25.スキル穴
『落ち姫ツィスカは、贄の王子と』が完結しました!(やっと)
もしよかったらそちらも読んでもらえると喜びます♡
「何事だ!」
伯父と父が飛び起きてスイクンのもとへ駆け込む。その剣幕に彼はぴゃっとなっていたけれど、てのひらをかざして見せた。
「ほら、見てみて! 俺のスキル、分別ダストボックス!!! こっちの世界でも出せたんだよ」
その場にいた全員が、残念な眼差しを向ける。
ユウコが眠たそうに目をこすりながら「ごめんね、翠くんは出会ったころからこういうところがあって」と言った。
「俺の目がうずいてるとかよくわからないことを言っていたわ」
彼女は遠い目をし、スイクンは真っ赤になった。
「いやいや、でもさ、この能力があったらめっちゃ稼げると思わん? 超自動的に分別されるんだよ? 分別代行したら絶対儲かると思うんだよ」
「分別代行」
「そう! あ、そういえばステータスも見られるのかな?」
スイクンが目を輝かせながら「ステータスオープン!」と言った。
しかし、そこに書かれていたのは「分別ダストボックス」ではなかったのである。
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香西 翠
コウザイ スイ(男/32歳)
状態:人間
特殊スキル:穴
その他スキル:動画撮影、タイムマネジメント、薬膳料理、アロマ、コミュニケーション、心理学、スタイリスト、フランス料理、DIY
魔法:適性なし
適職:秘書
配偶者:香西有子
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「……は?」
「穴?」
しばらく呆然としていた二人だったけれど、ややあってユウコが吹き出した。
「スキルが! 穴? 穴って」
普段はおっとりとしているユウコだったが、目尻から涙がこぼれるくらい笑い続けて、最後に「ださ」とつぶやいた。
「有子!」
スイクンが涙目で言う。しかし、向こうにいたときと同じように、また半透明の青い板が出現したのだった。
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スキル:穴
説明:
2つの機能を持つスキル。
①分別ダストボックス(∞)
亜空間にごみ箱を設置。そこにものを投げ入れると、自動的に分別・袋詰あるいは梱包され、使用者の居住地(※日本)のゴミ捨て場に送られる。
利用は本人または家族のみ。
②異世界の扉(∞)
異世界につながる穴を開き、自由に行き来ができる。
着地点は十六王国・虹の国ハルカンシェル。
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「はは、異世界の扉だって! ほら! ださくないじゃん。めっちゃチートじゃん」
スイクンが安堵したように目をきらきらさせた。私たちは残念なものを見る目を彼に向けた。
「でも、そうね。つまり、これを使えば自由に行ったり来たりできるということ?」
有子が目を瞬かせる。
「そう、みたいだな……」
「じゃあ、私、これからも二人に会えるの?」
たとえ、向こうの世界に戻れたあとでも。私が尋ねると、二人は感極まったように目をうるませた。
「盛り上がっているところすまない。だが……」
「大変なことを忘れていたぞ」
「なんだよう、チーム妖精の感動のシーンだぞ」
スイクンが文句を言うが、伯父と父は真剣だ。
「──あの女がいない」
全員がはっとする。マイア・クレイの姿を、私たちはいつから見ていなかったのだろう。私たちの間に、緊張が走った。