第6話
せっかく片付けたのにクローゼットの奥からまた引きずり出した外蓑をボストンバッグから取り出し、ボタンを首元まで閉め、ガラガラとベランダの引き戸を開ける。買ったばかりのタバコはもう数本しか残っておらず、カラカラ寂しい音を立てながら箱の中で転がっている。
父の命を奪ったこいつが、僕は好きだ。もしかすると、僕も父と同じようにああやって死ぬのかもしれない。いや、そうじゃない。どう生きても、どう死んでも、僕はああやって死んでいくことだろう。みすぼらしく、情けなくて無様で、人目も憚らず幼さをさらけだして喚くことだろう。それが目に見える形かどうかはわからない。声に出すかどうかはわからない。でも、僕はきっとああやって死んでいく。父のように生き、そして死ぬ。いつか、その日は必ずやってくる。でも、それでこそ僕なのだ、それこそ僕の生きた形なんだと胸を張って言える。死ぬことはどうしたって怖い。後悔の無いように生きても、天国を信じて生きても、直面したときには足が震える。命の終わり、自分の終わりの日はそう遠いものじゃない。もしかしたら今日かもしれない。明日かもしれない。でも僕はこうやって生きていきたい。
青い煙が空へと上っていく。この煙はどこまで上っていくのだろうか。屋根を見下ろして、山を超えて、それでも留まることなくもっともっと高くまで上っていくだろう。あの雲に届くまで。あのハチクマに触れるまで。その身をよじって、風を受けて、それでもどこまでも、どこまでも上っていくだろう。誰もいないところ、寂しくて、悲しくて、涙のように暖かい、誰も知らない空の上まで。それで母の呼ぶ声が聞こえて、僕はそっと煙草の火を消した。