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2章9 第37話 

―エレ視点―


部屋に先に戻り本を読んでいると、ヨナが返ってきた。

顔色はいつもと変わらない。

私は少し逡巡したあと、思い切って話を切り出すことにした。


「私はあの人の事がよくわかりません。あの人はいい人なのでしょうか悪い人なのでしょうか?」


質問にヨナはキョトンとした顔をしている。


彼らと会う前に教えられていた内容によれば

彼は学生の時には傍若無人な教授に集団で対抗し

社会に出てからは国内で勢力を築きながら地位に固執することなく義を通し、

最後には異国で凶刃に倒れる。

おとぎ話に語られるヒーローのような人だと思っていた。


最初に違和感を感じたのは

ヒュームの老人ドグマを見捨てたことだ。

確かに彼の話は理解できる、だからあの場は下がった。

でも今も納得はできない。


「……あぁ、さっきのこと?」


無感情なヨナの声が返ってくる。


「別に彼女は悪い人には見えませんでした。

そういう人を利用するようなことは、なんかちょっと…、」


私はそう言いながら、

ヨナは同意はしてこないだろう と思っていた。

ただ、考えるための視点を取り入れたかった。

スイさんと数か月一緒にいるなら準備としての知識が必要だ。

助手のように振舞うにせよ、説得して行動を躊躇させるにせよ、


「彼が褒められないような行動をするなら、何か目的があるはずよ、

だからもし止めたいことがあるなら、目的のメリットやデメリットを問う事ね。

目的が必要な事ならあなたが何を言おうが無駄な事。

ただ自分だけが奇麗なままでいたい、迷惑をかけたくないというなら植物のようにひっそり暮らし、天に天候と捕食者が来ない事を祈り、時に運がないと嘆いてればいい。きっと神様は正しいあなたをお救い下さるでしょうね ハハッ」


そう、彼女はどこか醒めている。

決して論理を軽視する人ではない、

でも感情を優先しないわけでもない、

不思議な人だ。



「あなたにとってそれは、それが恋なのですか?」


「女というものはめんどくさいものじゃない?」


「覚えておきますよ」


「それで、あなたは?」


「そうですね、私には義があります」


彼女の眉がピクっと動いた。


「そう、あなたはまだそこなのね。

なら簡単な例えで説明しましょうか、

品行方正な無能と不品行な有能のどちらを取り立てる社会がより発展するか、

衰退する組織は品行方正な無能を選ぶ

なぜなら真に有能なものと言うのは大衆と既得権者両方の敵だから

歴史を紐とけば絶対的な平和、コスモポリタン、素晴らしい理想ね

かつての人々は平和こそ大衆にとって至高なのだ、戦争は支配層へ利益をもたらすものだ、と信じた。素晴らしい”義”でしょう?


かつてJAPという国があった

完全な戦争の放棄なら幸福になれると唱え、何かあるごとに海外に国富を流出し、国内には自己責任を唱え、誰からも尊敬されず、ついには衰退した憐れな集団よ

彼らは幸せだったのかしら?


物語には終わりがある、創作物なら最終回にめでたしめでたしで世界が閉じる、

でも歴史には終わりがない

時代時代で人は戦争を行うだろうし争い合うべきもの

義とは常に欺瞞、人が生物である限り生物としてのルールから逃げることは傲慢な不平等の押しつけを内包している

人はだましだまされ、殺し殺され、それを受け入れるか呪って死ぬ

人を殺すことを禁忌とするとき、成長も止まる

今日こんにち、2大陣営において純粋な争いの放棄を社会ステムに取り入れていない理由がこれよ


あなたのいう”義”というのは、極論すればJAPの御旗と同根になるし、それが歴史的に憎悪を激化させ、戦争の火種を作ってきたことは学校で習ったかしら?

義はつねに平和という現状固定のために横領、腐敗、次には経済格差を望み、価値観に沿わないものへの罵倒や見下しで圧力をかける。もちろんそんなことをしても他人は意図通りに動かないので憎悪が増す

正しさとは常に悪を隠す餡であって、私が訊きたいのは、その先よ」


「それはそうかもしれないですが、」


「脳みそに焼き付きこびり付いた間違った常識はスポンジで擦った程度じゃ剥がれ落ちないか

汚れた常識・ジンクスにしがみついて運が悪いって思って理想を語るだけじゃ何も前進しないわよ、かつてのテロリストがそうだったようにね

有能と言う意味を絶対的な意味で理解したとき、銀行が雨の日に傘を持っている人に傘を貸すように、品行と有能さは相関しないってことをいつかあなたも分かるわ」



「それなら、人と何故つながるのですか?利害関係だけで人はつながらない事は了承いただけるかと思います」


「そうね、それについては同意するわ」


と彼女は軽く答え、


「人のつながりというのは絶対に裏切らない味方を作る事ではなく、困ったときに手を貸してくれるかもしれない程度の関係をどれだけ構築する事が出来るかよ

調子のいい時には良い循環が、悪い時には自殺するまで社会は石を投げてくるけど、それが悪いことだとは言わない、

溺れている犬は棒で叩くのが社会

でも、つながりがあれば石を投げるにしても『それが本当に正しい事なのか』一拍置かせることができる、それがつながりであり情というものです

例え正しくなかったとしても、まったく考えないことよりは考えてされた行為は配慮される行為でしょう?」


と続けた。

私は前のめりに、

「でも、…」

私はそこまで言いかけて、言葉を飲み込んだ


それなら、あなたはなぜスイさんのために献身されたのですか?

それを言うのは無粋で、個別の事例で理論を否定するのは間違っているし、

その私には矛盾のように見える先にある論理が彼女のたどり着いた答えだから。


私は別に答えを求めているわけではない。


思想とは砂漠に落ちた砂金を探すようなものだ、探したくないと思っても人が灼熱で水を求めるように、社会と言う辛い現実の前に人は思想を求め、その人生の中でいつか見つける、


キラキラに輝くものを


ただ、それを真実だと思いそこで思考が止まってしまうと、先に進むものがいる

その差は何なのか今の私にはよくわからない、

でも私はその先に進みたい


だから知識と経験が欲しい


「いえ、そうですね、何かを成したいなら力が必要だというのは私も理解しています、

それが奇麗ごとだけでは成し遂げられないってことも」


「それが分かっているならきっと大丈夫

私たちが帰ってきたときにあなたがいないなんてことになっていない事は勘弁してほしいものね」


彼女はそう言うとベットを上がり、ジャーとカーテンを閉めた。



いつだったか彼女は話してくれた。



『私が学生の頃、酷い教授がいてね

私の上の世代がそれに連帯して抗議していたわ

でもね、本当に”みんなが”同じ目標に向かって団結するなんてありうるかしら?

懐柔し、世話をし、それでも屈しないものにはどうしたと思う?ふふっ、

私はその姿を見て、震えたわ

やさしさでは誰も幸せにならない、幸せとは、行動によってつかみ取るものだと私はその時理解したの


だからね、貴方は他人を犠牲にしてまで生きたい理由があるかってことよ?

金?名誉?異性をはべらせたい?その程度のただ生きたいだけならウマや牛と変わらない

ねぇ、”貴方にそこまでしてやり遂げたい事は”ある?

これから一緒にやっていくなら、考えておくことね』



私もその行動の対象にされないように祈りたいものだ。




―――――――――――――――――――――――――

この後の2章はエレ視点の4部を入れるかな?という想定(予定は未定であり云々)

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