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水乙女と片づけ妖精ライローネ  作者: 三條 凛花
第3章 はじめましての再会
22/27

22.恋とライローネ

 私は、以前ユウコがスキルで作ってくれた「れいぞうこ」から食材を取り出した。これは廃墟街の”すーぱーまーけっと”と繋がっており、望む食材を取り出せる特別製なのだ。


 みじん切りにした玉ねぎ、合いびき肉、卵、パン粉、牛乳、ガーリックパウダー、塩、胡椒。すべてをよく練り混ぜる。


 ひとつずつボール状にまるめて、揚げ焼きにしていく。


 野菜も少し。玉ねぎは絶対に入れたい。ある程度肉に火が通ったら、油を吸い取り、トマトジュースを入れて煮込んでいく。


 追加のガーリックパウダー、ほんの少しの酢、スープの素、そばつゆなどを加えて煮込む。


 仕上げに粉チーズとパセリ。ミートボールのトマト煮込みが完成した。




「すごいわ……。本当にあなたは筋がいいわね。私はどうやっても黒焦げになるのに」


 料理する様子を見ていたユウコがしみじみと言った。


 ほめられたのがうれしくて、思わずくしゃりと笑顔になってしまう。


 スープは”紙パック製”のすでに出来上がっているコーンスープを。サラダは今日はアボカド、卵、チキンといった具だくさんのものを用意した。


 あともう一品くらい用意したい。




 ズッキーニを薄切りにしていく。それから塩を振ってしばらくおいておく。


 すると、みずみずしくハリがあったズッキーニがしんなりとやわらかくなるので、ぎゅっと水けを絞る。


 それからオリーブ油、ガーリックパウダー、塩麹、粉チーズを合わせたものでよく和えた。





「そういえば、スイクンとユウコは、どうして夫婦になったの?」


「え?」


 私が訊くと、ユウコは照れたようにもじもじとしはじめた。


「──私たちは、なんというか、一緒にいるのが当たり前だったというか……」


「? 二人は結構年の差があるよね? ユウコたちの世界では、学校で年の離れた人とも一緒に過ごすものなの?」


「あ、違うのよ。ええと、何から話したらいいのかしら……。私、話すのがとても苦手なの。仕事で話す時はね、いつも事前にメモを作って、何度も練習しているのよ……それで、私たちがどうして一緒になったか?」


「そう!」


「あのね、以前話した、私が自分の家を片づけたときのことを覚えている?」


「うん。お母さんが出てこなくて……って話してたよね」


「そう。それで、私は家じゅうのものをとにかくゴミ袋に詰めたの。分別とか考えないで、なにもかも。そうして子どもだったから、ゴミを出す日が決まっている事も知らなくて、ただゴミ捨て場に置いておけばいいんだって思ってた」


 ユウコは少し悲しそうな顔をする。


「それでね、ご近所でマナーのなっていない家だ!ってなったみたいで……。見かねてうちに使わされたのが翠くんだったの。彼は町会長の孫だったから」


「じゃあ、それがスイクンとの出会い?」


 私はうなずく。


「ゴミをたくさん詰めたといっても、本当に年季の入った汚屋敷だったわ。だから、玄関を開けて私と、家の中を見た翠くんは、心底驚いた顔をしていた。そして、すぐに状況を悟ったのでしょうね。こっそりと手伝ってくれるようになったの」


「こっそり?」


「そう。たくさんの人が介入したら、母がどんな行動に出るかわからなかった。後から聞いたらそう言ってたわ」


「何を手伝ってくれたの? ごはん?」


 スイクンの教えてくれる料理を思い返して訊いた。


「それもあるけれど……。あのね、私がとにかく詰め込んだごみを、一旦庭に運び出してね、それをきちんと分別し直して、ゴミ捨て場まで運んでくれたのが翠くんだった。

 彼がいなかったら、私はたぶん大人たちに怒られて、片づけるのをやめてしまっていたのかも」


 なんとなく、スイクンのスキルが分別だった理由がわかった気がした。


「あれは私が七歳のころだったから……翠くんは中学生になったばかり。勉強も部活も、遊んだりも、いろいろしたかっただろうに、私のような子どもをたくさん助けてくれたの。もちろん、親戚に助けを求めたこともあったのよ? でも、助けてくれたのは彼だけだった」


 ユウコがしんみりとした表情で言う。


「家が片づくまでに一年以上かかったわ。その間も、その後も、翠くんはよく家に来てごはんを作ってくれた。勉強を見てくれたり、ときには母に意見することもあった。──そんな人を好きにならない理由がなかったわ」





 そのとき、話していたユウコの視線が動いた。


 その先ではマイア・クレイがのろのろと身体を起こすところだった。


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