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魔族 対 魔族

魔族領内の薄暗い森の中……


魔王国四天王、ザガンの部下の一人であるバルは苛立ち、荒れていた。


魔族はもともと集団行動が苦手な者が多く、魔王の存在があるからこそ纏まっていた……と、魔族たち本人ですらそう思っていた。


だが10年以上も魔王不在が続いても、世界中の魔族が暴れだしたという報告は皆無。


何故かここ数年、妙に苛立っているバルは今回の世界不戦条約の破棄をきっかけに、まずこの大陸中の魔族が暴れだし、それに乗じて自分も暴れ回ろうと考えていたのだが、一向に混乱が起きる気配はない。


魔王不在、不戦条約の破棄、ここまでの事が起こっても世界は平和を保とうとしているのである。


このまま他種族の住む地に攻めいれば、そこに暮らす魔族たちも自分を攻撃してくるだろう。



「クソが……俺はタダ自分より弱いやつヲ痛めつけテ楽しみたいダケなのにヨウ……魔王の妹ダケでも見つけ出シテ楽しんじまうかァ……」



そう呟いた瞬間、冷たい風がバルに向けて吹き荒ぶ。



「楽シムとは、イッタイ誰と何を楽しむのデス?」


「ダレだ!?」



バルの前へゆっくりと近づく複数の足音。


その足音は静かながらも怒りが込められている。



「魔王様ノ妹であるラウ様を侮辱シタ今日この瞬間が、キサマの命日ダ」



バルの前に現れたのはラウのお世話掛かりであるメイドの一人、メアリーだった。



「ナンだぁオマエ?ソノ格好と口振りからスルと魔王の妹に仕えるメイドかぁ?」



バルは辺りを注意深く観察している。



「オカシイなぁ……4、5人ノ足音がシタはずなんだがナァ……」



バルの発言を受けて微笑を浮かべるメアリー。



「頭はワルくても耳はイイようデスね。ですが……消えユク者が気にスル必要はありまセン」



チッ……


舌打ちするバル。


ドウやらこのメイドは俺を消すツモリらしい。


足音はタシカニ複数聞こエタ。上手くカクレてやがるナァ。


ダガまぁ問題はナイ。このバル様にかかればゴミみたいなモンだァ。



「弱っちィ雑用メイド風情ガこのバル様を消すト?クケケケケ……魔王の妹のマエにオマエで楽しんでヤルよォ!」



下卑た笑い声を響かせるバルの眼前に、メアリーはどこから取り出したのか一振の槍を放り投げた。



「メイドが弱いなどと、ナゼそう思うのデス?」



足元に突き刺さったその槍を見た瞬間バルの笑いがピタリと止まる。



「オイ、こいつァ俺ノ弟ガルの槍にソックリなのはナァぜだァ……?」



ナゼこのメイドが弟の槍ヲもってイル?弟もコノ森のドコかにまだ潜んでイルはずダガ……



「ソレはあの世デ直接本人に聞くと良いデスよ」



満面の笑みを浮かべ答えるメアリー。


見る見るうちに鬼の形相になるバル。



「ズタボロにシテ食ってヤルぞぉぉオオ!」



足元の槍を握りバルは思い切りメアリーに振り下ろす!


メアリーはいつの間にか手にしている2本の短刀でバルの強撃を軽々と受ける!


ナンだ!?イツの間に武器ヲ!いや、そんなコトよりコノ細腕でナゼ俺の本気の攻撃ヲ受けレルのだ!?



「ンゴぉおあガァぁあァァ!」



バルの両腹部が深く切り裂かれ悶絶の声をあげる。


弟が消されたかもしれないという疑念、本気の攻撃を軽々と受け止められた現実、両腕が塞がっているはずなのに明らかに短刀ではない謎の攻撃による深手。


理解不能な状況の連続に、バルは思い出した。


絶対的強者から蹂躙される恐怖を。



「お気に入りのメイド服がゴミクズの血でヨゴレちゃいましたヨ」



ハッと何かに気がつくバル。


恐怖の表情を浮かべていたはずのバルが、どんどんニヤケ顔になっていく。



「なにヲ笑っテ……!?」



くらりとするメアリー。


猛烈な睡魔がメアリーを襲ったのだ。



「ク……クケケケケ!怪我ナンテするの久しブリでよォ、自分の能力のコトなんてスッカリ忘れてたゼェ!」


「ユ……ユニークスキルです……カ……」


「俺様のユニークスキル『血まみれのベッド』は俺様の血を大量に浴ビタ者ヲ深い眠りへとイザナウ。眠ったトコロを美味しくいたダイテやるゼェ」


「油断……シテ……しまっタ……カ……」



メアリーはその場に倒れ込むと眠りについてしまった。


バルは自分が深手を負っていることよりも、目の前のご馳走に興奮している。


ヨダレをダラダラと垂らしながら歩み寄り、メアリーに手を伸ばした瞬間だった。


何事も無かったようにすっくと立ち上がるメアリー!



「オハよう、ヘンタイ。そしてサヨウナラ」


「な!ナンだ!?声がカワッて……」



それは一瞬の出来事。


バルの体はメアリーがどこから取り出したのか分からない、体よりもドデカい斧で真っ二つにされたのだった。



(メアリー!おい!メアリー目をサマセ!!)



ハッとした表情になるメアリー。



「ソノ声はラブリ、アナタが交代シテくれたのデスね」



パチパチパチパチと小さな拍手の音が響き渡る。


木の上からスっとメアリーの前に降り立つ男。



「いやァ、メアリーのユニークスキル『秘密の花園』はやっぱりスゴいねー」


「バっ!バラム様!!」



嗚呼ァ……女性のものヨリも美しいパープルに輝く長い髪、全てを包み込むヨウな優しいオ声、心のスベテを見透かさレルような宝石ヨリも魅力的な瞳……


四天王最強と謳われるバラム様……本日モ素敵すぎマス……


メアリーの眼は完全に恋する乙女のそれだ。



「それにシテも、魔王様がお選ビニなったメイドを弱いと思うナンテ、ザガンの部下は思慮が足りナイね」



我に返るメアリー。



「バラム様!そのザガン様の件で……」



メアリーの唇にそっと人差し指をあてがうバラム。


メアリーの頬はもう真っ赤だ。



「ラウ様の件ダネ。ラウ様のことは私に任せテ、メアリーは城にオ戻り。他の皆モ花園の中にイルのだろう?」


「ハイ……シカシ私たちはラウ様の忠実なメイド……」



ぐっとメアリーに顔を近づけるバラム。



「はわワわワわワわ」



メアリーはもう気絶寸前だ。



「今のザガンは危険ダ。忠実なメイド達に何かアッテはラウ様も悲しむ。ソレにメアリーの可愛いメイド服がヨゴレてしまってるじゃナイか。早く城に戻り着替エルといい」


「かわっカワ……私ガ可愛いっっ……!?ハゥン……」



メアリーは幸せそうな顔で気絶してしまった。


だがすぐに立ち上がるメアリー。



「ンー、ソノ気配は……ラブリかな?」


「ハイ!お見苦しいトコロをお見せシテしまい申し訳アリませんバラム様!」


「気にシナクていいよ。皆にはナニかあった時に動けるヨウにしてオイテ欲しいんダ。だから今はマダ城で待機してイテくれるカナ?」


「バラム様の仰せのママに!」


「ウン。花園の中にイル他の皆もヨロシクね」



バラムの命令を受け、城に戻って行くメアリーの体のラブリ。


ウーン……メアリーの秘密の花園は本当にステキな能力だなァ。


さて、ソレヨリも……一体ドウしたというのだザガン……いや、今はラウ様を見つケル事が先決か……


立ち入レル範囲の魔族領内にはいなかった。トナルト魔族領の外か……急ガネば。




      ───◇─◆─◇───




一方その頃、ユウマ達は順調に旅を続けていた。



「ねぇねぇユウマ!勇者様のコトはどれクライ知ってるノ?」


「勇者のことかぁ……まったく知らん」



父アランの仲間であった先代勇者については色々と聞かされていたが、現役の勇者については本当に何も知らなかった。



「フーン……ジャあ偶然かぁ」


「んー?偶然って何がー?」


「ンとね、ユウマがわたしヲ最初にタスケテくれた時、エビルボアを生かしたママにしたデショ?命を奪う必要ナイって」


「あー、そんなこともあったかもねー」


「勇者様も同じヨウなコトを話していたノ。いくら魔物デあっても、無闇に命ヲ奪うコトは良くナイって」



ほほーぅ……


お兄さんの話をしてる時とはまた違うけど、すごく楽しそうにラウは勇者の話をするんだな。



「ふむふむ。ラウは勇者のことが好きなのか?」



一気に赤面するラウ。



「ばっ!バッカじゃナイ!!勇者様は……好きだったコトもあるカモしれナイ……デモ多分、憧れミタイな感じダト思う」



今日のラウはずいぶんと素直だな……なにか悪い物でも食べたのだろうか……



「ダッテ、兄様と対等に接スル事ができるヒト族なんて勇者様シカいないモノ!」



あぁ、やっぱりお兄さんが基準なのねw



「てことは勇者と会った事あるんだよな?お兄さんは過保護なのに勇者がラウと会うのは許せるんだな」


「ソレだけ信頼し合う仲なんダヨ!わたしノ部屋で2人きりデ会うのは絶対に許サンぞーって言ってたケドw」


「それさぁ……同じベッドで寝たこととか知られたら俺やばくねー?」


「ウン!ユウマは兄様に消されちゃうネw」



まったく笑えないんですが……


それにしてもラウは本当によく笑うようになった。


ルルともすごく仲良しだし、お兄さん……無事だといいな……

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