第11話 “ヴァルネア・グランレース”。
――リオスト王城・謁見の間。
高い天井を渡る風が、静かにステンドグラスを揺らした。
リスティは王と王妃、その家臣たちの
前で静かに語り出す。
「――“ヴァルネア・グランレース”。
それは単なる競技ではない。
五千年前、神が支配する時代に
“戦争の代替”として創られた――
我ら女神が授けた“秩序の儀式”じゃ。」
家臣達にざわめきが広がる。
現リオスト王、エルネス・リオストが
ゆっくりと問う。
「……戦争の、代替……だと?」
「そう。血と炎で奪い合うのではなく、
“速さと誇り”で覇を競う。それが風の
加護を受ける地、ヴァルネアの誓約。
大陸の均衡を保つため、長き時を経て
再び此処に開催されるのじゃ。」
その言葉に、重い沈黙が落ちた。
王は腕を組み、目を閉じて言う。
「……成程。だが、なぜ今開催する?
レースを提言したのは最上位の国と
言われるアークレオン帝国。帝国が
その気になればあと二十年もあれば
ヴァルネア大陸統一が可能だ。
それほどの軍力と技術を持つ国が、
なぜレースなどという形式を取る?」
リスティは王の瞳を見据えた。
「……アークレオンが信仰する女神は、
我ら風の女神4姉妹の長女にあたる。
その名は……女神シルファリア。
彼女は聡明で、そして“完璧”じゃ。
アークレオン帝国からのレースの提言は
彼女の絶対な自信ゆえ。……あの姉様の事、
勝って当然。そう思っているのじゃろ。」
家臣たちが息を呑む。
玉座の王妃レイナが、静かに口を開く。
「……では、これはただの競技……、
ではないと言う事なのね。」
「そう。覇を決める“神の賭け”じゃ。
シルファリアの……包み隠しておる
野心が、我には見え見えじゃ。」
リスティは静かに息を吸い、続けた。
「――では、通達された内容を改めて
確認しよう。貴様、読んでみせよ。」
リスティは家臣の一人を指差す。
家臣は一瞬、王の方を見る。
エルネスト王は静かに頷く。
家臣は王から差し出された巻物を広げ、
皆の前で読み上げる。
◆ ヴァルネア・グランレース 公式概要
【目的】
ヴァルネア・グランレースとは、
ヴァルネア大陸二十国の統合を目的とした
“統一戦争の代替儀式”である。
【勝利条件】
全二十レースの総合ポイントにより
最も多くの得点を得た国が勝者。
“ヴァルネア統一王国”の地位と
敗北した国々の全権を授かる。
【大会形式】
開催地: 大陸各国(全20レース)
出走国: 二十国(各国代表チーム)
出走制限
:乗り物は各国1レースに一つ。
(動物、機械、魔法機構問わず)
操縦士一名。補助士一名まで。
各レース毎の入れ替えは自由。
順位決定方式
:各レースの上位10チームに
順位に応じたポイントを付与。
20レースの合計で優勝国を決する。
【主要ルール】
レースは一月に1レース行われる。
レース開催国は開催三週間前に
他国の受け入れ開始を義務付けられる。
開催国はルールを自由に決めれる。
レース毎のルール・コースの通知は
開催国が開催の二週間前に通達する。
各レースは最大でも一日で完結する距離で行うこととする。
レース外で他国の走者への妨害、危害を
加える事は厳禁とする。
(これを犯した国は即失格・棄権扱い。)
コースは本番一週間前に“試走”として
各国代表者が走行可能とする。
走行日は各国事前に決められており、
開催国の監視の下に行う事。
自然災害以外で試走コースと本番コースの
相違が認められた場合、開催国には罰則と
当レースのポイント没収が科される。
家臣による読み上げが終わると、王城の空気はさらに重くなった。
王の声が響く。
「……つまり、勝てば全権。負ければ
我が国は……属国になると言う事か。」
サノンが小さく拳を握る。
「……でも、もしレースに勝てば……
この国が、リオストが救われる。
隣国との戦争も無くなります。」
柊真が隣で呟く。
「その代わり、もし負ければ――
全部、失うってことだ。」
リスティは静かに二人を見て、言った。
「その通り、“走る者”のみが……!
一国の進む方角を決められる。
――柊真、お主の走り、それこそが
この国を救う希望の風となるのじゃ。」
リスティの言葉に青い光が差し込み、
その銀髪が静かに揺れる。
新たな時代を創る“風”が――、今。
静かに吹き始めていた。




