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神器の力と怪しい影

ラウやてとらのもとへ急ぐユウマもその異変に気がついた。


なんだ?大気が震えている……それにこのデカい反応は何なんだ?



《武神の腕輪が目覚めようとしています》



ユウマの身につける神器、創造の指輪ククルがそう告げる。


じゃあこのデカい反応はてとらか!すごいな……


いつの間にかてとらは立ち上がっていた。


立ち上がったまま動かない。


そしてそのてとらの姿を見ているブリザバードは動けない……動きたくとも、強大な畏怖を感じ取ったブリザバードの体は硬直してしまっているようだ。



「ラウ!てとら!」



ユウマが2人のもとに到着する。


くっ……探知魔法を展開しているから解る……魔兎たちの反応が完全に消えてしまっている……ラウとルルは……無事ではあるようだな……


てとらは永遠とも感じる刹那の中、悔いていた。


自分の弱さに。


自分の情けなさに。


そして、伝えたかった想いを言葉に出来ないまま、伝えたい相手を失ってしまったことに……


てとらは両拳を強く握りしめながら頭の中で叫んだ。



(武神の腕輪……てとらはお前のことが大嫌いてと……でも、お前がてとらを選んだってんなら……その力……貸せてと!!)



大気の震えが止まった……?


まるで時が止まったような一瞬の静けさの後、てとらの身につける武神の腕輪が激しく光を放つ!



「おい、冷めチキヤロー。一回落ちろよ、地獄に」



てとらは完全にキレてしまっている。


左足を前に、右足を後ろに。


腰を深く落とし、半身に構える。


てとらの右拳にオーラが集中していく!


すごいな……てとらの右手のオーラ……緑色に輝いてる……


てとらと対峙しているブリザバードは相変わらずピクリとも動けないままだ。


刹那!


ブリザバードの正面に構えていたはずのてとらは、右拳を前に突き出した構えでブリザバードの後方へと移動していた。


速い……目で追うことは出来ていたユウマだが、そんなユウマですら冷や汗が出る程の速度だった。



「疾風……迅兎」(しっぷうじんと)



てとらが呟く。


少しの間を置いて、けたたましい音と共にブリザバードは跡形もなく消滅した。


そしててとらもまたその場に倒れ込んでしまった。



「てとら!!」



ーー


ーーー


ーーーー


目を覚ますてとら。



「良かった!回復魔法をかけたからもう大丈夫だ!」



ユウマの持っていた魔力回復薬を飲んで復活したラウ、そしてルルも心配そうにてとらの顔を覗き込んでいる。


がばっと勢いよく起き上がると、てとらは周囲を見渡す。



「魔兎……魔兎たちは!?」


「アノ子たちは……アソコに……」



急いで魔兎たちのもとへと駆け寄るてとら。



「すまない……回復魔法で傷は消せたんだけど、命までは……」



この世界で当たり前に使える魔法。


前世の俺からすればそのどれもが奇跡だ。


だけどその奇跡のような魔法でも、死んだ者を生き返らせる魔法は存在しない。


なんだよ異世界……魔兎たちは……あいつらこそ生きるべき命じゃねーのかよ!


静かに、安らかに眠っているような魔兎たちをてとらは優しく撫でている。



「あんた達とずっと一緒にいたい……この願いはもう……叶わないてとか……あんた達……本当にてとらを一人ぼっちにするてとか!!」



泣きじゃくるてとら……ラウも泣いてる……そして俺も……



「てとら……そんなに泣いてたら魔兎たちが安心できないだろ?ほら、てとらの涙で魔兎たちがびしょ濡れだ」



涙で濡れた魔兎たちを拭こうとユウマが手を差し出すと、てとらの涙がユウマの身につけた創造の指輪に零れ落ちた。


指輪は暖かな光を放ち出すと、その光は魔兎たちを包み込む。



「な!なんだ!?指輪が突然……魔兎たちが!!」



光に包まれた魔兎たちがどんどん透明になり、消え去っていく。


そして同時に魔兎たちを包み込んでいた光も静かに消えていった。



「ナニが起こったノ……??」



一同がラウと同じ思いを抱いた瞬間、頭上から聞き覚えのある鳴き声が響き渡った。



「あんた……達?その姿……」



空中にふよふよと浮かぶ、半透明に近い緑色をしたもの……でもその姿は間違いなく死んだはずの魔兎たちだった。



「嘘デショ……これ……精霊ヨ……」



精霊!?魔兎たちは精霊として生まれ変わった?のか??


ラウ曰く、精霊については謎が多いらしく、最初から精霊としてこの世界に誕生するものもいれば、この魔兎たちのように死んでから精霊化するものがいるらしい。


だけど魔兎たちは精霊化できるほどの力を持った個体でもなかったのに、五体全てが精霊化したことにラウはめちゃくちゃ驚いているのだ。


精霊化した魔兎たちは嬉しそうにてとらにくっついている。


てとらも大粒の涙を流しながら満面の笑みを浮かべて魔兎たちを撫でている。



「バカタレ共が……てとらを二度とぼっちにするんじゃねーてとよ!」



魔兎たちは少しキリッとした表情になり、てとらの言葉に応えているようだった。


深く、ふかーく深呼吸するてとら。


意を決したように呟いた。



「あの……あんた達のこと……大好きてとよ……いつもそばに居てくれてありがと……一応伝えておくわ……」



おおおおお!



「口下手であろうてとらが良く言えたな!偉い!」



俺とラウが拍手をしながら茶化す。



「うっせ!!」



素直なてとらも、口の悪いてとらも、どちらも魔兎たちにとってたった一人しかいない大切なてとらだ。


魔兎たちは感動の涙を流しているようなんだが……魔兎たちっててとらの言葉を理解できてるんだな……


まぁルルも俺の言葉を理解してるフシがあるし……あまり深く考えるのはやめておこうw



「ユウマ、これがあんたの神器の能力てとか?」


「いやそれが分からないんだ。今の俺の魔力じゃこの神器の力は解放できないらしいんだけどさ……」



謎は深まるばかりだ。


ククルもあれから声を掛けても無言のままだし。



「とにかく礼を言うてと。精霊としてでも魔兎たちとまた一緒にいれるなんて……奇跡てとよ」



奇跡か……失った命を取り戻す魔法は存在しない。


ましてや精霊化させる魔法なんてのも存在しない。


これを表す言葉は……まぁ、奇跡って言う他ないよね。


とりあえず魔物の脅威が去ったことを町の人達に伝えに行こう。


幾つか壊されてしまった建物はあるが、幸いなことに軽傷者が数人いるだけで死者は無し。


まだ治療できていない人はユウマが回復魔法で治癒した。


魔兎たちに救われた子供たちがてとらの周りに集まっている。



「魔兎さんたち緑色になってるー!」


「すごーい!魔兎さんたち浮かんでるーー!」



精霊化した魔兎たちも驚くほど問題なく受け入れられているようだw


トレーネは良い人達が集う町なんだな。



「にシテもユウマ、もう少しハヤク助けにコレなかったノ?ほんと危なかったんデスけどー」



ラウも、ラウの頭に乗ったルルもご立腹のようだ。



「本当にすまない。ブリザバードはすぐに倒したんだけど、その後おかしな奴が現れてさ」


「オカシなヤツ?」


「俺たちの宿に被害はなかったようだし、戻ったら詳しく話すよ」



宿屋に戻ったユウマは町の西側で起こったことをラウに説明しだした。


ブリザバードを瞬殺したあと、気配もなく現れた影のような存在。


そしてその影のオーラは恐らく無色、またはこちらが認識できないということ。


そして、その影はユウマの白オーラを認識し、白オーラには出せない力をユウマが発揮したことに対して質問してきた。


もちろん何も答えなかったけどな。


そして最後にその影のような奴は気になることを言っていたんだ。



「ホボ チカラ ヲ ツカイ ハタシテ ジャマモノ フタリ ヲ ケシタ ト イウノニ キニ クワン ヤツ ダ」



そう言うとその影は消えてしまった。


ブリザバードが氷の山脈から出ることのない魔物ってのが正確な情報なら、もしかしたらあの影の奴に操られていたのかもしれない。



「邪魔者2人?意味ガ全くわからナイね」


「ははは、本当だよなw」



いや、俺はなんとなく想像してしまっている。


あの影が消したと言った2人って……勇者と魔王のことなんじゃないのか……


消したってことは……やはりもう2人は……


チラリとラウの方へ目をやると、ルルと楽しそうにじゃれ合っている。


駄目だ……俺の勝手な憶測でラウを悲しませるようなことを言うのはやめておこう。



「ン?なぁによユウマぁ?わたしの顔にナニカ付いてル?」


「いや、何でもないよ。気にしないでくれ」



この影の奴については、ラウと話し合い「イロナシ」と呼ぶことにした。


小説を書くための取材旅行気分でいたんだけど……雲行きが怪しくなってきたな……

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