第2話
昨日父が死んだ。癌だった。
正直な所、別れの予感は病の発覚よりも前からあった。初めてそれを感じたのは、僕が故郷を離れ学門を叩き、数ヶ月経った後の盆だっただろうか。僕は予定を押して帰省することにした。なんということはない、ただ親孝行のつもりだった。乗り慣れた列車が目的地へ到着し、ホームへ降りるとロータリーに父の車が停まっているのが見えた。昔から変なところでマメな人だった。一種のホームシックにかかっていたのもあったのだろうが、僕はらしくもなく嬉しくなり、笑顔で助手席に乗り込んだ。父は一見いつも通り、変わっていないように思えた。寡黙を装っているが根っからの人好きで、知識人だが間の抜けている中年。核の部分が僕とよく似通っている。彼を見ているとまるで未来の自分のように思えた。だが僕はなぜかそれを直感していた。きっと彼に会うことができるのはもう何回か、両の手で数えられるほどしか残っていないのだろうということ。それがどうしてかわかってしまった。似ているからこそそれがわかったのかもしれないし、ただ単純に付き合いの長さから微小な違和感を見つけていたのかもしれない。理由はわからない。直感だけがそこにあった。
オカルトなことを言いたくはないが、僕の家系の男たちは皆短命だ。皆半世紀ほどで道半ばに倒れてしまう。きっと還暦を迎えた者の方が少ないだろう。自分も孫を見るほど長生きはできないと高を括っているし、それは父とて例外ではない。不摂生をする人種でもあるので、自業自得だと言ってしまえばその通りだ、なんの反論もできやしない。細く長く生きることの価値がわからないわけでもない。叶うのならばそう生きたいと願っている。だが僕達にとって、それは生き方を変えてまですることではないのかもしれない。僕にとって信念は常に生存欲求の上にあって、信念こそが生きる礎だ。信念に反したことはどうしたってできやしない。それならば腹を切る、格好つけているのではなく、本当にそんな覚悟を持って人生を進める、稀で、愚かな人種なのだ。父もまたそんな人間であって、だから僕はもういい歳なのだから煙草をやめろと言えないでいた。