥に見える影を捉えた。
「……見えたぞ。翼竜と……、
武器屋の夫婦だ」
先頭は入れ替わり、武器屋夫婦の
“盾艇”が前を走る。
その少し後ろをアリアと、
負傷したルミナを乗せた
巨大な翼竜が滑空していた。
今回のレースにはいわゆる
高さ制限は無い。しかし走者は
各チェックポイントを通過する
必要がある為、2者とも低空を飛行していた。
「サノン、振り降とされるなよ!
限界まで――飛ばす!」
「うん、柊真くん!」
サンドフォームを解除。すぐさま
スロットルを開く。ギアを一気に
最大まで入れた。
ソウリスは青白い閃光を引きながら
一気に加速した。邪魔する者は無い、
これまでで最大の速度を出す。
平坦な山道に青白い霧のような
残光が尾を引く。
風圧で周りの木々が
台風でも来たかのように揺れる。
その只ならぬ速さは観覧席にも
映し出されていた。
その圧倒的なスピードに
王とロードは息を呑んだ。
「なんだこの加速は……!
これが風の女神……リスティアの
加護を受けし者の力なのか。」
「あ、あまりに速すぎる……
アリア様、ルミナに、追いつく!」
すぐ後ろに迫る者を知らず、
前方の戦いは
激しさを増していた。
翼竜は武器屋夫婦を
捉えるため急加速する。
主人を傷つけられ、気が立って
いるようだ。
対する盾艇は、魔法瓶の残りが
少なく失速気味だった。
「かあちゃん、翼竜を頼む!」
武器屋の妻が巨大な魔法筒を
構え、再び炎の弾を撃ち放つ。
狙いは翼竜。
しかしルミナが叫んだ。
「二度は通じぬ!」
抜き放った剣が光を放つ。
斬撃が伸び、炎弾を斬り払った。
負傷を感じさせない一撃だ。
「今度はこっちの番よ!」
アリアが手綱を操り、
翼竜が身体を回転させて
一気にに加速した。
直後、その口から吐き出される
のは灼熱の黒炎。
「うわ、殺す気かい!」
武器屋の妻は
プロテクトを入れた瓶を割り、
光の障壁で炎を受け止めた。
アリアは冷たく返す。
「お互い様でしょ?リオストに
住む民でも、ルミナを傷つける
人に私は……容赦しないわ!
嫌なら降参しなさい!」
火花散る応酬。2機は並び、
どちらも譲らない攻防が
繰り広げられていた。
そのすぐ背後に――
青白い光が迫っていた。
その轟音、只ならぬ気配に
アリアとルミナ、
武器屋夫婦の視線が
同時に後ろを向く。
柊真が翼竜と盾艇の真後ろへ
追いついたのだ。
「……よし、並んだ!」
サノンが息を呑む。勝者は
恐らくこの三者に絞られた事を
皆、感じ取っていた。
「ええー!何あの乗り物!
あんなのアークレオンでも
見たことないわよ!ルミナ!」
アリアはソウリスの形状に
目を輝かせていた。
「魔法瓶を見ていた小僧か!
おお……なんじゃあの機械は!」
武器屋の店主もソウリスの
走る姿に興味津々だ。
お互いのパートナーが
それぞれを制止する。
「あれが、兄様の言っていた……
国を惑わす、不届き者か。
魔術師サノよ、騙されおって。
覚悟は出来ているな?」
「近衛騎士、ルミナ隊長。
私は騙されて等おりません。
そして……この勝負も譲らない。」
騎士団の二人も火花を散らす。
三機の間に張りつめた緊張が走った。
――次に仕掛けるのは
誰だ?
直線はまだ続く。三つ巴の勝負が、
いま動き出そうとしていた。




