お弁当にはやっぱりたこしゃんでしょ!
「タコ……タコって足の数何本だっけ?」
「はち!」
「はちぃ? 四本じゃ──」
「はちィィィ゛っ!!」
「あ、はい。頑張ります」
息子に急かされ、朝食のパンと牛乳を出してから、子ども用の小さなウィンナーを見て途方にくれる。
コレを片方だけ八つに切るって無理じゃないか?
もきゅもきゅとアンパンを頬張る息子から無言の圧力を感じ、再びの交渉を諦める。
必殺ネットで調べる。を駆使して、それとなく息子に話を持ちかけた。
「蟹さんカッコイイなぁ〜。パパ、蟹さん好きだな」
ふっふっふっ。蟹なら半分にスライスしてから、両方を四つに切れば済む。
スマホの画像を見た息子は目を輝かせた。
「かにしゃんもイイね!」
蟹『も』いいね? タコは結局いるのね。
労力がちょっと減ったと考えよう。そうしよう。
作り方のコツを動画で確認しつつ、四苦八苦しながらフライパンで焼いて行く。
簡単な料理なら作れるけど、弁当は見栄えが大変だった。
茹でたブロッコリーとプチトマト。
卵焼きはオムレツに変更になり。
デザートは柿になった。
米を炊き忘れておにぎりがサンドイッチになっちゃったけど、息子は「ハムチーズだ!」って喜んでくれた。
持ち物をチェックし、リュックを背負ってもらって幼稚園にお見送り。何とか間に合った。
「パパ、いってきます」
「遠足楽しんで来てな」
「うん!」
ちぎれたタコウィンナーの残骸を口に放り込み、片付けをしてから急いで産婦人科に向かう。
「お疲れ様。遅くなってごめんな」
「うんん。お弁当作りありがとう。大丈夫だった?」
「な、何とか。ママの方こそ大丈夫だったか?」
「3人目だもん。すぐにスポーンと産まれたわ」
夜中に産気づいて、妊婦専用の陣痛タクシーに飛び乗り、1人で出産。その後でこのセリフ。母は強い。
今はスヤスヤと眠っている小さな娘。
着替えも自分でこなして小学校に登校した上の娘も、こんな時期があったとしみじみ思う。
「明後日は……お姉ちゃんの遠足ね」
「…………え?」
去年の娘のお弁当は、ママが頑張って作った芸術的なキャラ弁だった事を思い出す。俺は絶望した。
俺が子どもの頃。お弁当に唐揚げが入ってないとヤダって言って、朝から揚げ物をしてくれた親父に今頃盛大な感謝を送る。
その日、学校から帰って来た娘に、恐る恐る、遠足のお弁当はどんなのがいいか聞いてみた。
「素麺が食べたい!」
娘の言葉を聞いて、俺に別次元の悩みが浮上する。
素麺ってお弁当でどうやって持って行くんだ?