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水乙女と片づけ妖精ライローネ  作者: 三條 凛花
第3章 はじめましての再会
24/27

24.鳥の棲家へ

 私は困惑した。目の前には大勢の人、人、人……。皆黒や茶色の髪をしていて、身につけているものは廃墟街にあるような服たち。


「アリス先生、素晴らしかったです!」


 黒いワンピースを着た、四十代くらいの女性が立ち上がって拍手をする。困惑していると、ふとユウコがいないことに気がついた。そして、誰かが私の腕を掴んでいる──?


 驚いてそちらを見ると、どこかで見たことのある女性が立っていた。長い黒髪がさらりと肩にかかる。少し吊り目がちの瞳は猫のよう。薄い唇はほんのり桜色に色づいている。


 大人の女性。──でも、これがユウコなのだとすぐにわかった。


「な、なにが起こっているの」


 ユウコが小声でつぶやいた。私はわからない、と返す。


「こんなサプライズ動画があったなんて……」


 女性はあいも変わらず涙を流している。


「とてもクオリティが高かったわね」


「演者の方たちもとても上手でしたし……」


「すごいわ。あの方たち。髪がとても自然に馴染んでいるように見えるけれど、ウィッグなのかしら?」


 私を見てそう口にする人もいる。


「今流行の異世界転生でしょう? 先生たちが消えたり出てきたりする演出といい、手が凝っていましたね」


「本当、きょうは来られてよかった」






「……っ、楽しんでいただけたようで、何よりです!」


 男性の声が響く。驚いてふらりと身体が傾いだ。ノエルが支えてくれる。顔の見えないその人は、ふわふわとした髪の毛で、少し日に焼けた背の高い男の人だった。


有子(ありす)の出版記念パーティーだけで観られるサプライズの特典映像なんです。どうかご内密に!」


 どっと笑いが起こる。


「もったいないわあ。新しいことなんだもの、もっと外に向けてやったらいいのに」


「試作段階でして」


 男性がうさんくさい笑顔で言う。


 その軽い感じに、ああ、この人はスイクンなのだと気がついた。


 スイクンがうまくその場を収め、なんだか偉そうな人たちにぺこぺこし、私たちは皆、鉄の馬車に押し込まれたのだった。


 だから、私たちを見て呆然としていた人間がいたことなど、気づきもしなかった。





「翠くん、戻ってこられたね」


「ああ、でも……」


 ユウコとスイクンは、そう言いながらこちらを振り返った。


「……っ、なんだここは!」


 前の席には、普段の理知的な雰囲気をかなぐり捨てて窓に貼り付いている伯父。窓の向こうには、さまざまな色や形の鉄の馬車が、ものすごいスピードで行き交っている。


 水底の塔を遥かに超えるような高さの建物が群れるように建っているし、巨大な橋は観たことのない素材でできている。


 その隣に座る父は固まって真っ白な顔になり、私の隣にいるノエルは興味津々といった様子だ。



 ややあって、私たちは二人の住まいだという場所にたどり着いた。


 そこは、私が住んでいた塔のような建物に似ているが、その中のひと部屋だった。


「とても……慎ましい屋敷だな」


 伯父が言い、父がその背中をつねる。


「これでもこっちの世界だとそこそこの場所なんだけどねえ」


 スイクンがのんびりした顔で言い、人数分の紅茶を淹れてくれた。


「……!」


 父が顔を輝かせる。


「これは苺のフレーバーティーよ。翠くんって資格マニアでね、今は紅茶関連の資格を取ろうとしているの」


 ユウコがおっとりと言った。


 彼女はきりりとした黒っぽい服から、ゆったりとした丈の長いワンピースに着替えていた。


「ああ……三ヶ月もあちらにいたというのに、ほんの一瞬だったわね」


 ユウコがしみじみと言った。


「それで? 君たちはこれからどうするんだ?」


 私たち四人は黙り込んだ。どうすればいいのか、さっぱりわからなかったからだ。


「まあいいさ。戸籍の問題は気になるけれど……いざとなったら俺たちが養ってあげよう」


 スイクンが鷹揚に言い、伯父と父は深く頭を下げた。






 けれども、その問題はあっさりと解決したのである。


「使えたああああああああああ!」


 夜中、突如として響いた叫び声によって。

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