それぞれの旅立ち
翌日、トレーネの町に戻った町の代表者と冒険者チームの方たちが、わざわざ俺たちの泊まる宿に出向いてくれた。
「おお!ユウマ殿とラウ殿か!私はここの代表をさせてもらっているゴンズと申します。町の者たちから聞く通り、本当にホワイトドラゴンを連れているのですな!この度はこの町を守って頂き、本当に感謝する」
町の代表と聞いていたから老齢かと思っていたのだが、どうやらゴンズさんは40台前半といったところのようだ。
「いえいえ、1番活躍したのはてとらと魔兎たちですよ」
「そう謙遜されますな。てとらや魔兎たちの件も聞いています。ユウマ殿?頬を抑えておりますが、まさか魔物から受けた傷ですか!?」
「いやぁ……これはついさっき……色々とありまして……ははは……」
隣にいるラウが顔を赤らめてそっぽを向いている。
そうなんだ。
3日連続の理不尽パンチだ……
すでに話は聞いているようだったが、俺はゴンズさんと冒険者チームの方たちに昨日のブリザバード騒動の件を改めて説明し、気になっていた世界不戦条約の件について質問した。
「結論から申しますと、過去の戦争が再び繰り返される事は無い……との認識で一致しました。」
「……ですが、魔族側から条約の破棄を伝えられたんですよね?」
「はい。それは事実なのですが、どうやら魔族側も一枚岩ではないようで、今回の件は魔王国四天王の1人、ザガンの暴走であるとの情報が入っております」
なるほど……どこの世界でも一部の暴走で大なり小なり混乱が起きることはあるんだな。
「それにこの大陸中で人族をはじめ、各種族と共に暮らしている魔族たちはいつも通りの日常を過ごしております。むしろザガンの行為に対して困惑している魔族ばかりのようです」
そりゃそうだよな……戦争なんてのを始めようとするのは、いつだってどこの世界だって普通に暮らす人達じゃないんだ。
国とかを纏めるたった数人の意見や思惑だけで、何千何万の平和に暮らす人達が傷つけ合うなんて馬鹿らしい話だ。
「ラウ、そのザガンって四天王に馬鹿なことはやめろって言えないのか?」
「ン~、魔王城のナカに張ってアル兄様の結界の中で生活してたカラ、結界を出入りできる四天王の1人とメイドたち以外は会ったコトないのよネ。わたしモ出るなと言われてたカラ……」
「え……もしかしてお兄さんって超絶過保護なの?w」
「ハジメてお爺様に出会ったトキも、我ノ大切な妹ヲ見るんじゃネーって怒ってたわヨ。兄様ほんとカッコいい……」
このシスコンブラコン兄妹め……
「……あのう、ラウ殿?魔王城とか兄様……お爺様などと聞こえましたが……」
しまった。せっかく皆さんが出向いて下さっているのに、皆さんを蚊帳の外にしてしまった。
「実はこのラウは魔王の妹なんですよ~」
改めて紹介されたのが嬉しいのか、ラウは満面の笑顔!そして何故か可愛い感じのポージングをしている……
……
…………
あれ?
一瞬で場が静まり返ってしまった……それに皆さん顔面蒼白になってるけど、これ言っちゃ不味かったのか……?
「うん!魔王はわたしノ兄様ナノ!お爺様は先代魔王のコトよ」
「なっ!?なななななんですとぉぉぉおおお!!!!」
ゴンズが平伏すと、それを見た冒険者チーム、この話を近くで聞いていた町の人々が一斉に平伏す。
「え?え?皆さん一体どうしたんです!?」
ラウも隣でポーズを決めたままキョトン顔だ。
「ラウ殿……いや、ラウ様!まさか魔王様の妹君とは知らずにおもてなしもせず申し訳御座いません!しかも先代魔王様が祖父だったとは……」
「え?お爺様っテ呼んでるダケで血の繋がりはナイわよ。ソレにここのユウマと一緒にお風呂に入って楽しそうにスル、優しいお爺様なんだカラ」
「せ!せせせせせ先代魔王様と裸のお付き合いをぉぉおおお!?ユウマ様とお呼びさせて下さいぃぃい!」
おいおいおいw魔王や先代魔王ってどんだけ影響力を持ってるんだよ……
「皆さん顔を上げてください。それに、俺もラウも普通に呼んで頂いて結構ですのでwな?ラウ」
「ウン!よく分からないケド普通でいいわヨ?」
何とかその場を納めると、ユウマは行方不明になっている魔王を捜すための役立ちそうな神器を探していることを説明した。
「なるほど、行方不明のお兄さ……魔王様のために……なんとお優しい……」
「ゴンズさん。俺は田舎の村から出てきたばかりで世間知らずなんですが、皆さん勇者だけじゃなく魔王のことも敬っているのですか?」
これは心の底から気になっていた事だ。
俺の前世で語られたり描かれる勇者と魔王は、その大半が敵対し、魔王や魔族は他種族にとって厄災とも言える存在だと相場は決まっている。
「それは当然でございます!勇者様も魔王様もすべての種族から等しく尊敬され、我々が道を踏み外さぬように標となって下さっているのです」
100年戦争を先代魔王たちが終結させ、世界中の種族が知っているほど、現勇者と現魔王がまさに親友として過ごしている。
その様子を見聞きする者たちは、心の底から争いなんて無意味で馬鹿らしいものだと……種族関係なく平和に暮らす方が有意義だと強く思うらしい。
「あの御二方が行方不明なのは周知のことではあれど、皆お帰りになる事を信じているのです」
すごいな。
ゴンズだけでなく、冒険者チームや町の人たちの真っ直ぐな眼差しが全てを物語っている。
「ラウ、お兄さんって本当にすごい人なんだな!」
「ふっふー!兄様はトーってもスゴいのよ!アト人じゃナクて魔族ネ!」
意外とラウは細かいなw
「それにしてもゴンズさん、俺たちの話をそんなに簡単に信じてくれるんですか?」
「もちろんですとも。私のユニークスキルに間違いはありませんから」
「ゴンズさんのユニークスキル?」
「えぇ、私のユニークスキル『真実の眼』は相手の話が真実か否かを見抜きます。このスキルがあるから私はこの町の代表をさせてもらっているのですよ」
おおお!素晴らしいスキルだ!
いくら平和な世の中とは言っても、小さな騙し合いのようなものはあるんだろうしな。
それから冒険者チームの方たちとも、魔物対策の結界強化の方法を伝えたり、様々な情報交換をさせてもらった。
「してユウマ殿、神器探しの次のあてはあるのですかな?」
正直困っていた。
と言うのも、魔兎たちが精霊化した件からずっとククルの反応が無いからだ。
「あての無い旅になりそうですw」
「ふむ……でしたらこの町からずっと北にある、ブリッツ大森林に向かわれては如何ですかな?」
「ブリッツ大森林!エルフたちの住ム自然ノ王国ネ!」
「引きこもり生活が長かったのに詳しいんだなラウ!」
「メイドたちガお勉強は大切ヨって色々とオシエテくれたのヨ」
それにしてもエルフの王国かぁ……まだエルフと会ったことないしこれは楽しみだ!
俺の書く小説にエルフが登場するなんてテンション上がるなぁ!
「ブリッツには神樹と呼ばれる大きな木があるらしく、そこで1つの神器を護っていると聞いたことがあります」
おぉ!ククルの反応がないこの時にこれは嬉しい情報だ!
次の目的地はエルフの王国があるブリッツ大森林に決定だな。
そうこうしていると冒険者チームの人達がざわつき始めた。
あっちから歩いてくるのは……
てとらだ!
体の何倍もある大きな荷物を背負っている。
「てとら!?その荷物……魔法のポーチ持ってないのか?」
「無い!!それよりも町の皆に挨拶にきたてと」
挨拶って……まさかてとら?こんなにいい町を出ていくなんて言うんじゃないよな?
ここはてとらや魔兎たちにとって安住の地じゃなかったのか?
「町の皆には本当に良くしてもらって感謝してるてと。でも昨日の魔物と戦ってこのままじゃだめだって……てとらは修行の旅に出るてと!!」
ゴンズが問いかける。
「てとら……感謝しているのは我々の方なんだよ。いつも世話になってばかりだ。その修行が終わったら……またトレーネに帰って来てくれるかい?」
冒険者チームや町の人達が一様に帰って来て欲しいと声をあげる。
いつの間にか子供たちも集まって、行かないでと泣き出す子もいる。
てとらは町の皆から愛される存在なんだな。
「……ここは……てとらの家があるてとよ!自分の家に帰ってくるのは……当然てと!いちいち……いちいち泣くんじゃねーてと!!」
一番泣いてるてとらがそれを言うかw
てとらの持つ武神の腕輪はあれから反応が無いらしく、自由に力を引き出せるようにするための修行をしたいらしい。
ちなみに魔兎たちが見当たらない事を指摘したら……
「ここにいるてとよ!」
と言って首に巻かれたマフラーみたいな物を指さした。
魔兎たちがくっ付いてマフラーのように化けてるらしいw精霊って面白いww
それにしても……本当に良い町だ。本当に良い人達だ。
しかし……修行ねぇ……
……
…………
「なぁてとら。強くなるための修行がしたいなら超特別な場所があるんだが……」
俺は他の人達に聞こえないようにコソコソとてとらにある場所を教えた。
さぁ、俺達も出発するか!
町の人達が総出で俺たちやてとらのことを見送ってくれた。
「あんた達ぃ!修行場所の情報サンキュなー!」
俺とラウもルルも、てとらに向け手を振る。
「ちょっとユウマ……てとらに教エタ場所って……もしかシテ……」
「本人が強くなりたいって言ってるんだから、最高の場所を教えたまでだよw」
「www……可哀想ナてとら……これカラ地獄ヨ……」
ユウマ、ラウ、そしてルルはエルフの住まうブリッツ大森林へと歩みを進める。