俺は主人公じゃない
世の中には、ラブコメの主人公みたいなやつがいる。
美少女に好かれて、恋愛して、ハッピーエンドを迎えるやつ。
そんなの、二次元の中だけの存在だと思ってた。
でも――現実に目の当たりにすると、わかる。
「俺は、ラブコメの主人公じゃないんだな」って。
同性ながら、まぶしいくらいに輝いてるやつ。
それに見合うヒロインまでいて、ふたりで勝手に物語を進めていく。
おれは、そんな“主人公”の友達。
ただの脇役。モブにもなれなかった、物語の外側の人間だ。
今日も親友の三浦 湊は、
クラスのマドンナ・綾瀬 詩葉をちらちらと見ている。
しかも――気づいてないのは本人だけで、詩葉も三浦を見ていた。
おれは、その光景をずっと見てきた。
いずれ、ふたりは結ばれるんだろうなと思いながら。
そんな未来に思いを馳せつつ、湊に声をかける。
「湊、お前、現国の課題やった?」
「え?課題?……やべ、完全に忘れてた。ちょっと写させて!」
授業中、どうせ詩葉のことでも考えてたんだろ。
そう思いながらも、ノートを差し出すおれ――朝倉 優希。
高校一年生。ラブコメの中心から外れた、ただの脇役。
これは、そんな“主人公”の陰で、
脇役が静かに恋をする話。
派手さも、奇跡もない。
だけど、ちゃんと息づいている、ひとつの恋の物語だ。