第4話
父の母、つまり僕の祖母。彼女については僕もよく知っている。幼少期は祖母とともに暮らしていた。僕にとっては優しく可愛らしい人であったが、父にとっては少し違ったようだ。若い頃の祖母は勝ち気で気が強く、おせっかいでしつけの厳しい人だったと聞いている。父が若い頃に祖父に先立たれ、孫が生まれてから随分丸くなったようだ。父はまだ少し祖母を恐れているように思えることもあった。だが親しみも十分にあった。
晩年の祖母は一人古い家に残って過ごした。父母が新居に引っ越しをしたからだ。そのような状況にたどり着くまでには様々な事情があったようだが割愛する。なんにせよ、揉め事が起こってしまうのは仕方ない。その結果も、甘んじて受け入れるしかないだろう。そうして祖母はたった一人、大きな家で余生を過ごした。僕も度々顔を出した。その度彼女はとても喜び、僕に甘い菓子と小遣いを渡した。孫は我が子よりよっぽど小さな子どもに見えるのだろう。もしくは、心の底まで見通されていたか。そのどちらであったかは今となっては知りようもない。
父にとっての彼女がどのような存在であったかはわからない。わからないが想像はつく。父の姿を見ればそれは明白だった。やはり彼にとっても、母の存在は大きく、母の愛こそ求めるものだったのだろう。あんなにも無様な姿を晒しても手に入れたい、心から求める安寧。いつか自分の決断で手放した、何度も何度も裏切った、だがどうしても手に入れたい安寧。僕には彼の気持ちがよくわかる。痛いほどに、よくわかってしまう。
父は僕にとって、とっつきやすい人だった。僕にとっての父は、年の離れた兄のような存在だった。きっと僕が生まれるずっと前に逝ってしまった祖父を見ていたからだろう。祖父はあまりそのような人ではなかったそうだ。その上父がまだ若いうちに亡くなってしまったので、男社会の常識がわからず大変苦労したと父は言っていた。男親の存在というのはどうしても重要なものだ。この男親は母とは違う、先輩としての側面が強いように僕は思う。そしてそれがないということは、自らが何度も失敗を経験して成長しなければならないということだ。かなりの苦労があっただろう。