26.マイア・クレイの帰還
同族のふざけた能力に取り込まれた。そう思った次の瞬間、あたしが立っていたのは、間違いなく日本だった。
見慣れた内装、見慣れた服装。黒髪、黒髪、茶髪、黒髪。じゅわっと涙が溢れた。──ああ、帰ってきた!
あいつらが呆然としている間に。あたしはこっそりとその場を抜け出した。行き交う車たち。首が痛くなるほど高いビルの数々。そこは都心のように見えた。
少なくともあたしが住んでいた街ではない。それに、それに……今は何年? あたしは、あのころとは違う。もうとっくに三十歳を過ぎている。
「……真唯愛ちゃんかい?」
やや息を切らした老女の声に振り返る。そういえば、さっきの場所にいた、ような。
その声は、なんとなく聞き覚えがあるなというくらいの、ほんのわずかな懐かしさが湧き上がる声。どきりとして振り返ると、私が知っている姿よりわずかに年を重ねたその人が居た。
お隣に住む吉田のおばさんだった
彼女は『赤毛のアン』に出てくる、マリラのような雰囲気の人だ。厳しそうな顔立ちに尖った鷲鼻。けれども、顔立ちとはうらはらに気のいいその人を見て、──ますます、あたしの涙は止まらなくなってしまった。
会えば挨拶をするけれど、家の中の様子は知らないくらいの他人。
たまにおすそ分けの野菜を持ってくる人。
あたしにとってその人、吉田さんは、その程度の間柄だった。でも、気づいたら彼女の胸に飛び込んで、泣いていた。ややあって、彼女の手が遠慮がちに背に添えられたのだった。
「それで? あんたも神隠しに遭ったんだろう?」
「……おばさんも?」
あたしは驚いて聞き返した。吉田さんは複雑な顔をした。笑ったような、悲しいような。
吉田さんの姿は、私の知る姿とそこまで変わらない。 この世界ではたったの数年だったらしいというのに "老け込んだ" あたしとは大違いだ。
「あの日、街がひどく揺れた日。街ごとあちらに喚ばれたんだよ。幸い街にいた連中は少なかった。でも恐らく、皆、ちりぢりになってどこかに喚ばれていったのだと思う」
吉田さんの話を聞いた。そしてあたしは、自分の身に起こったことについて、ぽつりぽつりと話をはじめた。