ブリッツ大森林
「ユウマ!7回ヨ!7回!」
ラウは呆れたようにそう言った。
「え?7回って一体なに??」
ハァァっと大きな溜息をつくラウ。
「トレーネの町ヲ出てカラこの数日、道すがらユウマが人助けシタ回数ヨ!」
あ~その回数か!そんなのいちいち数えてないから何の事かさっぱり分からなかった。
魔物に襲われてる獣人、野盗に襲われてる人、馬車の車輪が壊れて立ち往生してる人、etc etc etc……
「そんなトコロまで勇者様にソックリなんだカラ……」
魔族はあまり人助け……魔族助け?しないのかな?
「目の前に困ってる人がいて、自分にそれを助けれる力があったら迷わず助けるさ。どんな種族でもね」
「ソンなの実際にタスケられたわたしがイチバンよく分かってるわヨ!デモちょっとお人好しすぎナイ?」
まぁラウの言うことも理解できる。
「でも、見て見ぬふりなんてしたらきっと一生後悔すると思うから」
……
…………
………………トクン……
……
…………な!ナニよなにヨ!?
ドウしてわたし……急にドキドキしてるノ……
コレって……
「お!あれじゃないか?ブリッツ大森林!」
「ひゃウ!?ほほホ本当ネ!!たぶんアレがソウねっっ!!」
ラウは何を焦ってるんだろう?
崖の上から見晴らすと、少し遠くに広大な森林地帯が見える。
ユウマはチラリと横に視線を移す。
森から少し離れた空に不穏な雲が立ち込めている。
あれ……天気が悪いとかって感じじゃないな……
それにしてもブリッツ大森林、ドーム球場何個分なんだろう……正直言うと、前世で何度も球場〇〇個分って表現をニュースとかで聞いてはいたけど、一切ピンとこなかったw
兎にも角にも、ブリッツ大森林は相当に広い。
しかもその広大な森を、悪意を防ぐ巨大な結界で覆っている。
森の入口近くまで来るとなにやら人集りが出来ているようだ。
「らっしゃいらっしゃい!ブリッツ大森林名物のエルフ饅頭にエルフクッキー!エルフスープも美味しいよー!」
うおおおおお!屋台!?しかもあの店員さんの耳!間違いなくエルフだ!!
「……大繁盛シテるわネ」
「うん……でも俺のエルフに対するイメージとちょっと違ったわw」
エルフと言えば気高き森の防人!他種族に対して少し冷たい視線を向け、近寄り難い存在……みたいなイメージだったんだけどな……
めちゃくちゃ元気に客引きしてる……
屋台は用事を済ませてから楽しむ事にした俺たちは、ブリッツ大森林の中へと歩を進める。
一瞬店員エルフの視線を感じたが、気にせず進む事にした。
「ねぇユウマ?迷いナク進んでるケド、ドコに神器があるかユウマには分かるノ?」
「ん?分からないよwでもこういうのは大抵、中心か最奥に何かしらあるもんだよ」
「フーン、そうなんダ!でも、このママの状況ってキモチ悪くナイ?」
おお、さすが魔王の妹!ラウも気がついていたのか!
広大な森の中で立ち止まるユウマとラウ。
スゥっと息を吸い込むと、ユウマは少し声を張り上げる。
「木の上の8名の皆さーん!俺たちは怪しい者ではありませんのでー!出てきてくれませんかー?」
……
…………
………………
一本の木が少し揺れ、ユウマ達の前に一人のエルフの男が降り立つ。
このエルフ、けっこう強いな……
「失礼した。私はこの森の警備隊を纏めているハイエルフのガイアだ。面白い組合せの者たちが森に入ったと連絡があってな」
連絡……あの出店の店員エルフか!
「俺はユウマ、人族です。こっちは魔族のラウ、そしてホワイトドラゴンのルルです」
「ホワイトドラゴンをこんなに近くで見るのは70年振りだな……しかし我等の正確な人数まで当ててしまうとは……」
さすがエルフ……70年ってwこのエルフ何歳なんだろうw
「探知魔法を使用していただけですよ」
ユウマの言葉を聞き驚きの表情を隠せないガイア。
「我等は探知阻害の魔法を使っていたのだ。それを掻い潜る探知魔法とは……それ程の使い手がブリッツに何用か?」
ユウマが説明しようと思った瞬間、一歩前に出てラウが口を開いた。
「わたしは魔王ノ妹。ココに神器がアルと聞いたワ。その神器に兄様ヲ捜せる能力がアルか知りたいノ!」
「魔王様の妹!?……私だけの判断では何とも言えません。お二人から邪悪な気配も感じませんし、我等の長のもとへご案内しましょう」
ガイアに引き連れられ先へと進むユウマ達。
変に揉めたりしなくて本当に良かった。
それにしてもブリッツ大森林のエルフの王国って聞いてたけど、トップは王様じゃなくて長なのか?
「そういえばガイアさん。ここに住んでいるのは皆さんハイエルフなんですか?」
「いえ、普通のエルフやダークエルフ、ハーフエルフなど様々なエルフが暮らしています。エルフの血を引く者は全て大切な同胞です」
「そうなんですか!それにしても……とても綺麗な森ですね……」
空気が澄んでいる。
森全体がキラキラと輝き、風に揺れる木々や葉が奏でる音が心地良い。
しばらく歩いた所でユウマが声をあげた。
「あ、おお!ふむふむ……これはかなり強力な結界ですね!」
「なんと!!この結界が見えるのですか!?」
「え?見えますけど……ラウも見えるよな?」
「……ぜんっゼン見えないわヨ!森全体に掛かっテタ大規模結界トハ別の結界がココにあるんでショ?わたしには見えナイけど……」
「不可視化が組み込まれているのか……ちなみに大規模結界から数えてこの結界で5つ目だぞ」
ラウは呆れた表情を浮かべ、ガイアは驚愕の表情を浮かべている。
でもこの平和な時代にここまで厳重な結界をなぜ……
あ!護っている神器に万が一が無いようにか!なら納得だ。
5つ目の結界を抜けてしばらくすると、荘厳な建物が見えてきた。
「この中に我等の長がいます。さ、参りましょう」
ユウマは少し前から何か違和感を感じていた。
その違和感が何なのか分からず気持ち悪かったのだが……
やっとその正体が解った!
ガイアさん、タメ口だったのにラウが魔王の妹と言ってから丁寧な口調になってるわ。
はぁ~スッキリした!!
扉が開き中に入ると、両サイドに五名ずつ様々なエルフが並んでいる。
そして正面奥の椅子に座っているのが長か。
長の元へと歩いている最中、両サイドのエルフたちが少しざわついている。
「本当にホワイトドラゴンよ……ヒソヒソ」
「あの魔族の女の子が……ボソボソ」
俺たちは気にせず歩みを進め、長の前へと来た。
「長、先程の者たちをお連れしました」
先程の……?
見た目で年齢が全く分からないエルフだけど、長は見るからに高齢のお爺ちゃんエルフだ。
長は高齢とは思えないほど通った声で一言発した。
「皆の者、お客人に失礼だ。静まりなさい」
すごい!さすが長!一瞬で場は静まり返った。
長はユウマ達の方に目をやり言葉をかける。
「私はエルフ族の長、フォレスです。ユウマ殿と、魔王様の妹君と仰られるラウ殿、そしてホワイトドラゴンのルル殿ですな」
「ドウしてわたし達の名ヲもう知ってるノ!?しかもルルの名マデ!」
ラウが驚くのも無理はない。
俺たちの名をこの場で知っているのはガイアさんだけ。そのガイアさんはここまで来る途中に他のエルフとの接触は無かった。
となると……
「お初にお目にかかります。その情報伝達の速さ……念話ですか?」
ユウマの言葉を聞きニッコリと笑うフォレス。
「ご明察です。会話の範囲はこのブリッツ大森林の中に限られますがね」
このめちゃくちゃ広大な森林地帯全域!?
それってものすごい力じゃん……
ユウマが関心しているとラウが前に出る。
「伝わっているナラ話が早いワ!ココにある神器に……」
スっと手の平をこちらに向け、ラウの話を止めるフォレス。
「失礼。まずラウ殿が本当に魔王様の妹だと証明して頂けますかな?神器の話はその後です」
至極真っ当な対応だ。
現状、誰も見たことのない女の子の魔族が自分は魔王の妹だと言ってるだけ……
「ラウ?フォレスさんやここにいる皆さんが納得できるよう証明することは出来るか?」
「証明っテ言われテモ……どうシテ実の妹のわたしがそんなコト言われなきゃイケないノよ……」
フォレスの目つきが鋭くなる。
「証明……できないという事ですかな……?」
やばい……やばいやばいやばい……
不貞腐れてる場合じゃないぞラウぅぅうう!!
その場の空気に殺気が混じりはじめた……