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多種族惑星ヴァンダルギア  作者: マルセークリット
1章序 やれやれ・不殺・鈍感はゴミ箱に捨ててきた 0から始める戦争活動
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1章10 ここにいるよ

「そういえば、寮に来てからお前と二人になるのは初めてだったな」

「そっすね」


教護院の帰り、時間があったので俺はヨナと堤防を歩いていた。

時はすでに晩夏だが今日はわりと暑い。堤防には生垣として植えられたダリアが咲いている。堤防なので風が強い、たまにカサカサと葉っぱがこすれ合っている。


「ところで、あんたはどれくらい覚えてる?」

彼女の急な質問に「ん?」と、俺はわからないという顔をした。

そこには、普段の飄々(ひょうひょう)としたものではない眼差しを向けている彼女がいた。



15年前、冷戦中 最大規模となるスパイ交換が行われた。エルフ国においてゴブリン陣営と目されるバトロヴェーチ締約国の工作員10名を捕縛、スパイ罪の適用により国外追放処分を受けた。一方、バトロヴェーチ側においてもスパイ容疑で拘束中の4名がスパイ活動への従事を認める書面に署名したことを受け恩赦を与えた。

この14名の大半はバトロヴェーチ締約国の機関員であり、要はエルフ側へ追放される4名の多くは2重スパイである。

この交換に際しエルフ側は2重スパイがやり取りしていた、国家情報部が隠れ蓑にしていた海外企業をニュース上で話題にさせないため「ヒュームの美しすぎる女スパイ」として交換候補の1名に注目を集める広報工作を行い、一般的にはバロヴィエンテの誘惑という通り名で有名になる。

その後、エルフ側へ追放された4名はノビチョクによる薬殺事件により、4名中2名と、居合わせた現地住民3名が死亡し、外交問題へと発展した。



「ウチだけ儀式の時、室内にいったっしょ?

人工呼吸器で生かされていた私、いや、正確には私の一部の元となったもの、か。

惨めな姿だったっすよ、脳は半分くらいなくて、痩せこけてて、腕には5本くらいチューブがささってたっすね」


「(あ、これ、アカンやつや)」

俺は表情で彼女に何も伝わらないよう、平静を装った。


「あいつらはウチに言ったよ、楽にしてあげなさいって。おっかしいよね、わざわざウチに殺させるために生かしてたなんて」


どの程度記憶が受け継がれているかの最終確認だったんだろうな、と俺は推測を建てる。素体として生かしておき、脳組織同士の定着が悪ければ何度かパーツとして利用する、無事に自立できる個体になったので素体は殺す、それも最大限有効活用して。実に理屈っぽいエルフのやり方だ。


「ヨナとして生きるなら殺しなさい、そうでないなら君はここで死ぬ。君は直接承諾はとれてなかったから最終確認だ、そういわれたっす」


「恨んでる?」


「悪役にとにかく暴言悪逆非道させて、『どや、悪役にむかつくだろ?おもろいだろ』とか創作だとあるあるだけど、

創作ですらキチガイがキチガイ行動して『どや?キチガイだぞ、むかつくだろ』は登場キャラじゃなく作者叩きになるだけなんだよね。

現実だと相手があからさまなキチガイ行為するなんてそうそうないし、感情論で自分をだまして割り切ることできないから難しいよね」


「個人の感情は嗜好性が入るから常に正しくなく、独善である。

ただし客観視だけをすればヒトは動けなくなる。

論理を発し、世界へ真を問い、賛同するもので国を作る。

国は論理に正当性を示し、個人は論理に対して感情をリンクさせる。だから人は自身の属する集団を選ぶ権利があるし、国が論理に反する行為を行えば批判される。国が万引きが死罪に当たると布告し、論理に反しなければ感情を高ぶらせて万引き犯を殺す。それが集団的動物たるヒトがたどり着いた答えだよ」


「ふふ、相変らず固いね。でね、なんかその痩せこけた顔を見てたら、そういえばあの人はどうしたのかなぁって」


「あの人?」


「うん、で、死んだよ、ってさ」


「大切な人、だった?」


「あっははぁ、う~ん、私も本人じゃないからよくわかんない。でも、そんな気がする。でね、ウチは言いたいんだ、ここにいるよって。あんたたちの無念はアタシが晴らすって」


俺は無言で彼女の話を聞いていたが、

「君は誰だ?」

と、一言だけ呟いていた。


「誰?知ってるっしょ、あたしはヨナ、他の誰でもないし、誰の代わりでもない。あたしはアタシだ」


「そうか。そういえば、あの辺りから口調変ったよね」


「別人だからね、わかりやすいっしょ?あたしはあたしを殺したあの時に産まれた、そのケジメ。嫌っすか?」


「いや」


「そっすか、よかったっす。

だからスイもウチが任務で死んでも悲しまなくていいし、苦しむこともないっすよ。

ウチが死んでも、気にせずゴブリンを殺してほしいっすね。

ウチもスイが死んでも悲しまないし、苦しむこともない。

あたしたちはそのために産まれ、そのために生かされている。でしょ?」


彼女の強い眼差しを受けながら、俺は何も答えなかった。

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