22.恋とライローネ
私は、以前ユウコがスキルで作ってくれた「れいぞうこ」から食材を取り出した。これは廃墟街の”すーぱーまーけっと”と繋がっており、望む食材を取り出せる特別製なのだ。
みじん切りにした玉ねぎ、合いびき肉、卵、パン粉、牛乳、ガーリックパウダー、塩、胡椒。すべてをよく練り混ぜる。
ひとつずつボール状にまるめて、揚げ焼きにしていく。
野菜も少し。玉ねぎは絶対に入れたい。ある程度肉に火が通ったら、油を吸い取り、トマトジュースを入れて煮込んでいく。
追加のガーリックパウダー、ほんの少しの酢、スープの素、そばつゆなどを加えて煮込む。
仕上げに粉チーズとパセリ。ミートボールのトマト煮込みが完成した。
「すごいわ……。本当にあなたは筋がいいわね。私はどうやっても黒焦げになるのに」
料理する様子を見ていたユウコがしみじみと言った。
ほめられたのがうれしくて、思わずくしゃりと笑顔になってしまう。
スープは”紙パック製”のすでに出来上がっているコーンスープを。サラダは今日はアボカド、卵、チキンといった具だくさんのものを用意した。
あともう一品くらい用意したい。
ズッキーニを薄切りにしていく。それから塩を振ってしばらくおいておく。
すると、みずみずしくハリがあったズッキーニがしんなりとやわらかくなるので、ぎゅっと水けを絞る。
それからオリーブ油、ガーリックパウダー、塩麹、粉チーズを合わせたものでよく和えた。
「そういえば、スイクンとユウコは、どうして夫婦になったの?」
「え?」
私が訊くと、ユウコは照れたようにもじもじとしはじめた。
「──私たちは、なんというか、一緒にいるのが当たり前だったというか……」
「? 二人は結構年の差があるよね? ユウコたちの世界では、学校で年の離れた人とも一緒に過ごすものなの?」
「あ、違うのよ。ええと、何から話したらいいのかしら……。私、話すのがとても苦手なの。仕事で話す時はね、いつも事前にメモを作って、何度も練習しているのよ……それで、私たちがどうして一緒になったか?」
「そう!」
「あのね、以前話した、私が自分の家を片づけたときのことを覚えている?」
「うん。お母さんが出てこなくて……って話してたよね」
「そう。それで、私は家じゅうのものをとにかくゴミ袋に詰めたの。分別とか考えないで、なにもかも。そうして子どもだったから、ゴミを出す日が決まっている事も知らなくて、ただゴミ捨て場に置いておけばいいんだって思ってた」
ユウコは少し悲しそうな顔をする。
「それでね、ご近所でマナーのなっていない家だ!ってなったみたいで……。見かねてうちに使わされたのが翠くんだったの。彼は町会長の孫だったから」
「じゃあ、それがスイクンとの出会い?」
私はうなずく。
「ゴミをたくさん詰めたといっても、本当に年季の入った汚屋敷だったわ。だから、玄関を開けて私と、家の中を見た翠くんは、心底驚いた顔をしていた。そして、すぐに状況を悟ったのでしょうね。こっそりと手伝ってくれるようになったの」
「こっそり?」
「そう。たくさんの人が介入したら、母がどんな行動に出るかわからなかった。後から聞いたらそう言ってたわ」
「何を手伝ってくれたの? ごはん?」
スイクンの教えてくれる料理を思い返して訊いた。
「それもあるけれど……。あのね、私がとにかく詰め込んだごみを、一旦庭に運び出してね、それをきちんと分別し直して、ゴミ捨て場まで運んでくれたのが翠くんだった。
彼がいなかったら、私はたぶん大人たちに怒られて、片づけるのをやめてしまっていたのかも」
なんとなく、スイクンのスキルが分別だった理由がわかった気がした。
「あれは私が七歳のころだったから……翠くんは中学生になったばかり。勉強も部活も、遊んだりも、いろいろしたかっただろうに、私のような子どもをたくさん助けてくれたの。もちろん、親戚に助けを求めたこともあったのよ? でも、助けてくれたのは彼だけだった」
ユウコがしんみりとした表情で言う。
「家が片づくまでに一年以上かかったわ。その間も、その後も、翠くんはよく家に来てごはんを作ってくれた。勉強を見てくれたり、ときには母に意見することもあった。──そんな人を好きにならない理由がなかったわ」
そのとき、話していたユウコの視線が動いた。
その先ではマイア・クレイがのろのろと身体を起こすところだった。